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【Wine ワイン】2022 Pete's Pure Pinot Grigio

【Wine ワイン】2022 Pete's Pure Pinot Grigio

穏やかな酸とフレッシュでマイルドな果実味

楽天
https://a.r10.to/huWzaG

■Producer (生産者)
Pete's Pure

■Region / Country(地域 / 生産国)
Murray Darling / Australia

■Variety (葡萄品種)
Pinot Grigio
Chardonnay
Colombard

■Pairing (ペアリング)

■生産地概要
■Australia

■プロフィール
 オーストラリアの国土の広さ(769万km²)は、ヨーロッパ全体のおおよそ7割に匹敵する。ブドウ栽培地域は、国の南半分にあたる南緯31度から43度の間に帯状に分布し、東端のニュー・サウス・ウェールズ州から西端の西オーストラリア州まで3,000km超に渡って、ワイン産地が点在している。ブドウ栽培面積の合計は14万6,244ha(2019年)で、ボルドーより多く、カリフォルニアより少ない。
 各産地は様々な土壌特性をもち、異なる気候区分に分類される。得意とするブドウ品種も異なり、同一の品種であっても味わいには違いがみられる。代表品種シラーズも、温暖地域から冷涼地域、粘土質から花崗岩(かこうがん)質まで、さらにヴィオニエとの混醸など、様々なスタイルがみられる。広い国土に点在するワイン産地故に、「多様性」豊かなワインとなっている。
 それらの産地には、最も大きな「州(State)」「地域(Zone)」から「地区(Region)」「小地区(Sub-region)」まで、「地理的呼称(G.I.= Geographical Indication)」地域が、114カ所定められている(2020年現在)。
 ワイン生産量は14,800,000hℓ(2020-21年)となっている。人口(2,576万人)規模から勘案して国内消費量には自ずと限界があり、1,000社以上が世界100ヶ国以上へオーストラリアワインをゆしゅつしている。
 ただ、近年の気候変動や地球温暖化による干ばつの頻発、極端な気象現象を踏まえ、ワイン生産業界は将来の栽培面積が増えることを予測していない。一番の障害となっているのは、使用可能な「水」の恵みが限られている点である。コスト上昇が顕著な灌漑用水を使うブドウ栽培は、安価なワイン生産を困難にしている。チリやスペインなどとの国際競争で、価格競争力を失いつつある低価格ワイン用の畑は採算が合わなくなり、再編され、栽培面積は全体に横ばいから縮小の状況にある。一方、灌漑用水に過度に頼ることのない中高級ワインの産地は、大きな水の問題は抱えていない。
 2021年のワイナリー数は2,156社で、過去最高を記録した2014年(2,573社)以降、減少を続けている。
 The National Vintage Surveyのヴィンテージ2020レポートによると、ブドウ破砕量5,000t以上のワイン生産者は36社で、全生産量の90%を占める。一方、ブドウ破砕量500t未満の小規模生産者数は全体の8割を占めるが、これらのワイナリーの生産量を合計しても全生産量の3%未満である。
 このことは90年代末から2000年代初めにかけて、大手ワイナリーの再編が進んだ一方で、家族経営の中小ワイナリーが注目を浴びるようになったこと、「個人」による、個性的な魅力を兼ね備えたワイン造りが隆盛していることを表している。大手ワイナリーの醸造技術者が独立したり、ブドウ農家の子息がワイン造りを始めたり、都市で資金を蓄えたビジネスマンが自ら醸造家としてワイナリーを興すなど、「ライフスタイル」の選択肢として、ブドウ栽培ワイン造りを選び取る、新しい現象が現在のオーストラリアワインを物語っている。
 オーストラリアワインは、日本を含めた世界の輸出市場で品質の安定した「量販ブランドワイン」や「ファインワイン」の生産国として、一定のイメージを築きあげてきた。カ強い果実の豊かなバロッサ・ヴァレーのシラーズから、寒冷なタスマニアの瓶内二次発酵スパークリング、若い造り手の間で起きている「ナチュラル・ワイン・ムーヴメント」までを、「オーストラリア」という大きな括りのなかで、どのように新しいメッセージを発信したらよいのか腐心している。
 「多様な産地」「大多数の中小生産者」「先進的な研究・技術開発力」「多彩で冒険的なワイン造り」は、認知度に濃淡はあるものの徐々に輸出市場で理解が進んでいる。
 オーストラリアは世界第5位のワイン輸出国で、 2020~21年の総輸出額は26億豪ドル、6億9300万ℓのワインが輸出された。上位輸出先は、中国(24%)、英国(18%)、アメリカ(16%)、香港(7%)、カナダ(7%)となっている。
 2015年12月に発効した中豪自由貿易協定 (ChAFTA)によって、ワインに対する14~20%の関税が2019年1月1日までに撤廃されたことが追い風となり、中国本土が全体の40%を占めるオーストラリア最大のワイン輸出国となっていた。しかし、オーストラリアが2020年新型コロナウイルスの起源調査要求を国際社会に働きかけたことで両国間の貿易摩擦に発展し、中国は2020年11月、「2021年3月より5年間、2ℓ以下の瓶詰め豪産ワインに218.4%の関税を課す」ことを発表した。これによりコロナ禍でも堅調だったオーストラリアワインの輸出は減少に転じ、苦戦を強いられている。2022年3月末までの12ヵ月間で、総輸出額26%減の20億5,000万ドル、輸出量は13%減の6億2,800万ℓとなった。日本はオーストラリアワインにとって輸出国第8位、2021年は前年比5.8%プラスとなっており、香港に次いで北東アジア圏で中国本土のマイナス分を補う重要マーケットとなっている。
 オーストラリアワイン産業全体としての環境保全に関するプログラム「Sustainable Winegrowing Australia サステイナブル・ワイン・グローイング・オーストラリア」は、ブドウ栽培者やワイン生産者が環境、社会、経済面での持続可能性を実証し、継続的に改善していくことを目的とし、オーストラリアワイン研究所(AWRI)が運営を行っている。世界各国での取り組みや国連の持続可能な開発目標をモデルに構築され、毎年見直しが行われている。2020年9月には新しい認証マークの運用がスタートした。

2021年ヴィンテージレポート
 2021年のオーストラリア産ワイン用ブドウの破砕量は203万tとなる見込みで、2007年以降最低となった2020年(154万t)より13%増、過去10年の平均値と比べても17%増、過去最大を記録した。ほとんどの州で完璧に近い生育条件に恵まれ、2019~20年の夏は観測史上2番目に暑く乾燥したシーズンだったが、2020~21年はラニーニャ現象の影響10年ぶりの冷夏となり、平年より0.28℃気温が低くなった。熱波が少なく、適切な時期に雨が降ったため、ブドウは最適に成熟し、また、病害のプレッシャーがなかったため、健全な果実が得られ、結果的にワインの品質は潜在的に高いと期待できる。


■歴史

■18世紀後半〜第二次世界大戦まで
 オーストラリアに最初にワイン用ブドウ樹が持ち込まれたのは、1788年。ニュー・サウス・ウェールズ州の初代総督だった英国海軍Arthur Phillip アーサー・フィリップ大佐が、南アフリカの喜望峰とブラジルからシドニーにもたらしたものだった。これが今日までの230年超にわたるワイン造りの最初の一歩となった。
 その後、ブドウ栽培は内陸部へ移動し、1825年にはJames Busby ジュームズ・バズビーによってニュー・サウス・ウェールズ州ハンター・ヴァレーに本格的なブドウ園が開設される。その後、1840年ごろまでにタスマニア州、ヴィクトリア州、西オーストラリア州、南オーストラリア州へと商業的なブドウ栽培ワイン生産が広まっていった。「オーストラリアのワイン用ブドウ栽培の父」と形容され、重要な遺産を残したのは、英国移民で当時ブドウ栽培研究指導にあたった前述のジェームズ・バズビーである。1831年に、4ヵ月かけて欧州をめぐりブドウ樹・枝合わせ680本を入手し、これを「王立シドニー植物園」で栽培した。フランス・モンペリエの植物園で入手したものが、主体だとされている。後にバズビーがもたらしたブドウ樹が他の産地に拡散し、ブドウ栽培の礎を築くことになる。「バズビー・クローン」の一例として、豪州の多くのピノ・ノワール栽培で用いられている「MV6」があげられる。ブルゴーニュ「クロ・ド・ヴージョ」の畑のものとされ、果実のアロマは穏やかであるものの、優れた骨格をもつクローンとして国内で特徴づけられている。
 1840年代には、バロッサ・ヴァレーにバイエルン出身のJohan Gramp ヨハン・グランプや、英国出身のSamuel Smith サミュエル・スミスが入植し、彼らはその風土がワイン造りに適していることにいち早く気付いた。 前者はJacobs Creek ジェイコブス・クリークを、 後者はYalumba ヤルンバを設立し、オーストラリアを代表するワイン産地の礎を築いた。 この時代、プロイセンから宗教迫害を逃れてシレジア人が多く入植しており、バロッサにドイツ文化を色濃く伝え残している。 比較的冷涼な隣のクレア・ヴァレーやイーデン・ヴァレーにリースリングが植えられ、屈指のリースリング産地となったのは、そのためである。バロッサやクレアの土地ワイナリーにドイツ名が多いのも、ドイツ系移民の影響である。
 スワン・ヴァレーには旧ユーゴスラビア周辺からの移民、リヴァーランドやグリフィス周辺には第二次大戦後のイタリア移民など、当然ながらワイン造りの基礎はヨーロッパの移民たちが築いたものだった。
 1877年、ヴィクトリア州ジロング近郊でフィロキセラが発見される。この頃から、ブドウ栽培ワイン醸造は、南オーストラリア州に傾斜していく。しかしながら興味深いのは、当時植えられたフィロキセラ禍以前のブドウ古樹がヴィクトリア州、南オーストラリア州、ニュー・サウス・ウェールズ州にも数多く現存し、いまだにそれらのブドウからワインが造られていることである。
 ヴィクトリア州ゴールバーン・ヴァレーにある「タビルク」の1860年植栽のシラーズは、現在もワインを生み出しており、あまりに有名である。砂地であるため、フィロキセラが生息できなかったと考えられている。近年記録が更新され、バロッサ・ヴァレーの「Langmail Winery ラングメール・ワイナリー」が所有する1843年植栽のシラーズが、オーストラリア最古のワイン用ブドウだとされている。なお南オーストラリア州のワイン産地は、いまだにフィロキセラの被害を受けた経験がなく、他州からの来訪者が畑に入る場合は注意が必要である。
 1880年代以降、ワイン造りのトレンドは、ドライなテーブルワインから酒精強化ワインへと比重を変えていく。ポルトガルのポートワイン産地がフィロキセラ禍で大きなダメージを受け、その重要な代替品として英国への輸出が徐々に拡大した。
 1929年以降は、英国の優遇策もあり、輸出に拍車がかかり、その大部分を甘い酒精強化ワインが占めていった。同時に国内市場も、酒精強化ワインで占められるようになる。1930年代にはワイン生産の7割以上が南オーストラリア州に集中し、拠点化していった。

■戦後〜
 第ニ次世界大戦を経て、1950年代以降、消費トレンドは長かった酒精強化ワインの時代から、再びテーブルワインへと変化していく。ドイツの低温発酵技術を導入し、リースリングを使った白ワインが発売され、人気を博した。
 ー方赤ワイン。1940年代後半に、ペンフォールズ社の醸造技術者Max Schubert マックス・シューバートが、シェリー造りの勉強のために欧州に渡る。しかしボルドーの赤ワイン造りに影響を受けた同氏は帰国後、テーブルワインに大きな変化をもたらす。1951年に「Grange Hermitage BINI グランジ・ハーミテージ BINI」(当時の表記のまま)を試験生産する。
 同氏は、オーストラリアならではの赤ワイン造りを発想して、①複数の異なる畑のシラーズを100%用い、②アメリカンオークを使い、③樽内で発酵を終了させ、熟成させた。スタイルの変遷はあるものの、①〜③のプロセスにはオーストラリアの赤ワイン造りのエッセンスが詰まっている。
 しかし50年代前半当時、これを披露すると酷評された。1960年代まで同氏はひっそりと造りつづけざるをえなかった。
 60年代、たまたまペンフォールズに滞在していたフランス人が、セラーにあったこのワインを試飲し「フランスの優れたワインに違いない」と、当時の経営陣の前で絶賛したことが発端で、以後賞を取るなどして、マックス・シューバートによるペンフォールズでのドライ・テーブルワインの生産が本格化する。
 このことは、60年代以降若い世代がワイン飲用に入ってきたことで、オーストラリア人の嗜好が変化したことも反映している。市場は徐々に変わる。量を支えるワインは「Flagon(フラゴン)」と呼ばれる2ℓ入りガラス瓶のジェネリック名ワイン「ホワイト・バーガンディ」「モーゼル」「クラレット」などが主流となっていった。1960年の1人当たりワイン消費量は5.1ℓ、70年には8.2ℓに伸長した。

■2方向のワイン造りの確立
 ペンフォールズのように複数の地域や区画のブドウをアサンブラージュして、ハウススタイルを造るワイン生産者が、今日までワイン生産の主役を務め、隆盛してきた。「マルチ・リージョナル・ブレンド」「マルチ・ディストリクト・ブレンド」と呼ばれ、量販品から「グランジ」のような高級ワインまで、地域や区画の異なる畑・品種を用い、アサンブラージュするワイン造りの手法である。
 その利点は、量販品についてはシャンパーニュ造りに通じる。複数のブドウ産地を用いることで、収穫年による品質のばらつきを少なくし、消費者にいつも同じ味わい、変わらぬハウススタイルを提供することが重要な目的となっている。高級品については、各収穫年の最高の地域・区画のブドウを確保することで、高いレベルの品質維持を目的としている。従っていずれの場合でも、収穫年による供給地やアサンブラージュ比率の違いがみられる。
 一方で単一畑最高峰のシラーズとして、「グランジ」と対極に位置するHenschke(ヘンチキ)社の「Hill of Grace(ヒル・オブ・グレース)」は、豪州の代表品種シラーズを知る上で、好対照を成している。1860年に最初に植樹され、代々受け継がれてきたイーデン・ヴァレーの単一畑「Hill of Grace」のシラーズから、1958年、ヘンチキ家4代目Cyril Henschke シリル・ヘンチキが初めてワインを生産した。現在は5代目Stephen Henschke ステファン・ヘンチキと妻で栽培家のPrue Henschke プルー・ヘンチキがその生産を引き継いでいる。尚、ヘンチキ社は「Hill of Grace」を含めたトップレンジの赤ワインに、2008年以降ガラス栓Vinolok ヴィノロックを採用している。「ブレンド(組み立て構築)主義」と「単一畑(1つのテロワール)主義」の対照は、豪州ワインを知る上で重要な視点である。

■1970年代〜
 70年代に入ると「Cask(カスク)」(1ガロン= 4.5ℓ入り)と呼ばれるバッグイン・ボックス(BIB)が登場し、同時にジェネリック名「シャブリ」「モーゼル」など白ワインに、より消費がシフトしていった。しかし輸出産業としては育っておらず、良質のテーブルワインは国内で消費されていた。
 70年代までの赤ワイン造りは、当時のボルドーのスタイルを手本とし、ピーマン臭の残る青臭いものこそが、カベルネ・ソーヴィニヨンを初めとした赤ワインの美点とされていた。当時品評会の賞を獲得しているワインには、ピーマン臭が残っている。アルコール分は11〜12%程度と低かった。しかしこれらは、消費者から古くさいスタイルとして、人気を失っていく。これにより生産過剰が露呈し、政府は80年代に抜根政策を実施している。
 代わりに80年代に入ると、冷涼な産地のピノ・ノワールとシャルドネが人気を集め始めた。タスマニア、モーニントン・ペニンシュラ、アデレード・ヒルズなどのワインが、最初に注目を得るのは、この頃である。
 90年代に入ると、ワイン産業は大きなうねりとともに「開花」していく。ワインは、世界の潮流と市場拡大に合わせて、より果実の充実成熟を目指すようになる。また94年にEUとの取り決めで、「ジェネリック名表示」を禁止したことで、「ブドウ品種表示」のワインが主流になっていく。
 90年代末には「シラーズ」が質・量ともに同国を代表する品種として、国内外で捉えられるようになる。ワイン・スペクテーター誌や批評家ロバート・パーカー氏が評価したおかげで、米国輪出の拡大はもちろん、国内でも人気が高まる。これは当時、米国カリフォルニア州にとってのジンファンデル、アルゼンチンにとってのマルベックのような、地域を特微づける「独自品種」を見出そうとする世界的潮流に合致していた。
 さらに米国のワインジャーナリズムの影響を強く受け、完熟、超熱したブドウへの傾倒がエスカレートしていく。これに伴いアルコール分も14%を超えるものが普通に見られるようになっていく。
 また、ワイン産業の構造を見る上でも、90年代は重要な期間だった。
 当時最大手で、(ペンフォールズ)(ウィンズ・クナワラ)など多数の有力ワイナリーを擁する「サウス・コープ」社、豪州のビールメーカー「フォスターズ」のワイン子会社であり、(ウルフ・ブラス)(ミルダラ)などをもつ「ミルダラ・ブラス」社、「BRLハーディ」社、仏ペルノ・リカールが所有し(ジェイコブス・クリーク)の英国輸出を成功させていた「オーランド・ウィンダム」社、それに米国への輪出で成功していた「ローズマウント」社の、いわゆる「ビッグ5」がワイン業界を牽引し、輸出拡大を通して健康的な競争を調歌していた。この後に続く「業界再編」を迎える2000年までの十数年は、豪州ワイン業界の「青春」といえる時代だった。

■2000〜2005年再編の時代
 やがて世界的なワイナリーの再編の波が、オーストラリアにも押し寄せてくる。世界の他のワイナリーや世界的酒類企業がそうだったように、2000年以降、買収や合併によるワイナリーの巨大化こそが、事業発展の重要な鍵であるかのように、豪州の大手ワイン生産者も再編へ突き進む。
 まず、2000年、ミルダラ・ブラスがベリンジャー(米国カリフォルニア州)を買収し、「ベリンジャー・ブラス」となる。
 2001年には、サウスコープがローズマウントを買収する。しかし実態は、買収後にサウスコープ株を大量に保有したローズマウント側経営陣が、サウスコープを実質的に経営する。買収後の経営はうまくいかず、英国市場ではその後、「1本買うと、もう1本無料(Buy one、get one free)」といった安売りがスーパーで横行するようになる。
 2003年、コンステレーション・ブランズ(旧カナンデグア)がBRLハーディを買収する。これによりコンステレーションは、E&Jガロ社(米国)を抜き、世界最大のワイン会社となった。しかしその後2011年、事業再構築の目的で、買収したオーストラリアのワイン事業の株式80%を、シドニーの投資ファンドに売却した。そのユニットの現社名は「Accolade Wines アコレード・ワインズ」となっている。
 2005年、フォスターズは経営不振に陥っていたサウスコープを買収し、「ベリンジャー・ブラス」にすべてのブランドを収め、「フォスターズ・ワイン・エステーツ」に改名・改組した。2010年に社名を「Treasury Wine Estates(トレジャリー・ワイン・エステーツ)」と改名、ビール事業から切り離し、個別のワイン会社として存在している。
 この再編劇でワイン産業が疲弊している中、新たな「極」として登場してきたのが、(イエローテイル)生産元の家族経営ワイナリー「Casella Family Brands(カセラ・ファミリー・ブランズ)」だった。2001年に(イエローテイル)を米国で発売後、わずか5年で800万ケースを販売した。2014年には、バロッサ・ヴァレーの有名ブランド「Peter Lehman」を、2003年に買収したカリフォルニアHess Collectionを所有するスイス人オーナーから買収。バロッサの伝統あるブランドの所有権をオーストラリアに取り戻したと話題になった。また2016年、ラザグレンで150年の歴史ある「Morris Wines」を所有していたペルノ・リカールがブランドの売却を発表した際にも買収に名乗りをあげ、再び伝統あるブランドを救済している。大手ワイナリー間の再編が進行したことで、かえって中小の家族経営ワイナリーが市場で存在感を示すようになった。
 2021年現在、オーストラリア大手トップ3は、Treasury Wine Estates 、Accolade Wines。Casella Family Brandsである。

■スクリュー栓拡大の「引き金」
 オーストラリア発の生産技術の刷新で最も重要なのは、クレア・ヴァレーのワイン生産者13社が2000年ヴィンテージから、白ワインにスクリュー栓(Stelvin®︎ ステルヴァン)を採用することを一致して決めたことだ。この中には、クレア・ヴァレーを代表するリースリング生産者「Grosset グロセット」が含まれる。この宣言を皮切りに、その後オーストラリア、ニュージーランド、チリ、フランス(シャブリ)、ドイツなどで急速にStelvin®︎が普及していく。世界的なワイン造りの文脈において、アロマを大切にする白ワイン造りで、コルクからスクリューへと「栓」が変更されていく重要な分岐点となった。

■多彩なワイン造りの開花と「ナチュラル・ワイン・ムーヴメント」
 現在、ブドウ破砕量500t未満の中小ワイナリーが2,000社超を占める。大部分は、設立間もない若いワイナリーである。そのワイン造りは多彩で、シラーズを例にあげても個性的なスタイルがよくみられる。「力強く、熟したプラム、チョコレート、胡椒、アメリカンオークの甘い香り」を伝統的なスタイルとするなら、「アロマ重視の冷涼地栽培」「ヴィオニエとの混醸」「全房発酵」「自然発酵」「より長い発酵マセレーション」「高いフレンチオーク比率」「大樽による熟成」など、様々な表現がされるようになっている。これら現代的シラーズは、ローヌ地方の伝統技術を多数導入しているところが、逆説的で興味深い。
 その延長線上で、「ナチュラル・ワイン」の若い造り手が多数登場している。自然発酵で、亜硫酸(二酸化イオウ)をごく少量あるいは、使わず、瓶詰めされたもので、若い消費者に人気を得るようになっている。

(Lucy Margaux ルーシー・マルゴーやJauma ヤウマなどBasket Range バスケット・レンジの)

ブームを牽引するワインは日本へも盛んに輸出されている。品質は玉石混交で、既存の「醸造学」重視の醸造技術者からは、批判を浴びているところもる一方で、豪州のワイン造りワイン文化に新しい側面を与えている。
 また、気候変動の影響受け、高温・乾燥につよい地中海原産品種や晩熟品種(Altenative品種)の生産が各地で盛んになっている。

■気候風土
  オーストラリアは広大な大陸の東南部に主要なワイン産地が集中する。おおむね、温暖で冬に降雨がある地中海性気候に分類されるが、南部沿岸地域やタスマニアは、南極からの冷たい海の影響を受け、冷涼な気候となる。NSW州の沿岸部は高温で生育シーズンを通して雨が問題となる。クイーンズランド州の緯度が低い産地では、グレードディバイディング山脈の標高を生かしたブドウ栽培が行われている。インド洋に面した西オーストラリア州のマーガレット・リヴァーは、穏やかな海洋性気候となる。内陸の産地は、高温で乾燥しているため、灌漑が不可欠だ。
 オーストラリアは世界7大陸の中で最も古い大陸で、様々な地質年代の土壌が各産地にみられる。鉄鉱石などの鉱山資源にも恵まれている。
 土壌の種類は豊富で、土壌が産地を象徴する場合がしばしばある。クナワラやライムストーン・コーストのTerra Rossa(テラロッサ)土壌(鉄分を含んだ赤い表土と、白い石灰岩質土壌から成る)はカベルネ・ソーヴィニヨンに好適とされている。マセドン・レーンジズの岩山に分布する花崗岩質の土壌、マクラーレン・ヴェイルの砂質ローム土壌、モーニントン・ペニンシュラの粘土質と火山性土壌、タスマニアで特徴的な水はけの良い「Jurassic dolerite(ジュラシック・ドレライト)(ジュラ紀の粗粒玄武岩)」など枚挙に暇がない。
 ワイン生産者の分布で特徴的なのは、ワイナリー間の距離である。欧州のワイン産地のように、畑やワイナリーが「密集」している地域は、限られる。「密集」産地の典型は、クナワラの中心域(東西2km・南北16km)、ヤラ・ヴァレー、マーガレット・リヴァー、バロッサ・ヴァレー、クレア・ヴァレー、ピーチワースなどがあげられる。
 しかし多くのワイン産地では、同じG.I.であっても隣のワイナリーとの距離が10km以上離れているようなケースが頻繁にみられる。森林・牧羊牧畜・穀物畑の合間にブドウ畑が突如として現れる、というのが豪州ワイン産地の風景である。有力生産者の周囲であっても、他のワイナリーが見あたらないのは普通である。
この要因は、
1.灌漑用水の使用が制限されている場合がある。
2.同じ土地に、牧羊・牧畜や穀物栽培をセットし、収入のリスク分散を図っている(欧州でいう三圃式(さんほしき)農業にー部類似)。
3.土地が広い分、わざわざ他者との距離を近づける必要がない。
 などがあげられる。隔絶された土地から有力なワインが登場する点が、豪州ワインの中小生産者のあり方を特徴づけている。
 なお、ブドウ栽培ワイン醸造の教育は、アデレード大学、チャールズ・ステュート大学の二校が双壁をなし、多くの国際的な醸造家栽培家が輩出している。
 またワインの品質向上には、各州で類繁に催される品評会「ショー・システム」が大きく貢献している。「ロイヤル・メルボルン・ワインショー」において仕込みから1年後の赤ワインで競う、「Jimmy Watson Trophy (ジミー・ワトソン・トロフィー)」は、醸造家にとって最も権威ある賞のひとつである。

■食文化とワインサービス
 1997年、香港が英国から中国に返還された。そのタイミングで多くの香港在住者がオーストラリアへと移民した。多数の中華料理人も含まれる。歴史の項でもみたとおり、オーストラリアは140を超える国々から移民を受け入れ、様々な文化を取り入れて発展し続けている。中でも食文化は、現在大きな花を咲かせているところで、世界中の料理が楽しめるだけでなく、それらが融合した料理文化を育んでいる。大きな市場を町中にもつメルボルンは「グルメの都」と形容される。
 この国際色豊かな食文化を象徴するのは、和久田哲也氏によるシドニーの有名レストラン「Tetsuya’s テツヤ」である。オーストラリアの食材を使い、和食の繊細さと様々な国の料理を連想させる多彩な料理を、オーストラリアワインと1組にして、何皿も提供する「デギュステーション・セットメニュー」(ムニュ・デギュスタシオン)のスタイルが特徴である。世界中の料理人に同氏の調理やサービス方法は、大きな影響を与えた。
 メルボルンでは、「Vue de Monde(ヴュー・ド・モンド)」や「Attica アッティカ」といった地元の食材をふんだんに使った洗練された料理が楽しめるファインダイニングがグルメの都をリードしている。

(イギリスの有名レストラン「The Fat Duck(ファットダック)」を率いるレストラングループは、2015年10月メルボルンに「Dinner by Heston Brumenthal(ディナー・バイ・ヘストン・ブルメンタール)」の2号店をオープン。)

 2017年には「世界のベストレストラン50」授賞式がメルボルンで開催された。
 オーストラリアを代表するストリートフードのミートパイやフィッシュ&チップス、 広大な土地で牧草肥育されるアンガス牛のステーキ、 美しい海域で育った新鮮なオイスターやサーモンなどの魚介類、多彩なチーズ、 季節のフルーツや野菜、 ハーブなど、ワイナリー併設のカフェやレストランで提供するところも多く、また、各地のマーケットを見て回るだけでも楽しめる。
 BYO(Bring Your Own =レストランへのワインの持ち込み)は、アルコール販売の免許をもたない飲食店がサービスの一環として始めたもので、広く国中に広がっているユニークなワイン文化となっている。しかし現在では、ワインの品揃えに拘ったレストランやワインバーが増えており、そのような業態ではBYOは一般的ではない。
 豪州の成人一人当たりのワイン消費量は、27.1ℓ(2020年)。

■主なブドウ品種
 栽培されているブドウは、すべてヨーロッパから移植されたもので、オーストラリア固有品種や現地で開発された交配品種はほとんど存在しない。

[ワイン用ブドウ栽培面積とブドウ生産量(2020年)」
(出典:National Vineyard Scan 2019 / National Vintage Report 2020)

[白ブドウ] ブドウ生産量(t) 2020年比 平均価格 (AUD/t)
Chardonnay シャルドネ 385,114 33% 531
Sauvignon Blanc ソーヴィニヨン・ブラン 101,685 15% 677
Pinot Gris ピノ・グリ / Grigio グリージョ 92,809 30% 705
Semillon セミヨン 63,342 24% 466
Muscat Gordo Blanco マスカット・ゴルド・ブランコ 61,275 12% 322
Colombard コロンバール 54,246 13% 324
Muscat BlancàPetits Grains ミュスカ・ブラン・ア・プティ・グラン 22,663 12% 362
Riesling リースリング 21,476 26% 1,096
Prosecco プロセッコ 15,786 53% 952
Gewürztaminer ゲヴュルツトラミネール 9,279 -4% 414
Other White その他の白ブドウ 37,273 11%
合計 864,946 25%



[黒ブドウ] ブドウ生産量(t) 前年比 平均価格 (AUD/t)
Shiraz シラーズ 538,402 41% 878
Cabernet Sauvignon カベルネ・ソーヴィニョン 308,496 36% 787
Merlot メルロ 121,809 26% 591
Pinot Noir ピノ・ノワール 55,335 52% 1,235
Petit Verdot Petit Verdot プティ・ヴェルド 26,700 19% 503
Durif デュリフ 15,610 20% 632
Grenache グルナッシュ 15,579 45% 1,256
Ruby Cabernet ルビー・カベルネ 14,285 -4% 498
Mataro マタロ / Mourvèdre ムールヴェードル 9,552 96% 990
Malbec マルベック 6,534 74% 1,033
その他の黒ブドウ 51,178 36%
合計 1,163,482 37% 833


白ブドウ+黒ブドウ 合計 2,028,428 37% 701

*栽培面積は2015年のデータ使用

[オーストラリアワイン州別ワイン用ブドウ栽培面積(2019年)とブドウ生産量(2021年)](三典:National Vineyard Scan 2019 / National Vintage Report 2020)


2019年栽培面積(ha) 2021年ブドウ生産量(t)
オーストラリア合計 146,244 2,028,428
南オーストラリア州 76,292 1,060,000 (52%)
ニュー・サウス・ウェールズ州 34,641 580,000 (29%)
ヴィクトリア州 22,151 330,000 (17%)
西オーストラリア州 10,784 40,074 (<1%)
タスマニア州 1,702 10,800 (<1%)
クイーンズランド州に 674 365 (<1%)

 

[オーストラリアワイン州別ワイン用ブドウ栽培面積 (2019年) とブドウ生産量 (2020年)]

(出典: National Vineyard Scan 2019/ National Vintage Report 2020)
栽培面積 (ha) 2019年
ブドウ 生産量2020年
オーストラリア合計
146,244
1,520,608 (t)
南オーストラリア州
76,292
47%
ニュー・サウス・ウェールズ州
34,641
32%
ヴィクトリア州
22,151
17%
西オーストラリア州
10,784
2%
タスマニア州
1,702
1%
クイーンズランド州
674
<1%
*オーストラリア首都特別地域 (ACT)はニュー・サウス・ウェールズ州に 含む。

■ワイン法と品質分類
 1929年に、オーストラリアワインの品質を高め、国際市場における評価を向上させるため、オーストラリア連邦政府(農水林業省)管轄の下に、ワインオーストラリア公社(WAC、旧オーストラリア・ワイン・ブランデー公社)が設立され、オーストラリアワインに関する種々の規定を定めている。
 オーストラリア・ニュージーランド食品基準機関(FSANZ)の食品基準4.5.1(ワイン製造要件)により、アルコール4.5度未満はワインと認められない。また補糖は認められていない。酸化防止剤、保存料の表示が義務付けられ、その番号がラベルに記載される。
220-亜硫酸(ニ酸化硫黄)
200-ソルビン酸
300-アスコルビン酸(ビタミンC)
 なお、2012年1月にオーストラリアワインの輸出許可制度が変更され、従来オーストラリアから輪出されるすべてのワインに課せられてきた輸出前検査が廃止された。しかしながら、100ℓ以上の出荷については従来どおり輪出許可が必要であり、また原料の受渡し、種類、数量、ヴィンテージ、品種、原産地、供給者、顧客などの情報について、より厳格な監査体制が導入されている。

■地理的呼称(Geographical Indications(ジオグラフィック・インデイケーションズ:以下G.I.)について
 G.I.制度は、1980年代後半以降の欧州連合(EC)向け輸出の増加を背景に、ECとのワイン貿易協定(Agreements with the European Community on Trade in Wine アグリーメンツ・ウィズ・ザ・ヨーロピアン・コミュニティ・オン・トレード・イン・ワイン 第6条)ならびに知的財産法・貿易関連事項に関する協定(TRIPS:Agreement on Trade- Related Aspects of Intellectual Property Rights アグリーメント・オン・トレード・リレイテッド・アスペクツ・オブ・インテレクチュアル・プロパティ・ライツ第23条)を遵守するため、1980年のワインオーストラリア公社法(Wine Australia Corporation Act 1980 ワイン・オーストラリア・コーポレーション・アクト1980)第VIB項が改正されて、1993年に導入された。
 その主な目的は、国際法に基づき、特定のG.I.内で収穫された原料ブドウで造られたワインの表示のみに当該G.I.名が使用されるよう、地名の利用を保護し、一方で、表示の信愚性を確保し、消費者の権利を保護することにある。また、法律では「問題になっている地理的呼称(G.I.)以外で製造されたワインについて、関係者による当該G.I.の利用を阻止するための法的手段を提供する」と定められている。この制度により、オーストラリア産地の地域(Zone)、地区(Region)、ならびに小地区(Sub-region)に関する公式な地名と解説が、産地の地図と解説文(地図のグリッド表示や座標、区域の境界線を示す道路や自然の境界標識)により提供されている。
 G.I.を決定する権限は、地理的呼称委員会(Geographical Indications Committee ジオグラフィカル・インディケーションズ・コミッティ= G.I.C.)がもっている。原料ブドウ栽培者、ワイン製造者、栽培者・製造者機関などの申請者からの出願を受けて、G.I.C.は公認の原料ブドウ栽培者機関やワイン製造者機関およびその他必要な機関との協議を経て、G.I.を決定する。ワイン・オーストラリア公社の規定第25項によると、G.I.の決定基準の概要には、以下の事項が含まれる。
*歴史(当該区域の一般史、ブドウ栽培歴、ワイン製造歴)
*地質
*気象条件
*収穫時期
*排水状況
*水源
*標高
*当該地区と地名の伝統的な利用
 G.I.制度は、ヨーロッパの原産地呼称制度に類似しているが、ブドウ栽培とワイン製造方法については、ヨーロッパのように特定の原産地呼称に関連した厳格な規定制約がない分、栽培・醸造面での自由度が高いことが特徴である。

 オーストラリアには、ヴァラエタル・ワインとオーストラリア独自のヴァラエタル・ブレンドワインがある。オーストラリア産ワインのラベル表示については、下記の通り定められている。
(地理的呼称:G.I.の表示)
特定のG.I.で産出されたワインが85%以上含まれている場合、これを表示できる。
 3つ以下のG.I.で産出されたワインが含まれ、その合計が95%以上である場合、これらのG.I.を多い順に表示できる。
(ヴィンテージの表示)
特定のヴィンテージのワインが85%以上含まれている場合、これを表示できる。
(ブドウ品種の表示)
複数のブドウ品種が使用されている場合、原則的には全ての品種を多い順に記載することとなっているが、下記にあてはまる場合は、これが優先される。
・特定のブドウ品種が85%以上含まれる場合は、その品種だけを表示することが可能である。
・20%以上含まれるブドウ品種が3種類以下で、かつその合計が85%以上となる場合、この品種全てを表示する。
・5種類以下のブドウ品種を使用し、各品種が5%以上含まれている場合は、この品種全てを表示する。

 また、ジェネリック・ワインは、これまでライン、モーゼル、クラレット、バーガンディなどヨーロッパの特定産地のワイン名称をつけたものが主に国内向け(輸出用にはDry White、Dry Redなどと表示)に販売されてきたが、2008年12月のEUとの合意により、2010年からこれらの名称は使用が禁止されている。同時にオーストラリアのワイン産地名もEU内で保護されている。
 なお、これまでオーストラリアワイン全体のマーケティング活動や輸出振興の役割を果たしてきた行政機関「ワインオーストラリア公社」(WAC = Wine Australia Corporation ワイン・オーストラリア・コーポレーション)と、ワインの研究開発行政機関「オーストラリア・ブドウ・ワイン研究開発公社」(GWRDC=Grape and Wine Research and Development Corporation グレープ・アンド・ワイン・リサーチ・アンド・デベロップメント・コーポレーション)が2014年7月1日をもって合併した。新組織名は「オーストラリア・ブドウ・ワイン管理局」(AGWA = Australian Grape and Wine Authority)で、本部は旧組織と同じアデレードのナショナル・ワイン・センター(National Wine Centre of Australia ナショナル・ワイン・センター・オブ・オーストラリア)にある。


■ワインの産地と特徴
 主なブドウ栽培地域は2020年7月現在、114のG.I.があり、マレー・ダーリングとスワン・ヒル両G.I.はニューサウス・ウエールズ州とヴィクトリア州にまたがっている。2019年国内ブドウ栽培面積は、南オーストラリア州(52%)、ニュー・サウス・ウェールズ州(24%)、ヴィクトリア州(15%)、西オーストラリア州(7%)、タスマニア州、クィーンズランド州の順である。




①西オーストラリア州Western Australia(WA)
■歴史と成り立ち
 西オーストラリア州は、オーストラリア全体のワイン生産量のわずか2%程度を占めるに過ぎないが、その大部分は比較的高価格帯で占められ、品質は国内でトップクラスに位置づけられる。
 ブドウ栽培が始まったのは英国からの移民により1820年代後半にパース北部、スワン・リヴァー沿いのスワン・ヴァレー周城と推定される。それらの地域から初めてワインが生産されたのは1834年との記録が残っている。
 同州がワイン産地として明確となるのは、Houghton ホートン社がシュナン・ブラン種を使って1937年に生産を開始した「Houghton White Burgundy」が販売を拡大してからのことだった(現在名Hougton White Classic)。樽を使わず、安価にも関わらず、長期熟成する優れた白ワインとして名が知られた。現在ブドウ栽培の中心は、南部のマーガレット・リヴァーやグレート・サザンに移り、パース周辺のワイナリーはこれらの地域に移転したり、ブドウの大部分を南部から運んでワインを生産している。
 主要産地となっているマーガレット・リヴァーやグレート・サザンは、その当初から科学的な裏付けをもって開発が進んだ、世界的にも珍しい産地である。
 西オーストラリア州政府は1955年、より収益性の高い農業雑進を目的に、米国カリフォルニア州UCデイヴィス校のブドウ栽培研究者Harold Olmo ハロルド・オルモ博士に、西豪州のブドウ栽培適性の調査を依頼する(同氏は1940年代、ピノ・ノワールのポマール・クローンを米国にもたらした功績をもつ)。
 博士は1956年、マウント・バーカーやフランクランド・リヴァーなど、西豪州南部一帯がボルドーの気候条件に似て、ブドウ栽培に好適だと報告した。これを受けて1965年、州政府がマウント・バーカーのベッティー・ピアース氏の畑を選び、リースリングとカべルネ・ソーヴィニヨンを植えたのがグレート・サザンのブドウ栽培の始まりだ。この畑は「フォレスト・ヒル・ヴィンヤード」と名付けられ、当時のブドウ樹がいまも健在。リースリングの銘醸畑として知られている。
 西オーストラリア大学の農芸化学者John Gladstonesジョン・グラッドストーンズ博士は、オルモ博士の報告書からそのボルドーと比較した調査方法を知り、これを「マーガレット・リヴァー」に当てはめて、1963年に調査を開始した。きっかけは、親戚が住む同地に訪ねたときに感じた気候の違いだという。マーガレット・リヴァーも栽培適性があることを1966年に発表した。
 グレート・サザンでのブドウ植栽の動きが「報告書」後、緩慢であったのと対照的に、マーガレット・リヴァーの発表後の反応は、素早かった。特にパースや地元に縁のある医師や学者などの動きが急で、1967年「Vasse Felix ヴァス・フェリックス」(心臓病学者トム・カリティ氏)、69年「Moss Wood モスウッド」(医師ビル・バネル氏)、70年「Cape Mentelle ケープ・メンテル」(醸造技術者デイヴィッド・ホーネン氏)、71年「Cullen カレン」(医師ケヴィン・ジョン夫妻)、72年「Leeuwin Estate ルーウィン・エステート」(企業家デニス・ホーガン氏)と、いわゆる「マーガレット・リヴァー創業5生産者」によるブドウ植栽が、矢継ぎ早に始まった。
 ロバート・モンダヴィ氏は72年、新たなワイナリー設立のためにマーガレット・リヴァーに訪れ、自身が優良と判断した土地を見つける。デニス・ホーガン氏所有の牧草地で、売ってくれるよう頼んだが、断られた。ホーガン氏は、モンダヴィ氏の説明を参考に、ワイナリー設立を進めた。以後モンダヴィ氏は、ルーウィン・エステートのために、苗木の選択など重要な助言を長年にわたって行った。
 グレート・サザンの方が11年早く調査結果を出し、3年早くブドウを植栽したが、その後の急速な発展ぶりでマーガレット・リヴァーが、西オーストラリアを代表するカベルネ・ソーヴィニヨンとシャルドネの銘醸地として、国内外に知られるようになった。
 両者の決定的な発展の違いをもたらしたのは、マーガレット・リヴァーが重要な地元消費地パースからより近く、近隣のリゾートとしての役割を担っていること、グレート・サザンはパースから南へ400kmと遠く離れ、その間を巨大な森林により隔絶されていることが大きい。
 西オーストラリア州の2021年収穫量は40,074t(前年比4%増)全体の1.97%を占める。

1.Swan District スワン・ディストリクト

白:シュナン・ブラン、ヴェルデーリョ、シャルドネ、セミヨン
黒:シラーズ、グルナッシュ、カべルネ・ソーヴィニヨン

 西オーストラリア州最古のワイン産地、栽培面積は709ha(2019)。スワン・ディストリクトの中心域であるスワン・ヴァレー(G.I.・サブリージョン)は、1836年、英国軍人によって設立されたHoughton ホートン社の本拠地。英国、ユーゴスラヴィア、イタリア移民により、西オーストラリア最初の産地として確立された。
 地中海性気候で、1月の平均気温は24.3℃と高い。生育期は少雨で乾燥していて、暑い。Fremantle Doctor フリーマントル・ドクターと呼ばれる海風により、暑さが和らげられている。シュナン・ブラン、ヴェルデーリョ、セミヨンによる白ワイン造りの伝統をもつ。酒精強化ワインでも知られる。
 この地域に所在するワイナリーの多くは、マーガレット・リヴァーやグレート・サザンのブドウを用いるようになっている。

2.Perth Hills パース・ヒルズ
白:シャルドネ、シュナン・ブラン、セミヨン
黒:カベルネ・ソーヴィニヨン、シラーズ、メルロ
 パース郊外に位置する。四方に広がる谷間にワイナリーが点在。やや標高が高いおかげで、海風が暑さを和らげ、ブドウの生育を遅らせる効果がある。

3.Margaret River マーガレット・リヴァー
白:シャルドネ、セミヨン、ソーヴィニヨン・ブラン
黒:カベルネ・ソーヴィニヨン、シラーズ、メルロ
 パースから南へ270km。インド洋に突き出た半島「マーガレット・リヴァー」は地中海性気候で、一年を通して温暖。サーフィンの名所としても有名で、人気のリゾート地でもある。
 カベルネ・ソーヴィニヨンとシャルドネで知られる西オーストラリア最有力のファインワイン産地。年間降雨量は約1,200mmと多いが、ブドウの成育期間中(10〜4月)はほとんど雨は降らず、秋冬に集中している。このために、ユーカリの森林は色が濃く、トロピカルな雰囲気が半島全体を覆う。土地の雰囲気も赤ワインのスタイルも、ボルドーというよりは、より「ボルゲリ」や「ナパ」を連想させる。ワイナリー数は200超。セラードア(試飲直売所)を併設するワイナリーは90あり、その多くがレストランを併設する、国内屈指のワイン観光地。
 半島の最も長いところで南北110km、東西の幅は27km。その境界範囲は、オーストラリアのなかでも比較的大きな産地に分類される。栽培面積は5,840ha。優良な畑の土壌は、花崗岩か片麻岩由来の砂利混じりのローム・粘土または砂質で、排水性がよい。
 より暖かい半島の上半分に、黒ブドウが集中している。カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロなどのボルドー系品種、シラーズ、白はシャルドネが栽培され、これらが豪州を代表するファインワインとして、名声を高めてきた。
 産地の範囲があまりに大きく、気候が多様であることから、ジョン・グラッドストーンズ博士はワイン生産者の協力を得て、1999年に産地を6つに区分するサブリージョン案を提案している。海風の通り道となる多数の河川の流れを、小地区化の重要な根拠として作成した。

北部から
Yallingup ヤリンガップ
Carbunup カーブンナップ
wiyabrup ウィリャプラップ
Treeton トリートン
Walldliffeウォルクリフ
Wallcliffe ウォルクリフ
Karridale カリデールに
分けられている。このなかで分かりやすいのは、優良なカベルネ・ソーヴィニヨンの造り手が集中する「ウィリヤブラップ地区」。インド洋から5km程度の内陸に、(Cullen カレン、Vasse Felix ヴァス・フェリックス、Mosss Wood モスウッド、Woodlands ウッドランズ、Sandalford サンダルフォード、Pierro ピエロ、それにCape Mentelle ケープメンテル)の一部畑などが隣接して、集中している。産地の中でも特に温暖なスポットで、ワインは紫や黒系の果実が豊かになる。「カベルネ・ソーヴィニヨンの中心地」と言える。「ウォルクリフ地区」に入ると、やや冷涼になることから、カベルネ・ソーヴィニヨンは、赤い果実の特徴、清涼感が高まる。ワインのスタイルはウィリヤブラップ地区と比較すると、「ボルドー的」になる。
 (また、シャルドネで有名なLeeuwin Estate ルーウィン・エステートも、ウォルクリフ地区。)
 これら2つのエリアは、インド洋の海流・風のおかげで同産地の中でも暖かく、冬でも気温が氷点下を下回ることはない。霜害もほとんど見られない。
 南半分を占める「カリデール地区」は、南氷洋の影響をより強く受け、黒ブドウの完熟は難しくなる。土壌は粘土ロームが多くなり、ソーヴィニヨン・ブランなど白ブドウ中心の産地になる。
 ブドウ破砕量(2021年実績)は40,074tで、国全体の2%にすぎないが、平均単価1,419豪ドル/tは、国全体の701豪ドル/tを大きく上回るプレミアムワイン産地である。
 博士によるサブリージョン化案は、提案後長い年月が経つが、未だに産地内で合意形成し、申請する方向にまでは至っていない。しかしこの区分は、生産者の間でよく用いられている。

4.Great Southern グレート・サザン
白:リースリング、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン
黒:シラーズ、ピノ・ノワール、カベルネ・ソーヴィニヨン
リースリング、シラーズ、ピノ・ノワール、シャルドネ、瓶内二次発酵のスパークリングなどの個性的なファインワイン産地。
 西オーストラリアの南西部一帯は、豊富な雨量のおかげで巨大なユーカリの森林に覆われている。政府により保護。管理されており、開発は許されていない。グレート・サザンは、この巨大な森林の周縁部を開拓してつくられた産地である。最初は林業(木材伐採)から始まり、次いで牧畜業、農業と土地利用されてきた。ワイン産業は前述のとおり、ハロルド・オルモ博士の調査報告から始まった。
 グレート・サザンは、5つの小地区(サブリージョン)
Albany アルバニー
Denmark デンマーク
Frankland River フランクランド・リヴァー
Mount Barker マウント・バーカー
Porongurup ポロングラップ
を包含する巨大な境界をもつ。しかし、実際はその大部分を開発不可の森林が占めている。また周辺の独立したG.I.であるペムバトンやマンジマップも、この森林周縁部を開拓してつくられた産地である。
 パースやマーガレット・リヴァーから、グレート・サザンの5地区に行くには、森林を縦貫する限られた一本道を車で行くか、パースから小型飛行機でアルバニーに飛ぶ方法しかない。各ワイン産地は、森林により都市から分断・隔絶された陸の孤島のようである。
 ワイン産業は、中小規模生産者によるワイン造りと、スワン・ディストリクトやマーガレット・リヴァーのワイナリーへのブドウ供給という、2つの側面をもつ。ブドウ生産量は全体で1万t程度とマーガレット・リヴァーの3分の1程度である。
 ユーカリ原生林の土壌は、「コーヒー・ロック」と通称されるアイアンストーン(ラテライト)で、ブドウ畑の多くがこれと同じ土壌をもつ。鉄分を大量に含むコーヒー豆のような赤茶けた丸い岩石が寄り集まって固まっている。
 沿岸部のデンマークは南氷洋の冷気の影響で非常に冷涼な海洋性気候。マウントバーカー、フランクランド・リヴァーと内陸に入るに従い大陸性気候が強まり、寒暖差の激しい気候となる。温暖な気候を一年通じてもたらすインド洋とは対照的に、南氷洋の影響は、寒く、厳しい。そのおかげで、ブドウは糖度の上昇を抑えながら、酸度高めのまま適熟を得ることが容易。
 ワインは、赤白・品種を問わず、ユーカリ由来のスパイシーさや、堅牢な骨格をもった土地の個性を色濃く反映したものが多数みられる。
 内陸で海の影響が相対的に少ない「フランクランド・リヴァー」は、シラーズの有力産地となっている。強烈なスパイシーさと、ミントの香味を伴う。「堅牢」「強靭」な構成をもつ。また、リースリングの産地としても知られ、(例えば「Frankland Estate Isolation Ridge Vineyard Riesling フランクランド・エステート・アイソレーション・リッジ・ヴィンヤード・リースリング」は、1988年植樹の無灌漑、有機認定の畑から造られ、)熟成のポテンシャルを持ち、国内外で高く評価されている。
 少し南氷洋寄りの「マウント・バーカー」は1965年、グレート・サザンで最初にワイン用ブドウが植えられた地区。リースリングの栽培適性が高い。1965年植栽の畑「フォレスト・ヒル・ヴィンヤード」は、豪州を代表するリースリングの銘醸畑として知られている。南オーストラリア州のクレア・ヴァレーやイーデン・ヴァレーよりも冷涼で、スパイシーで清涼感のある細身のものに仕上がる。長期熟成しても、灯油香(ペトロール)が出ないのが特徴。地元の造り手の間で「牡蛎殻香」と表現する強烈なミネラル感、収穫年によっては力強いタンニンが感じられる。
 南氷洋に近い「デンマーク」は、冷たい海風の影響を受け、冷涼な地区。ピノ・ノワール、シャルドネ、スパークリングワインの生産者が集まる。
 「ボロングラップ」は、標高650mの岩山の名前で、この麓(ふもと)にブドウ畑が展開されている。グレート・サザンの中で唯ー太古の花崗岩質で、ピノ・ノワール、リースリング、シャルドネで近年極めて高い評価を得ている。

5.Peel ピール
 主な品種は、シュナン・ブラン、シャルドネ、シラーズ。沿岸部は冷涼で、秋冬に降雨があり、春夏は乾燥している。

6.Geographe ジオグラッフ
 主な品種は、シャルドネ、セミヨン、シラーズ、メルロ。ユーカリの森林や自生する灌木花々の美しい地域。優れたシラーズを産する。

7.Blackwood Valley ブラックウッド・ヴァレー
 主な品種はシャルドネ、ソーヴィニョン・ブラン、シラーズ、カベルネ・ソーヴィニヨン。マーガレット・リヴァーから内陸に入った産地。寒暖差の大きい、より大陸性気候となる。

8.Manjimup マンジマップ
 ユーカリの森林の周縁部の産地。ワラン・ヴァレー地域は、マンジマップとペムバトンの2つの産地に分かれている。マンジマップの町を中心に、4つの小さなブドウ栽培地区(非公式)に分かれている。主な品種は、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ。
(小規模な家族経営の「Peos Estate(ピオス・エステート)」は、高品質でお買い得なワインの生産者として近年注目を集めている。)

9.Pemberton ペムバトン
 ユーカリの森林の周縁部の産地。商業的ブドウ栽培は1982年から。南氷洋に近く標高の高いエリアは冷涼な気候。シャルドネとピノ・ノワールで有名。多くはスパークリング・ワインに使用される。ブドウ畑は、小高い斜面の適度に肥えたところと、森林周縁の肥沃な土壌に展開されている。マーガレットリヴァー創業5生産者のひとりで、モス・ウッド創設者Bill Panell(ビル・パネル)は、ブルゴーニュで研修した経験を携え、1993年に「Picardy ピカーディ」を設立。ブルゴーニュから輸入したシャルドネとピノ・ノワールのクローンを栽培し、高品質なワインを生産している。


②南オーストラリア州South Australia(SA)
 オーストラリア大陸の中央に位置する南オーストラリア州は、1836年ごろに最初の移民が入植した。現在ではオーストラリアワインの生産量の大半を担う。また、世界で最も古いシラーズのブドウ樹が現存する地である。世界の有力産地から遠く離れていたことが功を奏し、北米やヨーロッパ、そして後にオーストラリア東部のブドウ畑を襲ったフィロキセラから、被害を免れることができた。検疫規制が設けられたため、南オーストラリア州のブドウ畑は未だにフィロキセラから完全に守られ、この州のブドウ栽培の優位性を保つことにつながった。いまだに自根のブドウ樹が多数存在する。州都アデレードは行政・教育・研究機関などが位置する豪州ワイン産業の中心都市。オーストラリア・ワイン・リサーチ・インスティチュート(AWRI)では最先端のワイン研究が行われており、例えばワイン(特にシラーズ)に現れる胡板の香りの原因物質を「Rotundone ロタンドン」と世界に先駆けて特定した研究機関である。
南オーストラリア州の2021年の収穫量は、941,113t(前年比15%減)で国全体の47.3%を占める。

アデレード周域6産地
  南オーストラリア州で最も重要な産地は、アデレード周域の6産地(バロッサ・ヴァレー、イーデン・ヴァレー、アデレード・ヒルズ、クレア・ヴァレー、マクラーレン・ヴェール、ラングホーン・クリーク)とクナワラである。
 このうちアデレード周域の6産地の違いは、「地勢・地質の成り立ち」を知ることで、理解しやすくなる。
 今から100〜200万年前(新生代第4紀クオータナリー)、現在のアデレード周域を縦に挟んで、大陸の東西が押し合う力が働いた。この時に、カンガルー・アイランドから始まって、弓なりに山脈ができあがった。現在この一部を「Mount Lofty Ranges マウント・ロフティー・レンジズ(山脈)」という。最高標高はアデレード・ヒルズにある同名の山「マウント・ロフティー」のわずか710mである。
 この山脈の成り立ちはもともと、「カンガルー・アイランド」を基点に始まり、一度海に入り、マクラーレン・ヴェールの脇を通り、アデレード・ヒルズ、イーデン・ヴァレーに至る。途中ラクダのこぶのように消えかけたりするものの、クレア・ヴァレーまで連なり、次のフリンダー山脈に接続している。
 これら6産地の「マウント・ロフティー山脈」を軸に理解すると、分かりやすい。
 アデレード・ヒルズ、イーデン・ヴァレー、クレア・ヴァレーは「山脈」の上に乗った産地だと言える。同じ地質もみられ、岩・石がちの畑が多く、山のワインと理解できる。品種によっては極めて似た性質のものがみられる。
 一方、バロッサ・ヴァレー、マクラーレン・ヴェールは、山裾(やますそ)の表土の比較的深い、粘土・壌土が豊富な平坦地にブドウ畑が開かれた。平坦地の深い土壌のワインと言える。
 ラングホーン・クリークは、もともと海だったところで、石灰岩が広く分布。その上にアデレード・ヒルズから川で運ばれてきた砂利や砂などの沖積土、粘土が重なった。クナワラの「テラロッサ土壌」にやや似ている。「海の堆積物由来」「石灰岩質」の特徴をもつ。これら3つに分類した産地の違いは、ワインのテクスチャーにもっともよく表れる。アデレード周域に、異なる特徴の産地が多数あることで、地域間ブレンドによる量販ワイン、高級ワインの生産が可能となっている。
 また、バロッサ、イーデン、クレアはシレジア地方(ドイツ系)移民の文化が、マクラーレン・ヴェールはイタリア系移民文化が色濃い。


1.Barossa Valley(バロッサ・ヴァレー)
小地区(非公式):
Marananga マラナンガ
Gomersal ゴメサル
Greenock グレノック
Moppa モッパ
Ebenezer エベニーザー
Kalimna カリムナ
Angaston アンガストン
Vine Vale ヴァイン・ヴェイル
Light Pass ライツ・パス
Bethany ベサニー
Lyndoch リンドック
Nuriootpa ヌリウッパ
Rowland Flat ローランド・フラット
Seppeltsfield セペルツフィールド
Tanunda タナンダなど

白:セミヨン、リースリング
黒:シラーズ、グルナッシュ、カベルネ・ソーヴィニヨン

 シラーズの首都と言える重要産地。標高112〜596m程度と低い。栽培面積11,156ha(2019年)。シラーズが栽培面積の5割を占め、黒ブドウが85%を占める。年間降雨量は450〜650mmと少ない。イーデン・ヴァレーとは、「Barossa Ranges バロッサ・レンジ」という標高差150〜200mの断崖(だんがい)で隔てられている。ワイナリー数は150超。
 オーストラリアワイン産業の屋台骨を支える主要な大手ワイナリーが本社醸造設備を構える。赤ワインの仕込みは伝統的にアメリカン・オークで熟成するが、近年はよりフレンチ・オークの使用が増えている。バリック(225ℓ)より大きいサイズの「Hogsheads ホグズヘッド(300ℓ)」や「Puncheons パンチョン(500ℓ)」も一般的に使用されている。
 ワイン造りの歴史は1842年まで遡り、シレジア人が入植した時からドイツ系の影響が色濃く残る産地(「歴史」参照)
 また、100年以上の古樹が豊富。現時点でバロッサ・ヴァーレー「Langmeil Winery ラングメール・ワイナリ」が所有する1843年植栽のシラーズが、オーストラリア最古のワイン用ブドウだとされている。ブドウ畑を樹齢によって区分、登録し、古木を保存、維持、振興するため、2009年「Barossa Old Vine Charterバロッサ・オールド・ヴァイン・チャーター(古木憲章)」が制定された。
Barossa Old Vine バロッサ・オールド・ヴァイン=樹齢35年以上
Barossa Survivor Vine バロッサ・サヴァイバー・ヴァイン=樹齢70年以上
Barossa Centenarian Vine バロッサ・センテナリアン・ヴァイン=樹齢100年以上
Barossa Ancestor Vine  バロッサ・アンセスター・ヴァイン=樹齢125年以上。
 バロッサ・ヴァレーの畑は平坦地になだらかに広がり、土壌は大きく6種類程(主に粘土・ローム質)に分けられる。そこから生まれるワインと土壌の関係を解説しようという試みが2008年から始まり、「Barossa Grounds バロッサ・グラウンズ」というプログラム名で形になりつつある。
 土壌違いで、もっとも分かりやすい例は、鉄分を含んだ北部の赤い土壌(ヌリウッパ地区、エベニーザー地区)が、「凝縮感のあるリッチなスタイル、黒い果実、黒オリーヴの香味をもつ」一方で、南部のリンドック地区、ローランド・フラット地区は灰色の粘土ローム質で、「赤い果実、ブルーベリー、優しくエレガントな味わいになる」傾向がある。
 近年は、若い造り手が全房発酵によるシラーズを生産し、人気が出ている。
 なお、イーデン・ヴァレーと合わせたG.I.「バロッサ」がある。ラベルに単に「バロッサ」と表記されているワインは、両産地のブドウを使っている可能性が高い。隣り合う産地ながら、ワインの特徴は大きく異なる。

[ワインの特徴]
シラーズ:
バロッサ・ヴァレーで圧倒的な栽培量を誇る品種で、ブラックチェリーやブラックベリー、プラムなどの香味が豊かで、コーヒーやチョコレートの風味、熟したソフトなタンニンが感じられ、凝縮度の高いワインとなる。長命の熟成力をもつ。

カベルネ・ソーヴィニヨン:
フレンチ・オークの樽が使われることが多く、控えめで引き締まったスタイルをもつ。

グルナッシュ:
グルナッシュならではの特徴である、甘くて果実味溢れる風味、ダークチェリーや木に成る果実のキャラクターをもち、熟成により複雑さと深さが増す。シラーズやムールヴェドルとブレンドされることが多い。

セミヨン:
現在のバロッサ・セミヨンは、早摘みしたブドウを使用し、ステンレスタンクで発酵させ、セミヨン本来の良さであるフレッシュさやクリーンさ、バランスをもっている。

リースリング:
標高の高いイーデン・ヴァレーと接する谷間部分に優良な畑が存在する。風味の豊かさが特徴。イーデン・ヴァレーやクレア・ヴァレーのものと比べ、短期間で熟成する。


2.Eden Valley イーデン・ヴァレー
小地区:
High Eden ハイ・イーデン
Keyneton ケイントン(非公式)
Heggies ヘギーズ(非公式)
Pewsey Vale ピュージー・ヴェイル(非公式)
Springton スプリングトン(非公式)

白:リースリング
黒:シラーズ、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ

 シラーズとリースリングの重要な産地。標高219〜632m。アデレード・ヒルズから繋がる、マウント・ロフティー山脈の上の産地。「山のワイン」と言える。バロッサ・ヴァレーとは「バロッサ・レンジ」で、分断されている。
 赤白の栽培比率はほぼ半々。主要品種はリースリング、シラーズ、シャルドネ、カベルネソーヴィニヨン。ワイナリー数は20超。
 地図上の範囲はとても大きいが、ブドウ畑はわずか2,102ha。水分が乏しく、ブドウ栽培範囲は限られている。灌漑をしようとしても、水の供給源を確保することが難しく、新規参入が難しい。現在残っている畑の多くが、水脈がある昔からのもの。ワイン造りの歴史は1840年代に遡る。
 非公式の小地区Keyneton カイントンに位置する「Henschke Hill Of Grace ヘンチキ・ヒル・オブ・グレース」は、保水性あるロームや粘土質土壌。1864年植栽の古木のシラーズから豪州を代表する単一畑ワインが生産される。
 「Pewsey Vale ピュージー・ヴェール」などリースリングで重要な畑は、アイアンストーン(ラテライト)や石英の上に植えられている。
 標高が高く、風の影響も受け、岩がちな土壌のおかげで、香り高い赤ワインを生む。リースリングは、南オーストラリア州のなかでクレア・ヴァレーと双壁をなす品質を誇る。ライムの香味が特徴で、極めて長い熟成力をもつ。


3.Adelaide Hills アデレード・ヒルズ
小地区:
Lenswood レンズウッド
Piccadilly Valley ピカデリー・ヴァレー

白:シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン
黒:ピノ・ノワール、シラーズ

 アデレード・ヒルズは標高190〜609m。産地の中にあるマウント・ロフティー(標高727m)が最高標高地点。マウント・ロフティー山脈の上に、ワイン産地がある。「山のブドウ」によるワイン造りである。北はイーデン・ヴァレーと接し、西側に下山すると、アデレード市街に出る。
 大小の様々な谷があり、その合間に、小さなブドウ畑が散在する。産地は東西30km、南北80kmと、地図上の範囲は広いが栽培面積は3,832ha(2019年)だったが、2019年12月に発生した大規模森林火災によって1,100haが焼失したと報告されている。その中には、Tim Knappstein ティム・ナップスタインによって1983年にLenswoodに植樹されたAdelaide Hillsで最古のピノ・ ノワールも含まれる。
 高級スティルワインや瓶内二次発酵スパークリングなどのファインワイン産地。非常に冷涼で、主にシャルドネ、ピノ・ノワール、シラーズ、ソーヴィニヨン・ブランが栽培されている。白ブドウが面積の6割。表土は、ロームや砂。下層土は砂岩、花崗岩、アイアンストーン(ラテライト)、シストが分布している。
 南北に長く、かつ谷・丘が多数あることから、降雨量や日照量が場所によって大きく変化する。地質も複雑であることから、多様なスタイルのワインを生み出している。
 ワイナリー数は90超。レストランを併設するところも多く、アデレードなど都市部から週末に訪問客が多数訪れる。
 ナチュラルワイン・ムーヴメントを牽引する個人の小さな造り手が「バスケット・レンジ」地区中心に多数登場し、企業ワイナリーと混在することで、刺激的な産地となっている。造り手は、この産地を「ヒルズ」と呼び習わす。


4.Clare Valley クレア・ヴァレー
小地区(非公式):
Watervale ウォーター・ヴェイル
Polish Hill River ポリッシュ・ヒル・リバー
Skillogalee Valley スキロガリー・ヴァレー
Sevenhill セブンヒル
Auburn オーバンなど

白:リースリング
黒:シラーズ、カベルネ・ソーヴィニヨン

 標高190〜609m。「マウントロフティー・レンジズ」の上にのっている産地。東西10km、南北25kmと縦に長い産地で、南ほど暖かい。海から50km以上離れており、海の影響はほとんどない、大陸性の気候。
 北部からクレア、セブンヒル、ポーリッシュ・ヒル・リヴァー、スキロガリー・ヴァレー、ウォーター・ヴェール、オーバンと多数の栽培地区をもつ。栽培面積5,060ha。リースリング(1,056ha)、シラーズ(1,886ha)、カベルネ・ソーヴィニヨン(1.138ha)で全体の8割を占める。石灰岩質の土壌が広く分布し、両品種ともその特徴がよく表れてるものがみられる。ワイナリー数は50超。クレア・ヴァレー最初のワイナリーは、1851年から生産を続けるSevenhill Cellars セブンヒル・セラーズで、現在でもカトリック系教会により運営されてる。
 また、1895年設立のWendouree ウェンドリーは、樹齢100年以上のシラーズを使い、販売はメールオーダーのみという、驚くべきフレッシュネスと石灰岩由来の柔らかさをもつ長命なワインを造る。豪州国内では伝説的生産者として知られている。
 リースリングが産地内の地区によって味わいが違うことが分かり、異なる土壌・母岩の違いを突き止め、それを販売に活かそうという機運が、生産者の中で広がっている。その活動は「Clare Valley Rocks クレア・ヴァレー・ロックス」という名前で、産地内10カ所に地質解説の標識を立て、ワイナリーでパンフレットを配布し、味わいの特徴、違いを各社が説明するようになっている。
 最も分かりやすい土壌と酒質の違いは、「ウォーター・ヴェール地区」(石灰岩質)と、「ポーリッシュ・ヒル・リヴァー地区」(黒い粘板岩質)のリースリングで、前者がライムの香味豊かで、柔らかくジューシーな酒質であるのと対照的に、後者は果実香は少なめで、堅牢でフリンティさが特徴。
 ポーリッシュ・ヒル・リヴァーは、非常に新しい生産地区で、発見されたのは1980年代後半。まだワイナリー設立前のJeffrey Grosset ジェフリー・グロセット氏(Grosset Wine グロセット・ワインズ)が、大学の指導教授より無名の場所に植えていたリースリングの畑を買い取るよう頼まれたのがきっかけ。当初、教授の畑のリースリングを、他の地区のリースリングとブレンドして販売を考えていたが、ブレンドすると個性を消し合い、かえって品質を損なうことから別に瓶詰めした。このワインの評価が高まって、競合他社が続々と新規に畑を拓き、リースリングの有力地区として名が知られるようになっていった。


5.McLaren Vale マクラーレン・ヴェイル

白:シャルドネ
黒:シラーズ、グルナッシュ、カベルネ・ソーヴィニヨン

 標高は0〜417mと多様。マウント・ロフティ山脈の麓、セント・ヴィンセント湾に比較的近い平坦地(へいたんち)に、大部分のブドウ畑が展開されている。
 栽培面積は7,173haと大きい。赤や茶色のローム土壌が広く分布。シラーズ、カベルネ・ソーヴィニヨン、グルナッシュなど赤ワインの生産が大部分を占める。ブドウ畑の数は160、セラードアを併設するワイナリー数は74軒。
 近年では、ヴェルメンティーノ、フィアーノ、サンジョヴェーぜ、アリアニコ、サグランティーノ、ネーロ・ダーボラ、テンプラニーリョなどイタリアやスペインの品種が増えている。サンジョヴェーゼは、1970年代初頭にPenfolds ペンフォールズ社がバロッサ・ヴァレーにあるKalimna Vineyard カリムナ・ヴィンャードに、UC Davisから取り寄せたクローンの栽培を試験的に開始。1985年、Coriole Vineyards コリオール・ヴィンャードのMark Lloyd マーク・ロイドがイタリアの“ Fattoria ファットリア”をモデルに、地中海性気候でイタリア人移民の農家が多いこの地に適したサンジョヴェーゼの生産を商用的に始めたことで人気に火がついた。
 John Reynell ジョン・レイネルが1838年にReynella レイネラに「シャトー・レイネラ」を興したのが、産地の始まり。
 東側はアデレード・ヒルズに接し、東進すると丘陵地の畑がみられる。気候も海洋性から大陸性へと変化し、多様なマイクロクライメットが存在。平坦地と丘陵地ではまったく特徴の異なるワインを生み出す。
 平坦地の土壌は、主に赤茶色の砂質ロームや黄色い砂岩がみられる。赤ワインは、バイオレットなど紫色の花の香り豊か。パワフルで豊かな果実が特徴。斜面を登るとやや冷涼となり、シルトストーン、アイアンストーン(ラテライト)、シスト、テラロッサなどの土壌がみられ、赤い果実のアロマ豊かなワインになりやすい。ワイン生産者は平坦地のブドウと、丘陵地のブドウ両方を持つように変わりつつある。このように多様性のある産地内には、非公式ながら6つの小地区が存在する。(Blewitt Springs ブルーイット・スプリングス、McLaren Vale マクラーレン・ヴェイル、Seaview シーヴュー、McLaren Flat マクラーレン・フラット、Willunga and Sellicks Foothills ウィランガ・アンド・セリックス・フットヒルズ)
 またこのエリアも、シラーズで全房発酵することが盛ん。全房発酵2割程度のワインが、多数みられる。


6.Langhorne Creek ラングホーン・クリーク
白:シャルドネ、ヴェルデーリョ
黒:カベルネ・ソーヴィニヨン、シラーズ、グルナッシュ
 アデレード・ヒルズとアレクサンドリナ湖の間に位置し、標高0〜64m。生育シーズンの降雨量は169mmと少なく、南氷洋からアレクサンドリナ湖を横切って吹く冷涼な南風が日中の気温を下げるため、マクラレン・ヴェールより収穫が1〜2週間遅く、比較的冷涼な気候。地元ではこの風を「Lake Doctor レイク・ドクター」と呼び、夏の気温を下げ、冬の霜害を防ぐ役割を果たしている。太古に海だった場所で、母岩には石灰岩があり、テラロッサに似た土壌がみられる。
 栽培面積は6,094ha(2019年)と大きく、黒ブドウが8割を占め、シラーズとカベルネ・ソーヴィニヨンが大半。樹齢50年以上のカベルネ・ソーヴィニヨンが多数みられる。
 赤ワインは酸があり、石灰岩由来の柔らかなテクスチャーと清涼感があることから、大手ワイナリーにとっては、品質の高い黒ブドウを比較的手頃な価格で大量に得られるエリアとして、重要な産地。ここのブドウを、北部のリヴァーランドなど暑い地域のブドウと調合することで、割安に品質の高いワインが生産できる。大手ワイナリー向けの加エワイナリーが3ヵ所ある。
 セラードアを併設したワイナリーは13軒。地元ワイナリーは7社と少ないが、その分造り手同士の関係が密接。赤ワインの口中の質感は滑らかで、クナワラとの類似性がみられる。


7.Limestone Coast ライムストーン・コースト
 南オーストラリア州のワイン産地のうち、東側のヴィクトリア州との州境から、南端のマウント・ガンビア、インド洋に接する海岸線をつなぐ南東域一帯を、巨大なG.I.「ライムストーン・コースト(Zone)」と呼ぶ。この中に、クナワラ、パッドサウェー、ラットンブリー、ローブ、マウント・ベンソン、マウント・ガンビアが含まれる。テラロッサ土壌をもつ場合が多いことから、この名が付いている。


8.Coonawarra クナワラ
 クナワラは、豪州を代表するカベルネ・ソーヴィニヨンの銘醸地のひとつである。南オーストラリア州の南東の端に位置するワイン産地で、1890年にスコットランド人John Riddoch ジョン・リドックが最初のブドウを植え、Penolぺノーラという土地を開拓した。有名産地であるにも関わらず、アデレードから遠く離れていることから、陸の孤島のような静かなワイン産地で、造り手間の交流が豪州国内でも際立って緊密である。
 かつて南北16km、東西2kmの葉巻型の中心域を歴史的に「クナワラ」と指していた。その葉巻型の地域(テラロッサ・リッジ)にのみ、水はけの良い赤い粘土質の表土と、その下に深く連なる「石灰岩質ローム層」(見た目は純白のチョークのようだが、硬い)のコンビネーションがみられる。白い石灰岩質部分のpHは10と非常に高い。葉巻型の中心域外は、表土が黒か灰色に変わり、地元生産者の間では、両者の土壌からは味わいの異なるワインが出来ると考えられている。しかし2002年のG.I.策定で、クナワラの範囲は規則上は、非常に広いものになっている。植栽面積は5,293ha(2019年)。
 現在34のワイナリーが存在している。
 海洋性気候。海岸線から直線で60km程度の距離で、海の影響を受ける。湿度の低い涼しい夏の気候により、ほとんどのブドウ品種が完全に熟す。海洋性気候でも春に霜が発生し、時折大きな被害を与える。気象統計を比較するとクナワラはボルドーに似ているが、曇りの日が多いことから、最も重要な果実の熟成期に気温が緩和され、これが他の地域との差につながっている。
 クナワラ周域は海の有機物が時間をかけて石灰岩となり、堆積していった。氷河期に海が後退したことで、現在の場所が陸地になっていく。表土が赤いのは、陸地化する過程で堆積した粘土質中の鉄分が、酸化したことによる。中心域外の黒、灰色の土壌の場所はうまく酸化が進まなかった。この土壌の場所では、ブドウは相対的に完熟しにくい、とされる。
 クナワラのテラロッサ(赤い粘土質と石灰岩質のコンビネーション)は、オーストラリアで最も有名な土壌だが、この産地特有のものではない。LimestoneCoast ライムストーン・コーストの他の地域にも同じ土壌が分布する。

[ワインの特徴]
カベルネ・ソーヴィニヨン:
オーストラリア最上級のカベルネ・ソーヴィニヨンを生産している。濃厚な甘美さを放ち、黒スグリやプラム、レッドチェリーやプルーンなど、広い味わいの幅をもつ。独特の柔らかいミネラル感と清涼感が、クナワラの特徴となっている。

シラーズ:
クナワラ産カベルネ・ソーヴィニヨンの名声が高まるにつれ、クナワラ・シラーズは、その影に隠れがちとなったが、胡椒やスパイシーな果実の風味をもつミディアムボディの上質ワインが造られている。

シャルドネ:
クナワラのブドウ畑の多くは石灰岩の上にあり、シャルドネに非常に適している。

リースリング:花
のような芳香と、華やかでフルーティなスタイルが、クナワラ・リースリングの特徴である。


9.Padthaway パッドサウェー
 ブドウ栽培地域として確認されたのは1963年のこと。海洋性気候で、南のクナワラより暖かく、日照時間も長く降雨量は少ない。以前Keppoch ケポックと呼ばれていた。当初はクナワラの「代替地」としての意味合いで開発が進んだ。しかし最近では白ワインの品質が向上し、白ワイン生産に注カしている。4,000ha超の畑があり、主要品種はシラーズ、シャルドネ、カベルネ・ソーヴィニヨンの順。テラロッサ土壌が一部に分布する。


10.Wrattonbully ラットンブリー
 クナワラとパッドサウェーの間にある新興のブドウ栽培地。クナワラと同じテラロッサ土壌で、比較的冷涼。2,666haほどの広さで、主な栽培品種はカベルネ・ソーヴィニヨン。大手からブティックワイナリーまで約24社がワインを生産しており、近年、注目度を増している産地の1つ。


11. Mount Benson マウント・ベンソン
 海沿いの冷涼産地。海洋性気候。栽培面積合計535haの75%が赤ワイン用ブドウで占められており、主にカベルネ・ソーヴィニヨンが栽培されている。テラロッサ土壌が分布する。ミネラル豊かで清涼感ある赤ワインが造られている。


12.Robe ローブ
 2006年にG.I.指定。マウント・ベンソンのすぐ南に位置する。マウント・ベンソンと同様、西方のインド洋と東方の湖群の影響を受け、海洋性の冷涼な気候に恵まれている。比較的新しい産地であるにもかかわらず大きく躍進しており、将来の可能性はオーストラリアの他の産地に匹敵すると見る専門家も多い。


13.Mount Gambier マウント・ガンビア
 ライムストーン・コーストの最南端の小さな冷涼産地で、2010年にG.I.に指定された。温暖で乾燥した夏と、温和な冬に雨が降る地中海性気候。沿岸部に近いことで遅霜のリスクは低い。標高は63〜140m。栽培面積は274ha。2020年の収穫量は649tで、ソーヴィニョン・ブランとシャルドネで88%を占める。


14.Kangaroo Island カンガルー・アイランド
白:シャルドネ、リースリング
黒:カベルネ・ソーヴィニヨンとシラーズが主、他にメルロなど

 オーストラリアで3番目に大きいこの島の気候は完全な海洋性気候で、ブドウの発育シーズン中、南極海から直接吹き寄せる南東の風を受ける。夏の平均気温は25℃で、アデレードよりもかなり涼しく、逆に冬の気温は多少暖かくなる。ブドウ発育シーズン中は降雨量が少なく、灌漑が適用され、湿度が74%と高いため、ベト病や灰色カビ病などのカビ病が比較的発生しやすい環境にある。気候は、全般的に大きな寒暖の差もなく温暖で、特に暑さは規則的に集中する。鳥による被害が主な問題となっている。2020年1月の大規模森林火災によって、145haのブドウ畑が焼失したと報告されている。


15.Riverland リヴァーランド
白:シャルドネ、マスカット・ゴルド・ブランコ、コロンバール、リースリングなど
黒:シラーズとカベルネ・ソーヴィニヨンが主、他にグルナッシュなど

 南オーストラリア州のワイン産地の中で、比較的北部にある。ヴィクトリア州から同州に流れ込む豪州最大の河川、マレー川沿いに展開されるブドウ栽培地域。オーストラリア・ワイン産業の「機関室」と形容される。大規模に量販ワイン用ブドウを生産するために灌漑を前提とした地域で、南オーストラリア州の60%のブドウを産する。豪州全体のブドウ生産量の約30%に相当。
 大陸性気候。日照時間が長く、温暖。果実は十分に熟し、冬場にしか雨が降らないことで病害が少ない。土壌は、赤茶色の砂質士壌で、多くの場合下層は石灰岩となっている。近年の気候変動による干ばつ頻発で、川は水不足がちとなり、灌漑用水が高騰している。そのため、この地域から生産されるブドウは、チリなど他の生産国との厳しい価格競争にさらされている。



③ Victoria ヴィクトリア州(VIC)
 中小規模生産者中心のワイン産地で、規模の大きなワイン生産者が牽引する南オーストラリア州のワイン産業とは、性格が異なる。また、内陸部から沿岸部まで、様々な気候土壌の産地が点在しており、ワイン造りは個性的で多様だ。
 ヤラ・ヴァレー以南のワイン産地は、主にピノ・ノワールとシャルドネに注力している冷涼なワイン産地が多い。ヤラ・ヴァレーよりも北に位置する産地には、シラーズ、カベルネ・ソーヴィニヨンを中心に、ピノ・ノワール、シャルドネが加わる。いずれにせよ、「冷涼産地」の美点を追求したワイン造りがどこでもより際立ってみられる。それはシラーズのスタイルにもよく現れる。
 1860年代、ヴィクトリア州は「John Bull's Vineyards(英国民のブドウ畑)」として知られていた。それは同州のワイン産出量、および英国向け輸出量が国内最多であったためである。他の州のブドウ栽培は、主に沿岸地域や沿岸に近い産地に限られているが、州全体が栽培に適している。過去30年間で同州のワイン産業は見事な発展を遂げた。現在では16地区に400を超えるワイナリーがある。
 ヴィクトリア州の2021年収穫量は、前年比4%減の298,164tで、国全体の17%を占める。


1.Yarra Valley ヤラ・ヴァレー
白:シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・グリ、リースリングなど
黒:ピノ・ノワール、シラーズ、カベルネ・ソーヴィニヨン

 メルボルンから車で1時間程度(約60km)の距離で、日帰りでワインツーリズムが楽しめる、ヴィクトリア州を代表する重要産地。多くのワイナリーがセラードアとレストランを併設している。拠点となる町はヒールズヴィルで、複数のワイナリーがセラードアを構えている。  
 ヤラ・ヴァレーは1838年に、ヴィクトリア州で最初にワイン用ブドウが植えられた地域。1860年代から70年代にかけてブドウ栽培が広がったが、その後南オーストラリア州の酒精強化ワインの需要が高まったことで、テーブルワイン生産に行き詰まり、1921年に産地はいったん途絶えた。
 1960年代になって、植物学者Bailey Carrodus ベイリー・カラドス博士によるYarra Yering ヤラ・イエリング(1969年設立)、地元の医師John Middlton ジョン・ミッドルトン博士によるMount Mary マウント・メアリー(1971年)、このほかWantirna ワンティルナ(1963年)、Yeringbergイエリングバーグ(1969年)などが設立されて、ワインの品質の高さが注目され始めると、産地形成が加速していった。
 批評家として高名なJames Halliday ジェームス・ハリデー氏は、ヤラ・イエリングの存在に多大な影響を受け、同じWarramate Hills ワラマテ・ヒルズの麓に1985年、Coldstream Hills コールドストリーム・ヒルズを設立した(1996年にサウスコープに売却、現在はトレジャリー・ワイン・エステーツ傘下)。マウント・メアリーは、マロラクティック発酵しない長期熟成型のシャルドネで、ヤラ・ヴァレーのアイコン的存在。
 また、モエ・エシャンドン社は「シャンドン・オーストラリア」を1986年に設立。瓶内ニ次発酵スパークリングワインの生産拠点として、発展している。
 ヤラ・ヴァレーの現在の栽培面積は2,536ha(2019年)で、赤ワイン用品種が3分の2を占める。主な品種は、シャルドネ、ピノ・ノワール、シラーズ、カベルネ・ソーヴィニヨン。ワイナリーは約140社が存在する。やや大陸性の気候で、昼夜の寒暖差が大きい。近年は遅霜の被害が頻発するようになっており、ブドウ畑は霜害対策のための設備投資が嵩(かさ)んでいる。
 メルボルンやシドニーの若いソムリエに応える形で、最近はイタリア、スペイン品種やガメイなど新しいスタイルのワインが人気を得ている。
 ブドウ畑は、大きく3つのエリアに分けられる。ヤラ・グレン、イエリング、コールドストリームからグルーイアにかけて、最初に発展した、標高が比較的低く平坦な地域。「Valley Floor ヴァレー・フロア」と通称される。マウント・メアリー、イエリング・ステーション、オークリッジ、ヤラ・イエリング、コールドストリーム・ヒルズ、ドメーヌ・シャンドンなど多くのワイナリーが集中している。比較的温暖で、ボルドー系黒ブドウ品種やシラーズにとって極めて重要な地域。シャルドネ、ピノ・ノワールにとっても重要。標高は100〜250 m程度と低い。年間降雨量は700〜1,200mm程度(成育期は500mm程度)。1月の平均気温は18.7℃。土壌はグレーや茶褐色の植壌土が分布。ワインは果実感豊かで、比較的柔らかく、ふくよかなものがみられる。
 セヴィルからウーリー・ヤロック、ヤラ・ジャンクション、ホッドルス・クリーク、グラディースデールにかけての丘陵森林地帯は、「UpperYarra Valleアッパー・ヤラ・ヴァレー」と通称される。標高は250〜360mほどで、比較的涼しいためにブドウの成熟はヴァレー・フロアよりも2〜3週間程度遅い。年間雨量は1,000〜1,600mmと多雨。非常に複雑な地質のエリアで、古生代(シルル紀・デボン紀)の海だった頃のシルトストーン、サンドストーン、頁岩(けつがん)が広く分布する。ワイナリーは点在する程度だが、ピノ・ノワールとシャルドネの有力な畑が多数みられる。酒質は堅牢、酸が高く、塩味を感じさせるものがみられる。ヴァレー・フロアの果実のリッチさとは、好対照をみせる。この地域からHoddles Creek ホドルス・クリークやMac Forbes マック・フォーブスに代表される若手の有力生産者が複数登場している。
 また、北側のディクソン・クリーク周辺は標高が200〜300mと高まる。花崗岩がみられ、シラーズ、シャルドネのほかに近年、イタリア系品種が植えられている。
 ヒールズ・ヴィルには、オーストラリアを代表するクラフトジン「Four Pillars フォー・ピラーズ」の蒸溜所もあり、多くの観光客が訪れている。


2. Momington Peninsula モーニントン・ペニンシュラ
白:シャルドネ、ピノ・グリ
黒:ピノ・ノワール、シラーズ

 モーニントン・ペニンシュラは、わずか50社程度の小規模生産者で構成されている冷涼産地にもかかわらず、この10年程度で、タスマニアと並びピノ・ノワールの重要な生産地として存在感が高まっている。その要因は、2003年から始めた隔年開催の国際イベント「Mornington Peninsula International Pinot Noir Celebration モーニントン・ペニンシュラ・インターナショナル・ピノ・ノワール・セレブレーション」や、Mornington Peninsula Vignerons Assosiation モーニントン・ペニンシュラ・ヴィニュロンズ・アソシエーション(MPVA)が中心となって進める地区特性を見極める調査研究のほか、ブルゴーニュ生産者との交流、樹齢の高まり、若い世代の参入などがあげられる。2017年からMPVAの運営により、外部審査員による、オーストラリア中のピノ・ノワールを対象とする品評会「Australian Pinot Noir Challenge」を始めた。2020年はパンデミックの影響で開催を見送ったが、2021年は11月、227のオーストラリア産ピノ・ノワールがエントリーし、審査が行われた。
 ワイン造りの歴史は古く、1886年にこの地のワインが品評会で評価を受けた記録が残っている。その後、ヤラ・ヴァレーと同様に酒精強化ワインの需要の高まりや不況の影響で、1920年代にほとんどのブドウ畑が失われた。
 復活は1970年代からで、1972年にElgee Park Vineyard エルギー・パーク・ヴィンヤードが植栽(畑は現在も健在)。75年にNat White ナット・ホワイト夫妻によるMain Ridge メイン・リッジが始まり、造り手のパイオニアとして現在に至る。Stonier ストニアー、Paringa パリンガなどが70〜80年代に後に続いた。ワイン産業が再開してわずか50年足らずの、若い産地である。
 周囲を海に囲まれた風光明媚な半島で、気軽にマリンスポーツやワインツーリズム、温泉を楽しむリゾート地として人気がある。メルボルンから車で1時間強(約80km)で、通勤圏でもあることから近年は富裕層のセカンドハウスのために宅地化が進み、土地が高騰している。丘陵地で土地が狭いだけでなく、地価の高騰がブドウ畑の拡大を阻む原因になっている。
 現在セラードアを併設したワイナリー数は50以上、レストランを併設しているセラードアも多く人気の観光地となっている。栽培面積は1,100ha、主要品種は半数を占めるピノ・ノワールで、そのクローンの大部分は、豪州でバズビー・クローンと称される「MV6」(クロ・ヴージョ・クローン)が栽培されている。2021
年の収穫量は2,115t、内ピノ・ノワール1,902tで最大、ついでシャルドネが556t。
 海洋性の気候で、昼夜の寒暖差は穏やか。遅霜のリスクはほとんどない。しかし常に海からの強風にさらされている。ブドウ畑の標高は40〜250mと低い。1月の平均気温は19.2℃。年間降雨量は730mm(成育期は390mm)程度。
 モーニントン・ペニンシュラは新生代第三紀(1500万年前)頃に起きた隆起や断層運動で現在の形となった。ブドウ畑は、大きく2種類の土壌に分けられる。ひとつは、地図上アーサーズ・シートを頂点として、レッド・ヒル、メイン・リッジなど東側のふもとに向かって玄武岩由来の赤土の土壌が分布する。多くの造り手がこの地にブドウ畑を展開している。標高は150〜200m程度。比較的保水性がよく、肥沃で、樹勢が強い。
(代表的な造り手は、パリンガ、メイン・リッジなど。)赤い果実と豊かな酸、柔らかな余韻が特徴的。収穫は3月中旬と遅い。
 一方、北側のムールダック、チュロング、ヘイスティングス、バルナリングにかけての標高が低い(40m〜100m)ところは、古生代の海の堆積土壌と、第三紀の海の堆積士壊で、それぞれ単独で分布したり、入り組んだりしている。水はけは良い。アッパー・ヤラの土壌と類似性が指摘されている。(代表的造り手は、Ocean Eight オーシャン・エイト(2ヶ所ある自社畑の一つで、主にピノ・ノワールを栽培)、Yabby Lake ヤビー・レイクなど。)黒系の果実になりややすく、骨格がはっきりとしている。より力強さがあり、強いミネラル感がある。収穫は2月下旬と早く熟す。
 (Montalto モンタルトーやTen Minutes by Tractor テン・ミニッツ・バイ・トラクターは、)玄武岩の赤土、海の堆積土壌、それぞれから単一畑ワインを生産している。
 玄武岩由来の赤土の土壌と、古い海の堆積土壌が降り合って分布し、ピノ・ノワールが主要品種になっている点で、オレゴン州ウィラメット・ヴァレー北部(ダンディ・ヒルズAVAやヤムヒル・カールトンAVA)と類似している。


3. Geelong(ジロング)
白:シャルドネ、リースリング、ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・グリなど
黒:ピノ・ノワール、シラーズ、カベルネ・ソーヴィニヨンなど

 ピノ・ノワールとシャルドネの重要なワイン生産地である。メルボルンから南西の海岸沿いに位置するこの地区は、海洋性気候の影響を強く受けるため気温は低く、日照時間が長く乾燥した気候で、シャルドネとピノ・ワールの成熟に最適。
 1877年、フィロキセラが最初に発見されたのがここジロングだった。
 広いエリアは3つの小地区(非公式)に分類される。The Bellarine ベラリンはポート・フィリップ湾内に突き出た半島で、海洋性気候。石灰岩の上に黒い玄武岩が覆う土壌を有する。The Moorabool Valley ムーラブール・ヴァレーは、ジロングとバララットの間に位置し、大陸度が高くなる。この地域では、家族経営で小規模な(By Farr バイ・ファー、Lethbridge レスブリッジ、Bannockburn バンノックバーンといった)プレミアムワイン生産者が集中している。The Surf Coast サーフ・コーストは「グレート・オーシャン・ロード」で有名なバス海峡に開けた海岸沿いのエリアで、気候は最も厳しくなる。


4. Goulburn Valley ゴールバーン・ヴァレー
白:シャルドネ、マルサンヌ、リースリング、ソーヴィニヨン・ブランなど
黒:シラーズ、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、ムールヴェドルなど

 ゴールバーン・ヴァレーの南側(上流側)の地域は豊かな歴史をもっており、1860年に設立されたTahbilk タビルクは、オーストラリアで最も長い歴史をもつワイナリーのひとつであり、設立当時の木造のセラーは、歴史的建築物として保存されている。1860年代に植えられたブドウの木から、今でも毎年何百ケースものワインが造られている。なかでもマルサンヌは、1927年植樹にさかのぼる世界最古の樹齢と、単一畑として最大の面積を誇る。
 タビルクならびに Mitchelton ミッチェルトン周辺の地域は現在、Nagambie Lakes ナガンビ・レイクスという小地区に分類されている。
 この地域は、内陸地方の谷底の気候で、日中の気温差が激しいが、ゴールバーン川に沿ってできた湖や小川がたくさんあるため、その気温差が多少緩和されている。灌漑用水が豊富にあり、ゆるい地盤の砂と石状の土壌が、色合いや風味を損なわずに大量のブドウが生産される。 
 ゴールバーン・ヴァレーの北側(下流側)も豊富な歴史を誇っている。1868年にTroyan Darveniza トロヤン・ダーヴュニザが、Shepparton シェパートンの近くのMooroopna ムーループナという場所にExcelsior Winery エクセルシア・ワイナリーを創業し、1890年までに300もの賞を海外で受賞した。現在、この地域の主なワイナリーはMonichino モニキーノである。
 土壌は場所によって大きく異なり、大きく3つに分類される。オーストラリア南東部で最も一般的な赤茶色の砂質植壌土、黄色や茶色の植壌土、有史前からのゴールバーン川の流れによって形成された石英砂となっている。この砂状の土壌は、フィロキセラを食い止め、タビルクの古いシラーズの木を守ってきたのである。


5. Pyrenees(ピラニーズ)
白:シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、セミヨン、マルサンヌなど
黒:シラーズ、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、ピノ・ノワールなど

 ピラニーズ地区にブドウが初めて植えられたのは1848年であった。その後150年、ワイン産業は断続的に発展し、現在は、カベルネ・ソーヴィニヨンとシラーズから造られたフルボディの赤ワインの重要な生産地として知られ、今後も継続的に発展を続けると思われている。ヴィクトリア州の西部地区はシャルドネの栽培に適している。
 小地区(非公式)はAvoca アヴォカ、Kara Kara カラ・カラ、Moonambel ムーナンベル、Redbank レッドバンクがある。
 この地区は気候の変化が多様である。全体的には温暖な気候のため、フルボディの辛口赤ワインの生産に適しているが、一方で、内陸に位置することから真夏の湿度が低く、春から初夏にかけては日中の気温差がある。晩夏の頃の最高気温は低く、積算温度も比較的低くなる。日照時間は十分にあり、ブドウ発育シーズン中の降雨量は限られているため、灌漑が必要となる。ピラニーズ地区にはマイクロ・クライメットが存在する。最近、この地区では白ワインとスパークリングワインが有名である。


6. Beechworth ビーチワース
白:シャルドネなど
黒:シラーズ、カベルネ・ソーヴィニョン、ピノ・ノワールなど

 1852年に金鉱として発見されたのをきっかけに発展し、1856年に最初のブドウの木が植えられた。1980年代から本格的にワイナリーが設立され始めた。州道315号線沿い、標高400m付近、わずか10kmの距離の間に、Giaconda ジャコンダ、Castagna カスターニャといった個性的なワイン生産者が集まっている。土壌は柔らかさの度合いが異なるものの、ほぼ花崗岩質で覆われている。同じ気候・土壌にも関わらず、造り手によって得意な品種が異なる。主な品種は、シャルドネ、ピノ・ノワール、シラーズ。ワインの特徴は品種を問わず、口中が冷やされるような印象の強いミネラル感をもつ。


7. Bendigo ベンディゴ
白:シャルドネ、リースリング、ソーヴィニヨン・ブランなど
黒:シラーズ、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロなど

 郊外の緩やかに起伏した土地で、湿度は低く、日照時間は長くて適度な降雨量がある。土壌は酸性で肥沃度が低いため、シラーズやカベルネ・ソーヴィニヨンをベースとした、芳醇(ほうじゅん)な赤ワインを産出する。


8. Macedon Ranges マセドン・レーンジズ
白:シャルドネ、リースリング、ソーヴィニヨン・ブランなど
黒:ピノ・ノワール、シラーズ、カベルネ・ソーヴィニヨンなど

 ピノ・ノワールとシャルドネでカルト的人気のBindi ビンディ、Curly Flat カーリー・フラットや、2011年にバイオダイナミック認証を取得して上質なワインを生産するCobaw Ridge コバウ・リッジといった小規模の個性的な生産者が集まる地域。土壌は多様で花崗岩質の丘が連なり、非常に痩せた山の土壌のため少量の生産量となっている。プレミアム・スパークリングワインも造られる。


9. Heathcote ヒースコート
白:シャルドネが主
黒:シラーズ、カベルネ,ソーヴィニョンなど

 1850年代、ゴールドラッシュで繁栄したエリアで、本格的にワイン産地として注目を集めるようになったのは1960年代 になってから。2002年8月にG.I.登録された。マウント・キャメル山脈が南北に連なり、南東からの冷涼な風が通り見抜けるトンネルを形成し、夏の気温を下げる。標高112~599m。栽培面積1,696ha。地元でカンブリアンと呼ばれる深く赤い石灰粘土質土壌が分布しており、水はけがよく保水力も高いことから、シーズンを通して灌漑の必要がない。無灌漑の畑からは小粒で低収量のブドウが育ち、 深い色調で凝縮度がありながら、酸味とタンニンがよく馴染んだ上質なシラーズが生産される。2020年の収穫量は7,049t、内約半数をシラーズが占める(3,237t)。代表的な生産者は、1975年から自根でのシラーズのオーガニック栽培を始めたJasper Hill ジャスパー・ヒルで、 仏ローヌのM. シャプティエがオーストラリア進出する際に影響を与え、ジョイントベンチャーのワインもリリースしている。

10. King Valley キング・ヴァレー
白:シャルドネ、リースリング、ソーヴィニヨン・ブランなど
黒:カべルネ・ソーヴィニヨン、シラーズ、メルロなど

 キング・リヴァー流域のブドウ栽培地。長い歴史をもつ小地区Milawa ミラワの標高が最も低く155m、南端のWhitlands Plateau ウィットランズ台地が標高800mで、オーストラリアで最も標高の高いブドウの産地のひとつとなっている。地形は、北部が平坦で、南部は山岳地帯である。大半のブドウ畑は比較的緩やかな傾斜の北向きもしくは北東向きの斜面に位置している。
 南北の気候の差は激しく、標高の低い北部から標高の高い南部に向かって徐々に降雨量が増え、積算温度が低くなる。ミラワの栽培期の雨量は329mm、ウィットランズでは630mmとなっている。ブドウの熟す時期も徐々に遅くなり、ワインのスタイルも変わる。標高の最も高い地域では早期に熟すタイプの白のみがテーブルワイン用に適しているが、この気候は良質のスパークリングワインを造るのに理想的といえる。

11.Rutherglen ラザグレン
白:シャルドネ、ミュスカデル、リースリング、セミヨンなど
黒:シラーズ、カベルネ・ソーヴィニョン、マスカット・ア・プティ・グラン・ルージュなど

 この地区はマスカットとミュスカデル(オーストラリアで伝統的にトカイと呼ばれる)から造られる酒精強化ワインの産地として有名である。壮大なレンガ造りの建物とワイナリーで歴史的に知られており、ゴールドラッシュの時代にタイムスリップしたような雰囲気が味わえる。完全に大陸性気候で、夏は非常に暑いが、夜は涼しくなる。(1858年設立の「Chambers Rosewood チェンバーズ・ローズウッド」や、1870年設立の「Campbells キャンベルズ」など、)家族経営で代々続く伝統ある生産者が有名。ラサグレンのシラーズは、厚みがあって豊潤なフルボディワイン。

12.Gramplans グランピアンズ
白:シャルドネ、リースリング、ソーヴィニヨン・ブランなど
黒:シラーズ、カベルネ・ソーヴィニョン、ピノ・ノワールなど

 上品で力強さを兼ねた赤ワインが特産で、瓶熟成も大変長いのが特徴。公式の小地区に、Great Western グレート・ウェスタンがある。生産量の8割を赤ワインが占める。
 オーストラリア大分水嶺(グレート・ディヴァイディング・レンジ)の裾野に位置するところは、標高差がある。グレート・ウェスタン/グランピアンズ地区は、ヴィクトリア州の東部の産地よりはかなり涼しくなる。1,400℃を少し上回るほどと積算温度は低いが、ブドウ発育シーズンの日照時間の比率が高いため、その気候が補われ、湿度も適度になる。この地区は特に遅摘み品種の栽培に適し、代表される品種はシラーズである。

13. Henty ヘンティー
 オーストラリア大陸で最も冷涼なワイン産地のひとつで、羊毛業で有名な農業地。主に赤土を覆う玄武岩にブドウ畑が広がっている。スパークリングワインと繊細な香りのするワインを生産している。主な品種はシャルドネ、リースリング、ピノ・ノワールなど。

(1975年設立のCrowford River クロフォード・リヴァーは、特にリースリングが有名で、Langton's Classification* ラングストンズ・クラシフィケーションでは「Outstanding」に格付けされている。

*オークションハウス「Langton's ラングトンズ」が発表するファインオーストラリアワインの格付けで、分類は上からExceptional エクセプショナル、Outstanding アウトスタンディング、Excellent エクセレントの3段階。)

14. Alpine Valleys アルパイン・ヴァレーズ
 標高150〜320m程度。分岐した川からできた4つの谷から成っている。標高により2つの全く異なった気候をもち、その土壌は川の恩恵を受け肥沃。他のアルプス地方同様、気候ははっきりとした大陸性気候で、春の霜は栽培に打撃を与え、収穫前の秋に再び霜が発生する。故に、丘陵地の風通しの良いところにブドウ畑を位置することにより、霜からの被害を最小限に抑えている。主な品種はシャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、メルロ、カベルネ・ソーヴィニヨンなど。

15. Murray Darling マレー・ダーリング
白:シャルドネ、マスカット・ゴールド、コロンバール、セミヨンなど
黒:カベルネ・ソーヴィニヨン、シラーズ、メルロなど

 ニュー・サウス・ウェールズ州との境に流れるマレー川に沿って、両州東西にまたがる広大な産地。生産量の多いブランドワイン用のブドウを得るのに、非常に重要な地域である。夏は暑く、日照時間が長いため乾燥している。ブドウ発育シーズン中の降雨量が少ないが、灌漑用水は豊富。品質は非常に安定している。


④ New South Wales ニュー・サウス・ウェールズ州(NSW)
 オーストラリアのワイン産業の起源は、ここニュー・サウス・ウェールズ州にある。ブドウ栽培は1790年代にシドニー周辺で始まり、1820年代になって「ハンター ・ヴァレー」に広がり、大手ワイナリーが拠点をおき、長らく重要なワイン産地として君臨してきた。しかし90年代後半以降は、有カワイナリーが南オーストラリア州にワイナリー設備を統廃合するなどして、70年代の重要拠点としての位置づけからは、変わりつつある。代わりに個性的な中小ワイナリーの存在感が増し、シドニーから日帰りで訪問できるワイン産地として、根強い人気をもっている。
 そして90年代後半以降、より冷涼なブドウ栽培地を求めるワイン産業の要請で、標高の高い場所へのブドウ畑の開発が盛んになる。それが、オーストラリア大分水嶺 グレート・ディヴァイディング・レンジの斜面を利用した「カウラ」「マジー」「オレンジ」であり、この順でより標高の高い地域へとブドウ畑の開発が進んだ。これがNSWの産地形成の新時代を象徴している。
 近年では、極めて寒冷なキャンベラ・ディストリクトから、アロマの豊かなシラーズ生産者が登場している。
 NSW州の2021年の収穫量は518,040t、国全体の29%を占める。

* NSW州には、オーストラリア首都特別地域(Australian Capital Territory)のワイン産地であるキャンベラ・ディストリクトも含まれる。

1. Hunter ハンター
白:シャルドネ、セミヨン、ヴェルデーリョ、ソーヴィニヨン・ブランなど
黒:シラーズが主、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロなど
 ハンター・ヴァレーの代表品種は、シラーズとセミヨンである。

 最初のブドウの木は1825年に植えられた。この地区は、Pokolbin ポコルピン(Lower Hunter Valley ローワー・ハンター・ヴァレー)、Broke Fordwich ブローク・フォードウィッチ、Upper Hunter Valley アッパー・ハンター・ヴァレーの3つの小地区に分類される。ローワー・ハンターのブドウ畑の多くは、適度な斜面の広大な丘陵地に位置し、アッパー・ハンターのブドウ畑は、肥沃な黒沈泥ローム土の恵みを受ける川の近くに位置している。この地区の気候は温暖からやや暑いところまであり、1月から4月は降雨量が多く、湿度があり雲に覆われている。
 このため代表的白品種セミヨンは、降雨を避け、酸度が下がる前に収穫し、長期の熟成を経て飲まれる。この土地の気候条件から生み出されたものであり、いわゆる「Hunter Semillon ハンター・セミヨン」として親しまれている。セミヨンは元来、ボルドーのソーテルヌ地区の甘口品種として有名だが、オーストラリアでは、100%同品種を使い、辛口に仕上げるスタイルが伝統的に造られている。その典型がTyrrell's ティレルズ社が造る「VAT1 Semillon ヴァット・ワン・セミヨン」」で、最低5年の瓶熱成を経てリリースされる。6〜10年以上熟成を経たものは、柑橘系の香りのほかにハチミツや香ばしい焦げ香をもつ。
 また、シラーズは60〜100年の古木が豊富で、セミヨン同様に長期熟成に耐える。味わいは他産地のものと大きく異なり、大柄・豊満にはならず、引き締まった、またEarthy アーシーな、土を感じさせる風味を特徴的にもつ。
 ヴェルデーリョは1825年にオーストラリアにもたらされ、マデイラスタイルの酒精強化ワインの原料として使用されてきた。Broke Fordwich ブローク・フォードウィッチは、国内最古のヴェルデーリョが現存し、現在ではアロマが豊かでフレッシュな辛ロワインとして親しまれている。


2. Cowwra カウラ
白:シャルドネ、セミヨン、ヴェルデーリョ、ソーヴィニヨン・ブランなど
黒:シラーズ、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、カベルネ・フランなど

 標高300〜380m。この地区は、Cowra Estate カウラ・エステート社が、1973年にブドウを最初に植えてから大きく発展したが、断続的なものであった。全体的には白ワイン生産に適した産地で、手頃な価格で香味のしっかりしたシャルドネが特産である。気候は暑くて乾燥し、1月(夏)の平均気温は23.5〜24.4℃を記録する。気温はMudgee マジーよりもかなり高い。


3. Mudgeeマジー
白:シャルドネ、セミヨン、ソーヴィニヨン・ブラン、リースリングなど
黒:シラーズとカベルネ・ソーヴィニヨンが主、他にメルロ、ピノ・ノワールなど

 標高450〜600m。カウラよりもさらに標高が上がり、ワインには、より清涼感ある酸味が感じられるようになる。マジーとは、昔この地域に住んでいた原住民のアボリジニの言葉で「丘のある巣」という意味。ブドウ栽培の歴史は1858年まで遡ることができる。一帯は丘の広がる美しい風景を呈する。カウラ同様に、大分水嶺(グレート・ディヴァイディング・レンジ)の西斜面に位置する。雨量が少なく、昼夜の寒暖差が大きく、晴天の多い夏と秋のおかげで、長い生育期間をもつことができる。従って、栽培品種はリースリングやピノ・ノワールから晩熟のカベルネ・ソーヴィニヨンまで幅広く、どれも適熟期まで収穫を待つことが出来る。収穫はハンター・ヴァレーより4週間遅い。


4. Orangeオレンジ
白:シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、マルサンヌ、リースリングなど
黒:シラーズとカベルネ・ソーヴィニヨンが主、他にメルロなど

 標高600〜1,150m。マジーよりもさらに数百m、標高が上がる。ブドウ畑は、標高の異なる様々なスポットに展開されており、その性質は一様ではない。積算温度が2,000℃と非常に高いところもあれば、標高1,396mのマウント・カナボラスの上の斜面にある畑は1,200℃まで下がり、とても寒くなる。オレンジの町60km範囲内の気候が、変化の大きいことを意味する。全体的にみると、重要なブドウ畑のある範囲では真夏の平均気温が穏やかで暖かく、32℃を越えることは滅多にない。   
 標高が高いことによる「冷涼さ」をもちながら、夏から秋にかけて雨量が少なく、日照量が豊かであるために、様々な品種の栽培が可能。リースリングやピノ・ノワールといった冷涼品種から、シラーズ、カベルネ・ソーヴィニヨンまで幅広い。またどの品種にも酸味が比較的豊かであることが共通している。
 シドニーから車で3.5時間、キャンベラから3時間の距離にあり、ワインと地元の食材だけでなく、劇場やアートセンターでのオペラや文化鑑賞、ゴルフ、気球なども楽しめ、週末を過ごす人気のエリアとして発展している。


5. Canberra District キャンベラ・ディストリクト
 キャンベラ地区のブドウ畑は、オーストラリア首都特別地城(ACT)の周辺に点在しており、キャンベラ北側からヤスの町を結ぶバートンハイウェーに沿ってもっとも多く集まっている。もうひとつの地区は、Lake George ジョージ湖周辺にあり、1971年にブドウを初めて植えたエドガー・リーク博士が創設者である。良質なリースリング、シャルドネ、シラーズ、カベルネ・ソーヴィニヨンが生産され、地元消費向けと観光客向けのセラードア(ワイナリーでの直接販売)がほとんどである。この地区は、オーストラリアでも内陸気候の強い産地のひとつである。標高が高く、また冷涼であることで、ワインのアロマは全般に豊かである。「Clonakilla Shiraz Viognier クロナキナ Sh Vi」は、北ローヌ のコート・ロティに習ってシラーズにヴィオニエを混醸して造るこの産地のアイコンワインである。


6. Hastings River ヘイスティングズ・リヴァー
 太平洋の温暖な海に近接しており、湿度が非常に高く、降雨も多い。灌漑に依存する必要がない産地である。夏はとても温暖で、熱帯性サイクロンの影響をしばしば受ける。この地区の開拓調査を行ったヘンリー・ファンコート・ホワイトが、1837年に最初のブドウを植えたのが始まり。最高の収獲年は、晩夏の降雨量が平均より下回った年となる。栽培品種はシャルドネ、セミヨン、ソーヴィニヨン・ブラン。カビ病に強いフランスの交配ブドウ品種Chambourcin シャンプリサンの栽培が盛んである。


7. Tumbarumba タンバランバ
  タンバランバは、オーストラリアで最も遠隔地にある生産地のひとつで、スノーイー山脈の中標高300〜800mに位置している。1982年以降にブドウ栽培が始まった新しい産地で、現在25以上のブドウ畑が存在する。ピノ・ノワールとシャルドネが全体の75%を占めており、主に高品質なスパークリングワイン造りに使用されているが、天候に恵まれた年や、条件の優れた畑からは冷源な気候を生かした上質なスティルワインも生産される。


8. Riverina リヴァリーナ
白:セミヨン、シャルドネ、トレッビアーノ、コロンバールなど
黒:シラーズ、カベルネ・ソーヴィニヨンとメルロが主、他にルビー・カベルネなど

 量販用ワイン向けの重要なブドウ栽培地域で、同州で栽培されるブドウの55%を生産し、オーストラリア全国では15%に相当する。カセラ社の本拠地で「yellow tail」の原料供給地である。マランビジー川からの灌漑用水を引いてブドウ栽培しており、南オーストラリア州のリヴァーランドやヴィクトリア州とNSW州にまたがるマレー・ダーリングと同様の位置づけのワイン産地として、捉えることが出来る。夏場の気候は暑く乾燥しており、雨は主に冬期に降る。ブドウの質は年間安定している。非公式の小地区としてはGriffith グリフィスとLeeton リートンがある。高級ワインも生産されており、セミヨンの貴腐ワインでは、「De Bortoli Noble One デ・ボルトリ・ノーブル・ワン」が国際的に非常に有名である。


9.New England Australia ニュー・イングランド・オーストラリア
 NSW州北部、オーストラリア大分水嶺(Great Dividing Range)の標高を生かしたブドウ栽培が行われている。1850年代にWyndham Estate ウィンダム・エステートの創設者George Wyndham ジュージ・ウィンダムが開拓し、国際的に評価されるワインが生産されていた歴史をもつ。2019年の栽培面積は77haと小さいながらも、その多くが標高1,000m以上に位置し、オーストラリアで最も高標高のワイン産地として近年注目されている。



⑤タスマニア州Tasmania(TAS)
白:シャルドネ、リースリング、ソーヴィニヨン・ブランなど
黒:ピノ・ノワール、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロなど

 ピノ・ノワールとシャルドネの極めて重要な生産拠点になりつつある、冷涼産地である。
 タスマニアに最初にワイン用ブドウ樹がもたらされたのは、1823年という記録がある。1840年代には州都ホバート近郊で小規模なブドウ栽培が行われていた。商業用の規模をもつブドウ畑が開かれたのは1970年代半ばに入ってからのことである。
 島全体は北海道のちょうど8割に当たる広さ(6万2,400㎢)で、このうち37%が「世界自然遺産」「自然保護区」などに指定され、人間の介入が許されない広大な原生林が島の西半分に残されている。ワイン産地は年間降雨量が600〜800mm程度と少ない島の東側に分布しており、大きく北の都市ランセストン周域と、南の州郡ホバート周域に分かれる。栽培面積は1,702ha(2019年)以上、総収穫量は14,478t(2021年)。生産構成はピノ・ノワールが48.1%、シャルドネが25.5%と両品種が大部分を占める。次いでピノ・グリ、ソーヴィニヨン・ブラン、リースリングの順。ほかにはムニエ、シラーズ、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、ゲヴュルットラミネルも栽培されている。総収穫量の35%がスパークリングワインに使用される。タスマニアのワイン用ブドウの価値は3,146豪ドル(2021年)で、全国平均の1t当たり701豪ドルに対して、他のどの産地よりも圧倒的に高価で取引され、オーストラリア随一のプレミアム産地である。
 ここでのブドウ栽培は2つの性格をもつ。まず、南オーストラリア州やヴィクトリア州に本拠地をもつ大手ワイナリーが、瓶内二次発酵スパークリングワインの原料供給地として、自社畑や契約栽培畑を展開し、長年活用している。
 代表的なところでは「Chandon Australia シャンドン・オーストラリア」「Hardys ハーディーズ」などがあげられる。近年では、大手ワイナリーのフラッグシップとなるスティルワインにも、タスマニアのブドウが使われている。例えば、ペンフォールズ社の「Yattana ヤッターナ・シャルドネ」や、ハーディーズ社の「Eileen Hardy アイリーン・ハーディー・シャルドネ」には主にタスマニア産のブドウが使用されている。また、「House of Arras ハウス・オブ・アラス」は豪州を代表するプレミアム・スパークリングブランドに成長している。
 ブドウは収穫後、畑近くの搾汁設備で搾り、モスト(果汁)あるいはベースワインの状態で専用ローリーでフェリーに乗せ、メルボルンやアデレードの港から本社ワイナリーに運ばれる。
 もうひとつは、地元ワイナリーによるワイン生産である。ワイナリー数はすでに160ほどある。比較的生産量がある中小ワイナリーが5社ほどあり、そのほかは「個人」によるドメーヌ型の小さな造り手となっている。
 重要産地はTamar Valley テイマー・ヴァレー、Pipers River パイパーズ・リヴァー、North West ノース・ウエスト、Coal River Valley コール・リヴァー・ヴァレー、Derwent Valley ダーウェント・ヴァレー、East Coast イースト・コーストなどである。これらは、それぞれの気候地質・土壌・ワインの特徴が把握されているが、まだG.I.の取得にまでは至っていない。従ってラベルに地域を表示する場合は単に「Tasmania」と記される。

[気候]
 ランセストンは、ニュージーランドのマールボロとほぼ同緯度、ホバートのそれは、クライストチャーチとほぼ同じである。夏場の最高気温はランセストンで24℃程度、最低気温は12℃まで下がる。ホバート周辺はさらに低い。非常に冷涼で、いずれの産地も海の影響を受ける海洋性気候。このため、日照条件の良い場所を選ぶことが非常に重要である。雨量はランセストン周城が年間800mm、ホバート周城が600mm程度で、冬場に集中する。ワイン生産者のなかには、作柄によって、冷涼な収穫年であればスパークリングワインの生産を増やし、温暖であればスティルワイン生産を増やす工夫をしているところもある。

[土壌]
 島そのものが、地球上の陸地として非常に古い。ワイン産地のサブソイル(心土 / 土壌下層部)は、デボン紀、三畳紀、ジュラ紀の火成岩と堆積岩(たいせきがん)で占められている。最も広い範囲に分布しているのは「ジュラシック・ドレライト(ジュラ紀の粗粒玄武岩)」で、1億7,000万年前に形成された。パイパーズ・リヴァー周域は、デボン紀の堆積岩で、主に砂岩やシルト岩がみられる。表土は赤く、厚い粘土層で、表土が厚いために、収穫年の気候によっては成熟が非常に難しくなることが、指摘されている。

[ワインの特徴]
 最大のワイン産地である、ランセストン近郊、テイマー川流域の「テイマー・ヴァレー」は、ワイン生産量の5割を占める。ピノ・ノワールを例にあげると河口(海)に近づくにつれ、冷涼であるため「赤い果実」の香味が豊かになり、川上(内陸)へ行くほどに温和になり「黒い果実」へと変化していく。
 テイマー・ヴァレーの東隣「パイパーズ・リヴァー」は、スパークリングワイン生産者のブドウ畑の拠点となっている。この地のピノ・ノワールは、クローヴやユーカリの香りをもつものが目立つ。
 ホバートから近いコール・リヴァー・ヴァレーとダーウェント・ヴァレーは、非常に冷涼であるため、この地のピノ・ノワールは「華やかなアロマ」「赤い果実」が特徴となっている。ただ、コール・リヴァー・ヴァレーには、「Domaine A ドメーヌ ・A」のようにカベルネ・ソーヴィニヨンをしっかり完熟させ、豪州国内でも評価が与えられているワイン生産者が存在する。

(尚、Domaine Aは2018年にホバート近郊にある現代美術館Monaを運営するMorilla Estate モリラ・エステートに買収された。美術館にはセラードアやレストラン、ワインバーも併設され、一日中楽しめる人気の観光名所となっている。)

 イースト・コーストのピノ・ノワールは、タスマニアの中では骨格のしっかりとした、力強いものが生まれている。



⑥クイーンズランド州Queensland(QLD)
 クイーンズランド州は日常消費用ワインのブドウ栽培から始まり、今日では高級ワインのブドウ栽培において急成長を遂げている州のひとつ。
 クイーンズランド州のワイン産業は当初、スタンソープ近郊のグラニットベルト地区が中心だったが、Mount Tamborinマウント・タンボリーン、Ipswich イプスイッチ、Toowoomba ツーウーンバ、Kingaroy キンガロイ近郊のサウス・バーネットの開発と共に広がりつつある。
 クイーンズランド州の2020年の収穫量は深刻な干ばつの影響により、前年比80%減の191t。エリアによっては90%以上の作物を失ったところもある。 長引く干ばつだけでなく、山火事や煙害、遅霜、洪水、雹(ひょう)、さらにパンデミックと、チャレンジが続いたが、2021年の収穫量は385tに回復した。


1. Granite Belt グラニット・ベルト
白:シャルドネ、セミヨン、マルサンヌ、ヴェルデーリョなど
黒:シラーズ、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロなど

 この地区には、多数のイタリア人の努力で築かれた生食用ブドウの長い栽培歴史がある。イタリア人は、この生食用のブドウからワインを造っていた。最初のワイン用ブドウとしてシラーズが植えられたのは1965年。1990年代の後半からはシャルドネ、セミヨン、シラーズ、カベルネソーヴィニヨンのブドウ栽培が始まった。
 この地区はオーストラリア大分水嶺(グレート・ディヴァイディン・グレンジ)の内側、または尾根の西側に位置し、緯度が北寄りであるにもかかわらず、810mという標高のため生食用ブドウの栽培に適している。春に霜があり、ブドウ発育シーズンの初めと終わりの夜間は涼しくなる。湿度は高く、亜熱帯のモンスーンの影響で真夏の気温は穏やか。


2. South Burnett サウス・バーネット
白:シャルドネ、セミヨン、ヴェルデーリョなど
黒:シラーズ、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロなど

 サウス・バーネットは亜熱帯で、長い夏と温暖な冬、そして多様な土壌から成る。最初のブドウの木は1900年代初頭に植えられたが、近代的なワイン生産は1993年に始まった。シャルドネはネクタリンやメロンの果実香がはっきり感じられ、柔らかさがある。温暖な気候は、滑らかでしなやかなシラーズを産し、グラニット・ベルトとは異なるスパイスや胡椒香が感じられる。



酒精強化ワイン
 歴史の項でも触れたとおり、1880年代以降ワイン造りは、辛口のテーブルワインから酒精強化ワインへとシフトしていく。1930年代から1960年代までは、酒精強化ワインの生産量がワイン全体の70%を占めていた。
 現代は、酒精強化ワインの消費量は世界中で減少している。豪州国内でもその生産量はこごくわずかとなっているが、その生産の歴史から、個性際だっ重要な存在であることに変わりない。
 主な生産地はバロッサ・ヴァレー(南オーストラリア州)とラザグレン(ヴィクトリア州)。
 2008年にEUとの合意により、それまで主に豪州国内販売には許されていた「ジェネリック・ワイン」の名称(バーガンディ、クラレット、ライン、ポート、シェリーなど)使用が、産地呼称保護の観点から、2010年から国内販売での使用も禁止されるようになった。なお、この「ジェネリック」表示は、国内有力産地の知名度が低い時代には、ワインのタイプを暗示するものとして、豪州や米国の生産者には役立てられてきた経緯がある。
 2010年以降は、シェリーは国内名称「Apera アペラ」に変更された。カテゴリーは、ドライ、ミディアムドライ、スイート、クリームの4種類。ポートは「Fortified フォーティファイド」に変更された。カテゴリーは、ヴィンテージとトゥニーの2種類。
 リキュール・トカイは、「Topaque(トパーク)」に変更。リキュールのカテゴリーは、「リキュール・マスカット」と合わせ、Rutherglen ラザグレン
(平均3〜5年熟成)、Classic クラッシック、Grand グラン、Rare レア、の4等級が生産されている。

[フォーティファイド]
トゥニー:シラーズ、グルナッシュ、ムールヴェドル(マタロ)から生産される。生産方法は、ポルトガルのポートと同様。また、ハウススタイルを維持するために、ソレラシステムを採用している。

ヴィンテージ:多くの場合、品種はシラーズが用いられる。トゥニーよりも一般に長めの発酵期間で、樽での熟成は1〜2年と短め。その後意詰めされる。

[リキュール]
 トパークは、ミュスカデル種が用いられる。リキュール・マスカットは、ブラウン・マスカット種(ア・プティ・グラン種)から生産される。いずれも、ラザグレンが主要産地。大小の樽で長期間貯蔵され、一般にソレラシステムが用いられる。
 リキュール生産者8社で構成するMuscat of Rutherglen Network マスカット・オブ・ラザグレン・ネットワークが3ヵ月ごとに生産した酒精強化ワインを4等級に評価・分類している。「Rutherglen ラザグレン」=基本的なスタイルで、レーズン風味の果実香が特徴。平均3〜5年熟成、残糖量180〜240g/ℓ。「Classic クラシック」=深みのある、香り高い、複雑さがある。平均6〜10年熟成、残糖量200〜280g/ℓ。
「Grand グランド」=独特のランシオ香が特徴で、濃厚な味わい。平均11〜19年熟成、残糖量270〜400g/ℓ。
「Rare レア」=もっとも芳醇で、一握りの最高峰とされる。20年以上熟成、残糖量270〜400g/ℓ。




参考資料 日本ソムリエ協会教本、隔月刊誌Sommelier  
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