AI幻滅期からの、アジャイルAI開発の始まり。
はじめに
最初に私の経歴に少し触れると、直近約2年間アメリカやイギリス企業で仕事をしていて、PMやエンジニアとしてAIプロジェクトをいくつか行いました。その経験を通して感じてきた、今までの企業のAI導入と今後についてノートに書いてみました。
1. AI幻滅期の始まり
ガードナージャパンの日本における2019年のテクノロジーのハイプサイクルによると、人工知能(AI)の技術は「幻滅期」に入ったと位置付けられています。
日本におけるテクノロジーのハイプサイクル:2019年(出典:ガートナー ジャパン)
私が2018年にアメリカで働き始めたときは、既にアメリカでは幻滅期を終えて、啓蒙活動期に差し掛かっていたように感じます。(渡米した当初は、AI×BPOなどの取り組みが多く、企業は戦略的にAI技術の費用対効果を測っていました。特に英語圏だとBPO可能な業務であればインドやフィリピンへ依頼することでコストが圧倒的に安くので、より慎重に効果を測っていたように感じます。)
対照的に、日本は人工知能(AI)が、「過度な期待」のピーク期の真っ只中で、多くの企業がこぞってAIへ多額の投資を行っていて、その違いに驚いたのを覚えています。
日本の多くの企業は1つの概念実証(PoC=Proof Of Conceptの略)に対して、数ヶ月〜半年、金額でいうと数百万から数千万をかけて様々なPoCプロジェクトを行っていました。しかし、そのほとんどはPoC止まりで実運用まで進めていません。その現象をインターネット上では揶揄して、「PoC死」と呼んでいます。
2. PoC死の原因
この時期のAIプロジェクトがPoC単発で終わり、実運用まで進まなかった理由の多くは以下ような感じだと思います。
① AIに対する過度な期待で現実とのギャップが大きかった
② 目的が曖昧で初めてしまい、AIの費用対効果が合わない
①は、AIプロジェクトで100%の精度を求めてしまうケースです。
AIは事前に性能を完全に決定・保証できるわけではなく(1 + 1 = 2のように必ず決められた結果になるわけではない。)、AIに与える入力データも日々変化していくため、例えば半年後前のデータに対して高精度を出すモデルを開発しても、現在のデータに対して有効であるとは保証できません。それが今のAIの限界です。
そのため、絶対に失敗できないようなオペレーションを完全に置き換えるといったケースにはAI技術を取り入れにくいです。しかし、AIに100%の精度を求めてしまい失敗したプロジェクトが多くあります。
②はPoCでAIの精度ばかりを気にしてしまい、業務上の費用対効果を事前に設定できていないケースです。
例えば、「請求書OCRで読み取り精度が95%以上だと、本来人が行う入力業務をAIに任して、チェック要員だけが必要になるので、100万円/月ほどのインパクトがある。」など、求める性能を明確に定義しないままプロジェクトを進めて、実運用を見据えた費用対効果が曖昧で失敗してしまうパターンです。
このように、「過度な期待」のピーク期においては、今のAIの限界を超えた性能を求めたため、PoCで期待した効果が得られず失敗したケースした企業が多かったように感じます。
3. 実運用に必要なこと
さて、ここまでAIに対し過度の期待をして導入に失敗したケースを話しました。しかし、PoCで良い精度が出て費用対効果があると判断しても、実運用でAIを利用するには大きなハードルがあると感じます。
通常、AI開発・運用は以下のようなプロセスで行われます。
PoCではデータ設計からモデル評価までしか行わない場合がほとんどですが、実運用ではデプロイから後続のプロセス構築が必須になります。
前述したように、AIはその性能を完全に保証できないため、運用開始後も精度をモニタリングして、継続的に教師データの更新やモデルのチューニングなどを行う必要があります。
その仕組みが整っていないと、PoCの段階で良い精度が出ても、運用をしているうちに精度が下がり、業務で使い物にならなくなります。
このように継続的に機械学習モデルをアップデートする仕組みはMLOps(機械学習基盤)と呼ばれています。実運用ではMLOpsを構築することが、AIによるビジネスインパクトを最大化するために最も重要になります。
4. MLOpsの発展
現在日本でも、AIの実用化に本気で挑戦している企業は、MLOpsへの投資を積極的に行っているように感じます。ZOZOさんなどは早くからMLOpsチームを構築しています。(ここからは少しエンジニアよりの言葉が出ます。)
また、AWSやGCPに代表されるクラウドサービスプロバイダーが、機械学習基盤向けサービスの開発にかなりの力を入れています。SageMakerやKubeflowなど機械学習基盤のサービスがものすごい勢いでリリース・改善されています。(日本でも株式会社ABEJAがMLOpsサービスを提供しています。)
さらに、AutoML(自動機械学習)と呼ばれる領域もあり、データさえ準備すれば、専門的な知識がなくても機械学習モデルを自動で作って、AIを利用できるというサービスです。(代表的なサービスとして、Googleが提供しているCloud AutoMLがあります。)
先ほどのAI開発・運用プロセスだと青色の部分がMLOps・AutoMLによって自動化されていく領域です。
このようなサービスを使って機械学習基盤を構築することで、企業は今までスポット的に開発していたAIを、継続的に改善してAIを確実かつ迅速に業務で活用できるようになります。
*余談ですが、モデル開発(アルゴリズムの開発部分)の価値は、今後低くなっていくと思っています。最新のアルゴリズムはGAFAがTensorFlowやPyTorchなどオープンソースのライブラリとして提供していたり、論文を読んで実装するだけで、専門知識がなくても少し勉強すれば誰でも簡単に利用できます。(最近は論文にもソースコードがついていたりする。)
5. アジャイルAI開発の始まり
MLOpsの発展もあり、今後企業がAI技術を実運用で利用するためには、単発のPoCにお金を投資するのではなく、腰を据えて中長期的なプロジェクトを考える必要があります。
1つPoCに多額の投資をして、精度を追い求めるよりも、多少精度は低くても、実際にオペレーションを回してみて、ビジネスの変化や新しいデータに対して素早く対応する、いわゆるアジャイル的にAI開発・運用を行っていくことが、AIプロジェクト成功(費用対効果の最大化)の鍵だと考えています。
実際に自分が経験した海外企業とのAIプロジェクトでは、2ヶ月で3、4個のモデルを開発し、その後2週間ぐらいのスパンでビジネス側からフィードバックをもらってモデルを改善をしていく、といった開発サイクルで進めていました。
AIの性能は事前に完璧に保証できないため、試してみないと見えない部分が多くあります。そのため、不確定要素に迅速に対応するためのオペレーションの構築が不可欠です。アジャイル的に開発を進めることで、オペレーションの構築ともに、ユーザーは費用対効果を明確に測ることができ、プロジェクトの成功率を大幅に上げると考えています。
今後は短いスパンでのPoCを行い、AIモデルを素早く改善していくことが、AIの付加価値を最大化し、企業が変化の早い世の中で競争を勝ち抜くために鍵になると思っています。
最後に
私は現在アジャイルチームのためのアノテーション(教師データ作成)サービス「FastLabel」を開発・提供しています。アノテーション領域に、自動ラベル付けやアクティブラーニングなどのテクノロジーを活用して、労働集約から開放し、AI開発サイクルを高速に回すことをサポートしています。
ご相談・興味のある方はぜひご連絡ください。