魔法は使おう!「英語のそこのところ」第149回
【前書き】
今回、投稿するエッセイは7年前の2017年12月7日に水戸市の「文化問屋みかど商会」のファクシミリ配信誌に掲載されたものです。時節にそぐわない内容はご容赦ください。
日本語は相手との関係性が大切な言語で、Native English Speakerたちはそのちょっとした言葉づかいで苦労します。ビジネスの場で、日本語を話すNative English Speakerが「おれは~」なんて言いませんか? あれです。一方で、相手の関係性を重視して英語を話すNative Japanese Speakerは、知らず知らずのうちに失礼な言い回しをしていることもある。そんなことNative English Speakerと話したお話です。(著者)
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2008年に株式会社メディア・ポートより上梓され、その後同社の解散により入手不可能になり、みなさんにはご迷惑をおかけしておりましたが(一時は、古本が2万3万ぐらいで取引されていたようで。いやはや、私には一銭も入りませんが_| ̄|○)、kindle という形で復活させることが出来ました。
これを機にぜひお手に取ってみてください。
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この「ドリル22」では名曲World In Unionを題材に英文を作っていきます。英文を作ってみたあと、ぜひ「World In Union」をYou Tube やCDで聞いてください。より意味が深く判って感動します。
一つの夢がある、わたしは、とてもめずらしく価値があって、とても本当だと感じるので(夢なのだけど)。
団結したすべての世界、ひとつとしての世界。
一緒に集まっている、ひとつの精神、ひとつの心。
すべての信経、すべての肌の色、ひとたび手をつなげば(=ひとたび加われば)、決して離れない。
英語でどう言うのでしょうか?
このテキストを使えば、きっちり身に付きます。お試しください。
【本文】
12月も上旬です。普通の企業であれば、今年もあと3週間、もうひと踏ん張りがんばろうっということになる時期かと思いますが、私が以前勤めていた英会話スクールでは12月の上旬だと今年はもう残り2週間という感じで、年末のあいさつ回りを始めていました。
ずいぶん早いなと思われるかもしれませんが、Native English speaker たちが、クリスマス前から休みをとるんでどうしても普通の企業様よりも一足早く休みに入ってしまうんですね。どうしても前倒しで今の時期ぐらいから、始めざるを得ない。もちろん先様からも随分早いな、この怠け者 という目で見られたものでしたが、ここにはひとつ秘策があって、ごあいさつに伺う時に飾りにできるようなクリスマスカードを持参するんです。これも早いなと思われるんですが、そこでクリスマスカードは12月の初めに贈って、それをクリスマスまで飾ってもらうのが欧米でのやり方なんですよと一席ぶつ。へぇっと喜んでもらえるし、早めの挨拶もそれで整合性が出るんで、本当に助かっていました。
「喜んでもらえてよかったわね」
金髪碧眼の綺麗な美少女(美少女に綺麗を重ねるほどきれいってことです)のCatherineと徳田がエレベーターゲージの奥に落ち着くと、Catherineが徳田に言った。あとから乗ってくるビジネスパーソンたちにはばかって小声でつぶやく。
「Catherineのおかげだよ。毎回きちんとレッスンしてくれたからさ。おれのはつけ足し」
「そうね。あたしのおかげね」
さすが奥ゆかしさの「お」の字もないNative English speaker だけに、Catherineは徳田の言葉を額面通りに受け取ってうなずく。徳田はサムズアップして応えた。実際そうなのだから、それでいいのだと思う。この丸ビルの法律事務所の依頼を請け負って半年になるが、Catherineは無遅刻無欠席で、その受講生の評判もすこぶる良かった。自分が褒められたときにそれを認められるのは、良い素直さだと徳田は思っている。
足元は大理石で、壁はピカピカに磨かれたミラー仕様のエレベーターゲージが減速を感じさせずに停止すると、一斉にビジネスパーソンたちが降りていく。徳田はボタンの前で「開」ボタンを押してくれてる女性に、何事か呟いた。女性がにこやかに会釈を返す。
Catherineが「え?」っという顔をして徳田を見たが、徳田はそれに気づかずにゲージを降りた。人の流れに乗って東京駅に向かう。
「ねぇ、徳さん、さっきなんて言ったの?」
先を行く徳田に並んだCatherineが徳田に訊ねた。
「さっき?」
歩きながら徳田は何のことかと首をかしげた。
「毎回きちんとレッスンしてくれたからさって言ったけど……」
素直に思ったことを言うのは、特に気にならないが、褒め言葉だなと気がついて言うのはさすがに気恥ずかしいのか、徳田の返事の語尾がごにょごにょとなる。年甲斐もなくほんのりと頬にも朱がさしている。
「いや、それじゃないの」
「え? それじゃないの?」
徳田は自分が独り相撲を取っていたと判って頭を掻いた。自意識過剰も甚だしいとはこれのことだ。
「じゃぁ、いつのことさ?」
「ほら、エレベーターを降りるときに早口で何か言ったじゃない?」
「ああ、それ。それは『ありがとうございます』って言っただけだよ」
「あ、やっぱり、あれは『ありがとうございます』なのね。あんまり早口だから聞き取れなかったわよ」
「うん、そうだけど、字数が多いからね。ぱっと言わないとね」
「ふ~ん」
納得いっているのかいないのか、Catherineが頷いたあと首をかしげた。
「ねぇ、それって『ありがとう』じゃいけないの?」
「『ありがとう』っかぁ」
徳田は額に手をやって考え始める。
「あたしも親切にしてくれた人には言いたいのよ。感謝の気持をね。もちろん、Thank you って言うのもいいんだけど、日本語で言えればそれに越したことはないじゃない。ここは日本なんだし。でも、そういう場面で日本人ってなんにも言わないのよね。だから、徳さんが言ったのを真似したかったんだけど、あんまりに早いじゃない? あたしには言い難いから、『ありがとう』でもいいのかなと思って」
「なるほどね」
徳田はしばらく考えたが、軽く首を振った。
「あの場面では、『ありがとう』はちょっとまずいかな」
「? どうして」
さっそくNative English speaker のWhy? が来たなと徳田は笑みを浮かべる。
「『ありがとう』って言い方を、見ず知らずの人にすると、相手を自分より下の位置にいると判断してますよってことも伝えちゃうんだよ。お礼をあらわしているのに、相手を見下しているってことになって変なんだよね」
「ええ! そういう風に日本語ではなっちゃうわけ? 『ありがとう』って」
「うん。見ず知らずの人に使うとそうなるな。だから、お礼をあらわしながら対等であることもあらわせるように、『ありがとうございます』って言う必要がある」
「日本語って難しいわね。何気ないところに、落とし穴がある感じ」
「まぁ、相手との関係性に敏感な言語だからね、日本語は」
「相手との関係性かぁ……」
Native English speaker のCatherineにとっては「関係性」によって言葉を変えなければならないのは不思議なことのようだ。しばらく黙り込んでしまう。
「ああ! 判った!」
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