そんなつもりはないんだよ。「英語のそこのところ」第80回
【前書き】
今回、投稿するエッセイは7年前の2015年6月18日に水戸市の「文化問屋みかど商会」のファクシミリ配信誌に掲載されたものです。時節にそぐわない内容はご容赦ください。
我々Native Japanese Speakerは長い言葉を短くつめてしまうのが好きですが、Native English Speakerはそういうことをしません。そこには彼ら独特の感覚があるようです。(著者)
拙著「英語の国の兵衛門」のkindle版を出版しました。
2008年に株式会社メディア・ポートより上梓され、その後同社の解散により入手不可能になり、みなさんにはご迷惑をおかけしておりましたが(一時は、古本が2万3万ぐらいで取引されていたようで。いやはや、私には一銭も入りませんが_| ̄|○)、kindle という形で復活させることが出来ました。
これを機にぜひお手に取ってみてください。
最新刊!
「英語の国の兵衛門」「英語のそこのところ」の作者徳田孝一郎の作った英語テキスト「English Sentence Maker 実践英語・英会話力養成テキスト9 形容詞とその仲間たち2(関係詞)」販売中!
前巻の「形容詞とその仲間たち」で形容詞・不定詞の形容詞的用法・分詞を取り上げ、様々な表現をするスキルを身に着けていただきましたが、今回は、文で名詞を飾りたいときに使う関係代名詞・関係副詞です。
「質問をしてくる奴=私たちにいくつかの質問を頼む少年たち」
「あいつらがする質問=少年たちが私たちに頼むいくつかの質問」
と言った日本語を英語にする手順をすっきり身に着けることができます。
【本文】
「休みの日は何してるの」
一通り自己紹介が終わったところで講師のVeraが、体験レッスンを申し込んだ武田純一に尋ねた。20代の男性だ。新社会人で、10月から海外で仕事をすることになりそうなので、英会話を始めることにしたのだという。
「えっとぉ、休みの日は、サッカーを観ることが多いですね」
「ええ! 純一はサッカーが好きなの?」
Veraの声のトーンが1オクターブ上がる。ポルトガル人のVeraは熱狂的なベンフィカのサポーターなのだ。
「えっ? Veraさんもサッカー好きなんですか? 誰が好きなんです?」
自己紹介までのぎこちない会話が一気に解氷する。アイスブレイク・トークとはまさしくこのことだ。
「あ、あたしは誰っていうよりも、チームが好きなのよ。ベンフィカはわたしの心よ」
「ああ、いいですね。やっぱり、生まれ故郷のチームを応援するんだ」
「純一の好きなチームは、どこ?」
「あ、えっと、好きなチームはマンUかな?」
Veraの顔がちょっと強張る。
「マンチェスター・ユナイテッドのことね」
「そう、マンU」
Veraはちらっと同席する上司の徳田を見た。視線の意図が判らない徳田は首を傾げる。
「へぇ、じゃあ、好きな選手は誰?」
「それは、クリロナですね。あの高速ドリブルからのターンは、すごいじゃないですか」
「ク、クリロナ……、クリスティアーノ・ロナウドのこと?」
「そうそう、クリロナ、マンUにいた頃もすごかったけど、レアルに行って……」
共通の話題が見つかりほっとしたのか、武田は滑らかに話し始めた。
「Vera大成功だったじゃない。トライアルレッスン」
武田をオフィスから送り出した徳田は、Veraに話しかけた。
「そう、よかたったわ。純一、契約するって?」
徳田は、フォルダーに入った契約書を取り出して見せた。
「ばっちりさぁ。ご成約です」
「そう……」
徳田の嬉しそうな顔と対照的に、Veraは浮かない顔だ。
「ん? どうかした? Vera? もしかして」
徳田は体験レッスンの際の意味ありげな目線を思い出した。
「マンチェスターが大嫌いだとか」
マンUという言葉が出てから、Veraのノリが悪くなったのだ。
「そんなこと、ないんだけど、ねぇちょっと」
Veraが応接室を指さした。
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