雰囲気でうながす「英語のそこのところ」第141回
【前書き】
今回、投稿するエッセイは7年前の2017年8月17日に水戸市の「文化問屋みかど商会」のファクシミリ配信誌に掲載されたものです。時節にそぐわない内容はご容赦ください。
海外で買い物していると突然閉店したことありません? 日本だとトラブルになりそうですが、海外ではそんなことない。どうしてだろう? と理由を考えた時の話です。(著者)
最新刊「新宿英語嫌い物語」発売開始!
英語嫌いだった私の英語・英会話マスターへの道
VERSANT スコアアップ法を大公開
英語なんて好きでもないし、得意でもない。ていうか、むしろ嫌い。でも、仕事で英語を教えなきゃならなくなった! さあ、こまったぞ、どうする?
これは作者の15年にわたる英語との格闘をギュッと濃縮した英語スキルアップ物語。
英語・英会話習得、VERSANTスコアアップの詳しいやり方、学習期間がわかって、ふつふつとやる気が湧いてきます。
拙著「英語の国の兵衛門」のkindle版を出版しました。
2008年に株式会社メディア・ポートより上梓され、その後同社の解散により入手不可能になり、みなさんにはご迷惑をおかけしておりましたが(一時は、古本が2万3万ぐらいで取引されていたようで。いやはや、私には一銭も入りませんが_| ̄|○)、kindle という形で復活させることが出来ました。
これを機にぜひお手に取ってみてください。
映画や小説の台詞を英語にして英語力を鍛える「ESM Practice 実践英語・英会話力トレーニングドリル19」発売中!
English Sentence Maker 実践英語・英会話力養成テキスト(全10巻)で、英文法を網羅しましたので、「ESM Practice 実践英語・英会話力トレーニングドリル7」以降では、様々なコンテンツの名言、名台詞を英語するより実践的なトレーニングをやっています。
この「ドリル19」で「Always look on the bright side of life」 を題材に英文を作っていきます。
人生には、悪いこともあるさ。
それらは、本当に君を頭に来させがちだよ。
ちょっと君を毒づかせたり、呪わせたりすることもある。
君が人生の筋(肉の筋)を噛んでいるとき、文句を言うなよ、口笛吹けよ。
そしたら、これは物事たちが一番良い結果に収まることを助けるだろうよ。
さぁ、いつも、人生の輝く面を見なよ。
もし、人生がすげぇ不愉快に(君が)見えるなら、君が忘れてることもあるんだよ。
そして、あれは、声を出して笑うこと、微笑むこと、そして、踊って歌うことさ。
愚かな馬鹿な真似をするな。
ただ、あなたの唇をすぼめて、そして、口笛吹けよ。
英語でどう言うのでしょうか?
このテキストを使えば、きっちり身に付きます。お試しください。
【本文】
8月も後半にようやく入りましたね。今年(2017)は酷暑なんて言われてて、ほんとに暑い日が続きましたがようやく最近になって、暑さが退いてきている気がします。まぁ、退いているって言ったって度合の問題で暑いことは暑いんで、気を抜くと意識を持って行かれる。次はこれをやらなきゃ、あれをやらなきゃと集中力を切らさないようにしないといけない日々です。
以前もお話しましたが、学生のころ私が住んでいたアパートにはエアコンがなくて、ほんとに夏の過ごし方には頭を悩ませたものです。
夏の間中、昼からビールを呑んで涼をとっているわけにもいかないし、読みたい本はあるし、読んだ本を自分なりにまとめるノートは作りたい。なんといっても自分のやりたいことがやれる大学のゼミに入ったんですからね。読みたい本がたくさんある。なんで、しっかり読んで消化して、自分ノートを作って身に付けたい。
しか~~し、
朝、起きた瞬間から30度越えをしている部屋ではそうはいかないんです。机に向かって本の一部を書き写し、それに自分なりの注釈を入れていくうちに、
ぽたぁ~り、
ぽたぁ~り、
と、天井から血が、
ではなく、
顎先から汗が、落ちていく。そのころから万年筆を使っていたんで、汗で滲んでなんにも読めなくなる(笑)
こりゃだめだと、どこかクーラーの効いたところに思いを巡らせます。
アパートの近くのデニーズに行けばいいんだけど、ポケットを探ると今日の分で使っていいお金は500円しかなかったりする。う~む、飯が食えなくなる。じゃぁ、エアコンのある部屋に住んでいる先輩んちに転がり込むか、とも思うわけですが、これまたそういう先輩に限って遠くに住んでいる。交通費が出ません(笑)
で、思いついたのは、大学の図書館。
これ、本当にありがたかったですねぇ。
私の大学は街中にあって、夏休みでも利用者がいるんで開けてあったんです。これこそ、地獄に仏、煉獄にキリスト。で、いそいそと鞄に本とノートと万年筆を突っ込んで図書館に閉じこもるということをやっていました。
あまりご存じない方もおられると思いますが、図書館、特に大学の図書館というのは出版されていないいろいろな論文もあって紀要論文っていうんですが、非常に便利なところなんです。大学生だった私はそういう紀要論文の類には手が出ませんでしたが、へぇ、そういうのがあるんだねぇ、と知っていたんで英会話スクールに入ってから役立つことになりました。今回はそのときのお話です。
「ああ、こ、これは、ハイデガーの『ナトルプ報告』じゃないですかぁ~。こ、これを見られるとは!」
勝手に図書館内を散策し始めた徳田が小声でDidoに言った。
「はい、はい。それは後でねぇ。仕事してからにしましょ」
大柄なDidoが躰を屈めて徳田にささやく。
「だって、これ『存在と時間』の草稿って言われているやつだよ。これが開架されているとは千載一遇の好機。ねぇ、ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから読ませて」
興奮が抑えきれないのか徳田は片手拝みをしてDidoに頼み込む。片手拝みがNative English speaker に通じるかは判らないが。
「だぁ~め。今日は仕事で来てるんだから、そっちが先」
Didoの返事はにべもない。
「ケチっ」
半分以上本気で徳田は下口唇を突き出した。それでも手にした『ナトルプ報告』を書棚に戻す。
「まずは第二外国語習得研究の論文を読まないと」
変なところで真面目なDidoに襟首をつかまれるようにして、徳田はそこを離れ、語学関係の論文が集めてある書架に向かう。
Didoと徳田が勤めている英会話スクールは変わったスクールだ。いろいろ変わったところはあるが最も変わっていたのは、受講生の英会話力を上げることを考えている点だった。そんなことは当たり前と思われるかもしれないが、英会話業界で受講生のスキル向上を本気で考えているスクールはほとんどない。それは営利の追及という企業の存在意義に反する業務だからだ。せっかく入会した受講生がすぐにスキルアップして卒業してしまえば、売り上げが減少してしまう。広告・宣伝・営業とかけた経費を回収する前にスキルアップされるのは困るのだ。スクールとしては、スキル向上することなくだらだらと在籍して、受講料を払ってもらいたいというのが本音だった。
ところが、Didoと徳田が勤めるスクールは何をトチ狂ったのか、本気で受講生の英会話力を向上させることを目指していて、そのためにきちんと科学的な手法で第二外国語習得の方法を研究した論文を参考にして、実際に自分たちでトレーニング方法を開発しようとしている。Didoと徳田が図書館に来るのも業務の内だった。
「だいぶ増えたねぇ」
「ああ、9・11以降ようやくとステーツも第二外国語習得に資金を出し始めたからな」
「うん、Native English speaker がアラビア語をどうやってマスターするかっていう論文が多くなってるね」
2001年のあの最悪のテロの際に、アメリカ合衆国にはアラビア語のわかる人材が少なく、日本からアラビア語研究者を連れて行ったというのは語学業界では有名な話だ。
「あ、これいいかもね」
Didoが「Native Japanese Speakerが英語を習得する際の発音の要諦」という英語論文を引っ張り出した。
「おれはこれにするよ。徳さん、おれがいなくなったとしても他のところ行くなよ」
「わかってるって」
Didoが疑いの目で徳田を見る。まったく信用されてない。
「大丈夫だって。ここから仕事になりそうなもの探すから」
「まぁ、徳さんがこういう論文がどこで読めるかを知っていたから助かってるんだけどさ。仕事は仕事だからね」
「へぇ~い」
徳田はそわそわとしながらもそう答えていた。
徳田がメモを取っていたペンを机に置いた。腕を上げて静かに伸びをする。
Didoも目を上げてうなずく。
だいぶ疲れた。紀要論文は持ち出し不可、コピー不可ということが多いので、その場で読んで気になるところをチェックする必要がある。ふたりはかれこれ3時間ばかり集中してデータをまとめている。
「そろそろ上がる?」
「うん、でも、もうちょっと」
小声でやり取りするとDidoはまた論文に目を落とす。
「でも、もう閉」
と徳田が続けようとすると館内に静かに音楽が流れ始めた。
蛍の光だ。
ぱちくりと目をさせたDidoが徳田を見る。
「徳さん。なにこれ?」
「ん? これ? 閉館の合図さ。もう終わりってこと」
「へぇ~」
周囲が騒がしくなる。周りの大学生だか院生だかが片付け始めている。
「あがろうぜ」
「うん」
Didoと徳田もノートやペンを仕舞い始めた。
「いやぁ、驚いたな。変な風習があったもんだね」
図書館を出て駅へ歩き始めたDidoが徳田に話しかける。
「風習?」
徳田がDidoに訊き返す。
「だって、閉館の時にAuld Lang Syne が流れるなんてさ。New year’s eve のイベントが始まるかと思った」
「へぇ、Auld Lang Syne ってそういう時に歌うの?」
「そう。年越しの歌だね。でもさっきみたいにテンポは遅くないんだよ。もっと明るい歌さ」
「へえぇ」
「歌詞の内容が友人との絆を確かめようってことだから、結婚式でも歌われるんだ」
「あら、別れの時に歌う歌じゃないんだ」
「うん、歌いながら輪になって隣の人と腕をクロスして手をつないだりするんだよ」
「なるほどね。友情の歌なのか。それじゃ、閉店の時には合わないね」
徳田は納得する。日本では卒業式などで歌われる「蛍の光」は別れを暗示していて閉店時にはぴったりだと思っていたのだが、米英では違うということらしい。むしろ、友情や絆を確かめる場面に使われるポジティヴな歌なのだ。
ふと、徳田の頭に疑問が浮かぶ。
「じゃぁ、アメリカでは閉店の時にはどんな歌が流れるの? Annie Laurieとか?」
「Annie Laurie? というか『歌』? そんなもん流れないよ」
「ええっ?」
今度は徳田が目をぱちくりさせる。
「え? じゃぁ、お店とかどうやって閉店するのさ?」
「どうやっても、なにも、突然閉まる。がらがらって」
「アナウンスも流れないの?」
「流れないよ。店員が『閉店です。出てください』って言って廻るぐらいかな」
「なんとっ」
驚いた徳田が素っ頓狂な声を上げる。と、同時に徳田の頭に次の疑問が浮かぶ。
「それってトラブルにならない?」
「トラブル? どうして?」
「だって、店員から『閉店ですから出ていってください』って言われたら日本では怒る人いると思うなぁ」
「なんでさ? お店のルールなんだから従うべきでしょ? それに閉店時間までに用事を済ませてない方が悪いじゃん。みんな素直に出ていくさ」
「そりゃ、そうだけどさぁ」
徳田はどうして日本には怒る人がいると思うんだろうと首をかしげていた。
今では、『閉店ですから出ていってください』と言われたら怒る人がいるかもしれないと考えた理由は判りますが、そのときはぱっと思いつかず悔しい思いをしてしまいました。みなさんは判るでしょうか? これっておそらく我々Native Japanese speakerが、「外の外」に対して礼儀正しくないからなんです。
理由を詳しく知りたい人は購入してね。
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