フランスで甘酒?!パリで人気の発酵食品専門店に行ってみた
最近、世界では発酵食品市場が盛り上がりを見せています。いくつかの研究によると、発酵食品市場は2016年の約6,400億ドルから、2023年には約8,900億ドルへと約5%の年平均成長率が見込まれていたり、発酵食品及び飲料市場は2017年から2022年の間にかけて年平均成長率7%が予測される等、大きな成長が期待されています。この動向はフランス市場においても確認されており、世界中で「発酵食品」と銘打たれた食品・飲料の発売が最も多いのはフランスであるということも示されているそうです。
そこで今回は、フランスのパリ11区にあり、地元の人気が高まっている発酵食品専門店Férmentation Generaleにお邪魔してお話を伺ってきました。
2019年1月8日に開店したこちらのお店は、手作りのパンや店主自身で買い付けているというワインの他に、甘酒や発酵茶であるコンブチャ、それから自家製のピクルスが販売されています。お店を経営するヴァランタン(Valentin)さんは、大学時代に都市建築を勉強する傍らレストランの酒庫係として働いていたそうで、そこでワインの知識を身に付けたといいます。レストランを辞めた後もワインを専門に販売を行っていたそうですが、自然由来のワインを通じて人の手で丁寧に生産された自然派食品の魅力を知り、最初のレストランで出会ったクリスさんと一緒に、このお店を立ち上げたといいます。
発酵食品・発酵飲料には様々な効能があることで知られています。その一つであるコンブチャは、酵素、乳酸菌、アミノ酸、ポリフェノールなどを豊富に含み、代謝や免疫力向上、肝機能の改善、アンチエイジング、美肌、デトックスなど美容や健康に役立つといわれているので、女性に人気が高いです。
ちなみにコンブチャは昆布とは関係はなく、茶と砂糖とコンブチャのマザー株から作られた発酵飲料のことです。正確な起源を特定するのは困難とされていますが、日本には西暦415年に病気を患っていた允恭天皇の治療のために新羅(韓国)の医師が招かれた際にもたらされたそうです。この時の医師の名が「金波鎮漢紀武(こむはちんかんきむ)」だったので「こむはの茶」となり、それから「コンブチャ」と呼ばれるようになったと言われています。日本風の名前が付けられているのはこれが理由のようです。フランスでは数年前からすでにポピュラーになっていて、こういった専門店だけでなく、現地のスーパーでも見かけるようになっています。
さらに少し変わった甘酒も試飲させていただきました。こちらは取材時にはまだ販売前だったEPIQ製の黒ゴマの甘酒です。普通の甘酒しか飲んだことがなかった日本人の私にはとても新しい味わいでしたが、黒ゴマの甘い味付けをすることでフランス人にも飲みやすいようカスタマイズされているのかもしれません。他にも、フランスのEPIQ社はプレーン味とそば茶味の甘酒も製造しているようです。
こちらの甘酒は、お米とお水が主な原料で、甘味料を添加せずに自然な甘さが特徴の伝統的な日本の発酵飲料ということを打ち出しています。朝食やおやつとしてだけでなく、運動後の身体や日々疲れた身体に効く、自然の甘さを持った健康に良い飲み物として勧められています。
そして、後日SNS上でEPIQ社に連絡を取ってみたところ、創設者であるラファエル(Raphaël)さんからお返事をいただきました。ラファエルさんは書籍や動画、カンファレンスやインターネット記事で麹菌の生成について学んだそうで、その生成の過程を改善させるために日本人の麹菌の専門家の助けを借りながら、約7ヶ月間かけて甘酒を完成させたといいます。お店で味わった美味しい甘酒の開発の裏には、このような弛まぬ努力があったことがわかりました。
さて、取材を続けていると「パンも味見してみる?」とヴァランタンさんからの嬉しいご提案が。そこでお言葉に甘えていくつか試食させていただきました。コンブチャや甘酒と発酵の種類は違いますが、パンも発酵して作る食品ですよね。
まず最初に頂いたのは「アルルのポンペット(アーモンド・オレンジ入り)」です。表面がカリっと焼かれていますが中はしっとりとした食感で、アーモンドとオレンジの程よいアクセントが効いていてとても美味しかったです。かなり気に入ったので取材後に自分用に買ってしまいました。
次に「発酵種のスコーン(レーズン入り/ノーマル)」を試食しました。こちらはイギリス出身であるクリスさんのオリジナルレシピだそうで、スコーンと聞いてイメージするようなほろほろとこぼれる感じではなく食べやすい仕上がりになっていました。こちらも大変美味でした。
最後に、お店を訪れていた方にもお話を伺ってみました。この地区に住むピエールさんはよくこちらのお店に足を運ぶといいます。「ここのパンはこの近くで一番だ」とのことで、いつも自転車に乗ってパンを買いに来るそうです。他の発酵食品はまだ試したことがないものの健康に良いとの評判は知っており「いつか試してみたい」と言っていました。このように、美味しいパンを目当てにお店に足を運んでくれるお客さんが、徐々に店内の他の発酵食品に関心を持って好きになってくれたら、発酵の輪がどんどん広がっていきますね。日本人としては、これから発酵食品がさらに注目されて甘酒の文化も広がっていくと、嬉しい限りです。
今後は同じ地区に他の店舗を出して販路を広げていきたいとのことで、これからさらに発酵専門店の盛り上がりが期待されます。また、自然由来のものを摂取しようという消費者の健康意識がより高まっているというトレンドも相まって、今後フランスでもっと多くの発酵食品を身近に見かける機会が多くなっていきそうです。
味噌や甘酒を初め、日本にはたくさんの発酵食品・飲料があります。日本が誇る発酵食品の海外における益々の発展に、これからも要注目です。