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日本酒業界を変革し得る酒蔵が、イギリス・ケンブリッジの田舎町に

日本酒は、コロナ禍でも輸出額を延ばしている、成長産業の一つです。輸出だけでなく、2016年にはイギリスでKANPAI London Craft Sake Beweryが、2018年1月にはアメリカでBrooklyn Kuraが開業するなど、海外で酒造りに取り組む人もどんどん増えています。

しかし、ワイン業界に比べれば依然として市場規模は小さく認知度も低い中、日本酒の輸出を増やす、日本酒の周知を高める、といった多くの取組みとは一線を画し、世界における「日本酒の価値を根本的に高める」ことに取組む酒蔵をイギリスで見つけました。

今回の執筆担当である私、磯部里紗は、今年7月に開催された2022 Miss SAKE 最終選考会でグランプリを受賞し、これから一年間2022 Miss SAKE Japanとして日本代表の活動をさせて頂くこととなりました。その活動の一つとして、実際にイギリスの酒蔵まで足を運び、CEOの橋本清美様にもインタビューさせて頂く機会がありましたので、日本酒業界をがらりと変えてくれる可能性に満ちた酒蔵のその真髄を、是非ご紹介させて頂きたいと思います。

Miss SAKE(ミス日本酒)とは
伝統ある日本酒と日本文化の魅力を日本国内外に発信する美意識と知性を身につけたアンバサダー(親善大使)を選出する目的で、一般社団法人Miss SAKEが主催。外務省、農林⽔産省、国税庁、観光庁、⽇本酒造組合中央会等の後援のもと2013年より活動を開始し、⽇本国内だけでなくニューヨーク、パリ、ロンドン、ミラノ、シドニー、⾹港等、世界各国において、⽇本酒を切り⼝にした⽇本の⾷・⽂化に関する啓発や、⽇本への観光誘致活動を年間 400 件以上⾏っている。

Miss SAKE

「価格=価値」のロジックで日本酒を再定義

2018年10月、イギリス・ケンブリッジから程近いフォーダムアビーという自然豊かで歴史深い街にて、Dojima Sake Brewery(堂島酒醸造所)がオープンしました。大阪にある堂島麦酒醸造所を母体とする酒蔵で、日本企業がヨーロッパに設立した初めての酒蔵とのことです。

彼らが製造・販売しているSAKE*は、いずれも4合瓶1本あたり1,000ポンド(日本円で約16万円)の商品のみ。一般消費者から見れば値段が高いと驚かれることが多いと思いますが、この価格付けの背景には、大事な想いと日本酒業界のために考えられた重要な戦略があります。

※ 海外で作られた「日本酒」は、日本政府の厳密な定義によると「日本酒」と呼ぶことができない。また、海外では日本酒は「SAKE」と呼ばれているので、本記事では海外製の日本酒を「SAKE」と統一表記している

まず、欧米では「価格=価値」という価値観が存在し、世界的に認められた高級レストランでは、高価であることが信頼のひとつとみなされます。価格が安いという事実だけで、品質が劣っていると判断されたり、店で提供するに値しないと判断されてしまうのです。

これまで日本酒は、その長い歴史の中で価格の幅が狭かっただけで、惜しみなく品質向上の努力がなされてきたし、そうした高級レストランに足る品質である日本酒は市場に数えきれないほど存在すると思います。にもかかわらず、価格が高くないからという理由だけで入り口に立つことすらできないといった現状を打開するために、Dojima Sake Breweryは立ち上がったのです。

EIS撮影
酒蔵:EIS撮影

会員限定のエクスクルーシブな体験で付加価値の醸成

こうして、徹底したラグジュアリーブランドのSAKE造りが始まりました。

原料や醸造・管理方法といった、酒造りに関して品質を高めて価値を上げていくことはもちろんですが、Dojima Sake Breweryが他の酒蔵と一線を画しているのは、会員向けのエクスクルーシブな体験を提供するという、新しいアプローチの価値づくりにあると思います。

東京ドーム8個分の大きさを誇る広大な敷地内には、18世紀に建てられた重要建造物に指定されているマナーハウスがあり、綺麗に手入れされた英国ガーデンと、何と日本庭園が調和して並び合い、オーガニックの野菜や果物が育てられている畑や温室、そしてレストラン等も併設されています。これらはすべて会員しか入ることのできない場所です。

重要建造物に指定されているマナーハウス:EIS撮影
敷地内に広がる日本庭園:EIS撮影

そして、一番目を奪われたのは、こちらのセラーです。2,000本の「懸橋(ケンブリッジ)」のボトルが、素敵なライトアップとともにずらっと並んでいます。「懸橋」は3年間熟成させる貴醸酒で、お客様が「懸橋」を購入すると、3年間会員になれる権利を得ることができ、その3年間はボトルをセラーに置いて熟成させます。3年間出来上がりをわくわく待つという時間も、また特別な体験になりますよね。

ライトアップが素敵なセラー:EIS撮影

今後は、SAKEを使ったエステやスパなど美容の効能も堪能できる空間を作ったり、一日会員一組限定で広大な敷地すべてを一人占めできる宿泊プランを提供したり、様々なプレミアムな体験を考えているそうです。このような新しい付加価値づくりによって、Dojima Sake Breweryは唯一無二のSAKEブランドを確立しているのだと思います。

日本酒市場初のNFT快挙

様々な挑戦を試みているDojima Sake Breweryですが、一番最近の成果は何と言ってもこちら。今年の8月、ビンテージSAKE「懸橋」のNFT(非代替性トークン)が、888万円で落札されたという実績です。

もともと「懸橋」は、今まで一般の流通には乗せず、日本酒の価値を上げる徹底したブランディングを貫いてきたSAKEです。「懸橋」を所有できるのは、Dojima Sake Breweryで特別に販売した際の購入者か、セラーで「懸橋」を3年間熟成させるThe Dojima Member’s Clubのメンバー、年間10本のみ取引できる証書を持つレストラン1000軒だけと、希少性が高くプレミアなSAKEです。

ビンテージSAKE「懸橋」:EIS撮影

その中でも、シリアルナンバー888の「懸橋」はこの世で1本のみしか存在せず、酒コレクターや投資家の中でも注目度が高かった一品です。このような快挙を成し遂げられたのは、やはりこれまでDojima Sake Breweryが築いてきたその唯一無二のブランド価値が、証明されたということだと思います。

日本酒の価値を底上げしたい!日本酒の価値を高められるだけ高めていきたい!という想いを持って、イギリスで様々なチャレンジに果敢に挑戦するDojima Sake Breweryを皮切りに、美味しい日本酒が世界中の高級レストランでも見かけられる世界を一日本人として期待したいと思います。

EIS Insightとは

主要コンテンツInsight(https://insight.eisnetwork.co)では、今世界で起きている最新のビジネス・テクノロジー・消費者トレンドを、欧米を拠点に事業展開・生活しさまざまな分野に精通しているEISメンバーのリアルな肌感覚や実際の体験に基づき解説しています。

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