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鑑賞者から消費者に成り下がった通学電車

サブスクってすごい便利。
やはり結局は使い方次第。




昨年、Spotifyを始めた。

お恥ずかしながら、娯楽に関してはこれがほぼ初サブスク。
別に音楽に限った話じゃなくて、電子書籍とか映画とか、今や当然のような数あるサービスのサブスクに手をつけて来なかった。

別に買い切り型へのこだわりがあったわけでもない。
ただ、わざわざサブスクに乗り換えなくたって現状に不満がなかっただけ。

「サブスク絶対便利じゃん」って思っていながら、「今不便すぎるわ、乗り換えなきゃ」とまではならなかった。
手続きや出費計画のアップデートを乗り越えられるほどの原動力は得られなかった。

まじで現状維持バイアスの傀儡でしかない。
なんて欲のないこと。


余談だけど、同じような感じでキャッシュレスへの対応もロクにできてない。
だって、キャッシュレスへの対応はすごく広まっているけど、別にまだまだ現金でも支払えるし。
ようやくデビットカードを手にしたのがこれも昨年の話。

絶対便利だってわかってるのにね。
似たようなサービスがたくさんある中から一つを選ぶだけでもすごく頭使っちゃうんだもん。


本題に戻ると、音楽は今までずっと買い切り(+YouTube上のMV)で聞いていたものをサブスクに乗り換えた決め手になったのが、通学時間の長さ。

私は実家から大学まで、相当な長距離通学をしている。
そんなわけで、平日は多くの時間を電車内で費やす。

長い時間電車に乗りっぱなしだと、むしろそれはまとまった時間になってくるので、意外といろんなことができる。
本を読むとか、論文を読むとか、軽めの課題を消化するとか、提出こそできないまでも文章を進めておくとか、プレゼンの原稿を書くとか。
PCこそ出せないけれど、紙やスマホで済む程度のことなら割となんでもできるし、そんなことをしていると電車時間は結構あっさり終わる。

とはいえ、体調とか気分とか車内の混み具合次第では、上記のことができないこともある。
結構、音楽を聴いていることも多い。

家だったら、買った音楽でなくてもYouTubeにMVさえあれば無料で聴ける。加えて映像まで見れる。天国。
だけど電車では、バックグラウンド再生ができないからだいぶ不便。持っている音楽に限られる。
そして、そもそも音楽の興味の幅も広がって、いろいろ聴きたくなった。


電車で音楽を聴く時間が増えたことで、遂に私が「乗り換えなきゃ不便だ、乗り換えよう。手続きしよう」って思えた。

というわけで、現在はSpotifyを利用している。




先述の通り、私はもともとサブスクに嫌悪感があったわけじゃない。
基本新しいもの好きだし、サービスはどんどん便利になってしまえ、って思っている。

だから、電子辞書を手にした息子娘を前に紙の辞書の良さを熱弁なんてしたくないし、フィジカルのCDも好きだけどそれをサブスクよりも良いものとして勧めるつもりもない。

だけど、音楽サブスクを利用し始めて、不覚にも「サブスク始める前の方が良かったなぁ」って思うことがあった。


突然だけど、私は音楽の「アルバム」という概念を愛してやまない。

アーティストが前回のアルバム以降に単体で世に送り出したシングル曲も集結し、複数の楽曲たちでひとつの物語や世界観を作る。
それは、その時期のアーティストの生の鏡でもあるし、各楽曲がそれぞれ単体で表現することができなかったひとつの大作でもある。

それこそ、アーティスティックスイミングとかサーカスみたいな、団体でのパフォーマンスを見ている気分に近いかもしれない。

だから買い切りをしていた頃は、既に知っている曲が含まれていても、最初から最後まで始めに通しで聴くことに心躍らせたし、その経験も含めてアルバムのひとつの世界観を愛した。
音楽だけじゃなく、フィジカルのパッケージまで含めて世界観の表現だと思って大好きだった。

でもきっとそこには、「このアルバムを買おう」と決断する動機と体験もあったのだと今では思う。


サブスクに移行して、そのサービスが対応さえしていれば誰のどのアルバムも聞き放題となってからは、初めてアルバムを聴くその感動が少し削られたように感じる。
フィジカルのときのような情動が感じられない。

なんだか、今まで本気で音楽を鑑賞していたのが、電車という時間がある"から"無数の選択肢の中からお供を選んで消費するだけになったと思えてしまった。


それがきっとサブスクのせいじゃないことくらい私もわかっている。

電車で聴いているから。
線路の上の走行音と揺れの中で聴いているから、歌詞もベースもイントロの一番頭の音もビートも聞き取りづらいだけ。
家できょうの一作を選んで集中して聴いていたら、きっともっと感動できるのに。

サブスクが悪いわけじゃない。
私の聴き方が、鑑賞者から消費者に成り下がっただけ。


お気に入りの作品にたくさん出会おう。
せっかくSpotifyでいろいろ聴けるようになったんだから。







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