B.B.B.B.B.B. Cp.4
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VRC環境課
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[電脳空間] PM 10:00
「ふん、ふふん、ふんふんふーん」
鼻歌が空間に響いている。
パネルに触れる指の動きとズレて表示される大量の文字列は、今まさに行わえれている業務の進捗状況そのものだ。
「ん~ん~ん~、ん?」
提供された連絡先は全てが使い捨てであり、その取得のために使われた氏名や住所も架空のものであり。
杜撰なフィルターだと言いたくもなるが、あるいはそれだけ手口が巧妙だったのかもしれないと理由のないフォローを入れる。
「さーて、さてさて」
同僚と後輩がトライとエラーを繰り返して山積みになったログを整列させる。
目を細めて、徐々に減っていくウィンドウから一つを文字通り摘まみ上げた。
「一つ目」
使い捨ての連絡先、架空の氏名と住所。
確認用の映像から拾えたのは、申請にやってきた人の顔は膨大かつ不鮮明という事実。
誰がどの番号を得たのかは公開されるはずもなく。
「二つ目」
しかしそれらは表層であり、本質は全て同一のものだ。
則ち【情報】であり、彼女の生息域に他ならない。
雑多を掻き分け、虚偽を切り捨て、怪しきを束ね、真実を拾い上げる。
「三つ目」
先に放り込んだ二つのウィンドウが破棄された。
「この程度か」
文字列は一行を残すだけとなり、手のひらサイズのボタンが表示された。
ボタンを押し、文字と同時に体が消える。
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[管制室] PM 10:02
「んあ~~~」
義体に肩の凝りなどはないが、気分的に両手を上に伸ばす。
「お疲れ様です」
「あ、夜八ちゃん。こんばんは」
「こんばんは。先輩はこれから先日のアレの捜査ですか?」
「エディスもどきの開発先の事?」
「はい。私たちも調べてはみたんですけど、どうしても途中で詰まってしまって。ナタリアさんはダミーが多すぎるってぼやいてましたし」
煮詰まってくると独り言の増えるもう一人の先輩の横顔が浮かぶ。
「でも、先輩なら大丈夫ですよね!」
期待を込めた眼差し。
「うん、ついさっき終わったところだよー」
「え?」
「ン?」
「ついさっき」
「そう、二分くらいかかったネー」
「にふん」
百二十秒。
自分たちはほぼ半日を費やしたというのに。
この先輩は、全く、本当に。
「もぉー!!!!」
また見逃したと、悔しがるしかなかった。
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[開発区域] PM 1:30
「黒箱を二つ頂きたい」
「これで良かったか?」
紙煙草を販売している店主との会話が弾む。
運よく太陽は雲に隠れており、スーツ姿の男性はその顔に汗一つかいていない。
「売れ行きは如何で御座ろうか?拙者の様に紙煙草を好む者は最近見なくなった気がするのじゃが……」
「そうでもない。ここみたいな開発区だと適当に吸える方が扱いやすいし、電子煙草とはちゃんと住み分け出来てるよ。何せ多少湿気てても煙が出りゃいいんだからな」
「それで良いのか店主殿」
「売れりゃいいんだ売れりゃ。珍しい銘柄を入れると大体売れる。ここらの娯楽つったら酒と煙草くらいだからな」
「うむうむ、娯楽は重要で御座るからなぁ」
火をつけて一服。
「ところで兄ちゃんよ」
「うむ?」
「どこで煙草吸ってんだ」
店主は微動だにしない口元を凝視している。
「秘密で御座る」
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「―――……という訳で、最近人の出入りが変わった工場はこの近辺にはないらしいで御座るよ」
『なるほどー。じゃあ本命はそっちかナ」
「何故で御座るか?」
『こんな大掛かりな開発、急に動ける訳がない。恐らくは椛重工にマルクトエディスの開発が打診された時点で準備が始まっていたと考えられる』
「産業スパイというやつで御座るな」
『つまり最近の出入りは意図的なカモフラージュか、あるいは第二、第三の製造場所の可能性が高い。まだ準備段階であれば、既に稼働している方を叩く方が効果的だ』
「……真剣なボーパル殿は言葉遣いが新鮮で御座るな」
『えーやだー恥ずかしいー』
「拙者が悪かった故、棒読みで言うのはやめて頂きたい」
『マ、そういう訳で何人か向かわせるからそれまでは周辺の監視を続行してネ。割と一般市民も多い場所だから大掛かりな武装は出てこないと思うけど、何かあったら即撤退で』
「了解で御座る」
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[製造工場]
「ししょー、準備出来ました!」
剛腕で器用に、しかしずれた啓礼をする姿に温かい視線を向ける。
「ワケンちゃん、あんまり目立っちゃ駄目だからね」
「あっ!」
口元を抑えようとして、拳同士が強かに打ち付けられた。
かくん、と頭を落として早々に終わらせた方がいいなと切り替える。
「入口開けてもらえる?ただし、開けたらすぐに体を隠して誰かが来るか、何もなければそのまま十秒は待機して」
「分かりました!」
ヘッドギアに手をかけてしゃがみ込む。
「せりゃっ!」
扉は軽々しく室内へと吹き飛ばされ、中から連鎖的な金属音が響く。
「1、2、3―――」
人の足音は無い。
「4、5、6―――」
人の声はしない。
「7、8、9―――」
人の気配がしない。
「入るよ」
中は無人だった。
吹き飛ばした扉の残骸が床に転がっていて、その付近に巻き込まれたのであろう加工前の金属板が散らばっている。
壁際にはマルクトエディスの設計図らしきものが飾られており、製造にかかる時間やスケジュールが並べられていた。
「勘付かれた……?」
こじんまりとした工場内には見渡せる程度のスペースしかなく、ヒトの隠れられるような場所は皆無。
「機械は動かせるみたいです!」
使い方が分からないので、どうしようもないのだが。
「情報係、聞こえますか?」
やや遅れて、
『お待たせしました。夜八です』
「工場内は無人で、設計図や資料は残されたままでした。ですが私たちに勘付いて姿をくらましたのではなく、こうなることが分かった上で残していったようにも感じます」
『ええと、現場の状況写真のデータを送っていただけますか?』
「分かりました」
時々端に剛腕の少女が映り込んでくるのは無視した。
『床の散乱具合は、何かあったんですか?』
「戦闘はありませんでした」
嘘は言っていない。
『あ、ナタリアさん。え、通信に集中しろ?はい、すいません……』
落ち込んでいる少女の顔が思い浮かぶ。
「ししょー、これー!」
ワケンの手に握られているのは形になったマルクトエディスもどきだった。
「完成品ですか?」
「あとこれもついてたよ」
「バッテリー?」
違和感。
それを形にしたのは通信機の向こう側である。
『杖とバッテリーが別々に発生している訳じゃない……。最初からその杖で使われる事を想定していた……!』
つまりそれは、
『散葉さん、工場の中に何でもいいのでネットワークに繋げられるものはありますか?』
「古いタイプのパソコンが二台あるよ」
『電源を入れて、通信機の後ろを開けてポートに接続してください!おキャットちゃんいるよね?』
現れたのは黒と緑のシルエット。
『んわ』
『バッテリーの仕入れ先と、そこから先の販売経路を辿って―――』
モニターを埋め尽くすほどに増殖した猫が一人、また一人とその内側へと潜り込んでいく。
『とにかくバッテリーが辿ったルートを全部ストックしていって!引っ掛かりさえ作っておけば後はなんとかなるから!』
こうなった以上、二人のやれることは資料を回収して迎えに来るのを待つだけだ。
となるとやることは一つ。
「おやすみー」
「ししょー!?」
可愛い弟子の声は耳に遠く。
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【B-7】
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