【Ghost in the Sheets】

夢とは自らの記憶によって形成されるものらしい。
過去に訪れた訪問場所から、今日は屋形船の縁が舞台に選ばれた様だ。
空を行く足場の下は見慣れた庁舎の屋上に始まり、唐突に工場地帯へと繋がり、砂一面の荒野を超えて、格子で出来た空間を渡る。

スクリーンショットをランダム再生させた方がまだ法則性のありそうな光景ではあるものの、それはそうと割り切って屋形船の進行方向を見る。
いつの間にか元居た場所――環境課庁舎の屋上を見下ろして、しかしそれ以上降下する気配はない。

「No.966さん」

後輩の声に振り返り、振り返り――振り返れない。

「No.966さん」

二度目の呼びかけに対しても同じく、体はどうにも動きそうにない。
夢であるのだから、自分の意志で行動出来るという前提が成立しないのはさておき、なんとなく申し訳ないという気持ちが浮かび上がった。

「黒猫さん」

聞き覚えのない声につられて視線は上へと向かう。
白黒ストライプのロングスカート、微かに覗く腹部と淡い毛並、それを辿った先は靄に覆われて確かめることは叶わない。

「No.966さん」

先ほどよりずっと近い声に目の前の誰かも耳を動かす。
ばさり、と。
白い布が視界を遮ったかと思えばその刹那で場面は切り替わっていた。
アンティーク調の厳かな家具に整えられた室内の隅、古い木枠の姿見が自分を映し出している。
頭から足までをすっぽりと覆われて、顔だけをくりぬかれた有様はマスコットの如く。
色違いの両眼がぱちくりと瞬きをした。


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「No.966さん、起きてください」

触れるか触れないかの距離に添えられた手の気配を感じ、閉じていた瞼を開く。

「お休み中のところすいません。課長からお呼び出しです」

「分かりました」

立ち上がって砂埃を軽く払い、見下ろした先に風で揺れるシーツが見える。
おばけみたい、と子供の様な感想を抱いた。


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【Ghost in the Sheets】

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