B.B.B.B.B.B. Cp.3

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VRC環境課

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[高次元物理学会―実験室―] AM11:00

「ク粗悪品だな」

「会長、言葉遣いが」

「こんな程度のモノを見せられて穏やかでいられるか」

不機嫌極まると言わんばかりの少女―――月島統四郎―――は盛大に舌打ちをした。

「粗悪品……ですか?」

外見はほとんど同じだが、刻印が粗い仕上がりの容器を見つめる。

「振動フェルミオン充填剤の資料は目を通した事が?」

三人は首を横に振る。

「開発に関する申請があったヘレン・ミドルトン氏にはお送りしました」

「そういうことか。では簡単に説明すると、この中身はヒトの脳だ」

静寂。
間。
顔を見合わせて。

「「「は?」」」

「会長、端折り過ぎです」

「……復習を兼ねて最初から振り返るとするか。まず、振動フェルミオンとは何だ?」

「重力を放出することの出来る素粒子です」

「よく勉強しているじゃないか」

「えへへ……」

機角の少女がはにかんだ。

「振動フェルミオンは重熱効果を発生させるために必要不可欠だが、そもそもこれは何から生じている?」

「ヒトの意識ですね」

立ち合いに呼ばれた鑑識係が答える。

「概ね正解だ。厳密な意味合いとしては語弊があるが、解釈の範疇としてそう認識して構わないだろう」

「ああ、それで脳みそが使われてるわけね」

合点がいったとばかりに、白髪の麗人が手を叩く。

「理解が早くて助かる。つまりヒトの脳細胞をベースに作られている為に振動フェルミオンを保存出来て、かつ重熱効果による負担を代替させることが可能なものがコレだ」

刻印が綺麗に処理されている方に視線を向ける。

「振動フェルミオンを保存するだけならば別の手段も考えられるが、負担を代替させるとなると一気に選択肢は限られる。恐らく中身は培養された人工脳から作られているか、あるいは―――」

「非人道的過ぎるのでは」

言葉を受けて、鑑識係がその在り方を否定する。

「こうしたガジェットの開発は今に始まった事ではない。技術的、倫理的な問題を鑑みて我々が監査を行い、製造の停止や破棄を指示した事例も過去にある。それでも、後を絶たないのが実際の所だ」

最終的な目的が何なのかを考えれば、受け入れられないものを作っても意味が無いのだ。

「……失礼しました」

「気にしなくていい。今回の件についても我々の方で回収と破棄の対応をする。フェリックス、手回しは任せる」

「かしこまりました。少々失礼します」

退室したのを見届けてから、引き出しから数枚の資料を取り出した。

「バッテリーについては使用者の負担を代替するという最低限の目的は達成している訳だし、重熱効果が安定しないだけで基本的に低出力であることに変わりはない。問題はこっちだ」

そこにあったのはマルクトエディスだった。

「あれ?こういう形だったっけ」

「いいえ、排熱版の角度や形状が違います。全体的に作りが雑です」

「もしかして、これも?」

首肯。

「式の制御が不十分で、不慣れなものが扱えば必要以上に振動フェルミオンを消耗してしまう可能性が高い。発生させられる重熱効果の規模も不安定で、最悪自爆する可能性もある」

よくよく見ればどれも外見に微妙な違いがあり、そしてどれも正規のモノとは異なっている。

「手作業で作った方がマシかもしれないな」

鼻で笑う様に。

「どうせ作るなら品質をそれなりにしてもらいたいものだ。模造品として認めたくないレベルだぞこれは」

「これらはどこで?」

「新しもの好きの金持ちが持っていたのでな。全て回収させてもらったよ」

そういう人種は兎に角自慢したがるものだ、と。
呆れながらのその言葉に三人は頷いた。

「一本は環境課に提供するから、解体するなり試験に回すなり自由に扱ってもらって構わない。帰りに受付窓口でもらっていってくれ」

「分かりました」

「あとは、これだ」

そこにはマルクトエディス?を販売していた業者の連絡先が記載されていた。

「全て使い捨ての番号だ。だが、そこからでもなんとかなるのだろう?」

視線を向けられた機角の少女は派手目のスナネコ義体を思い浮かべ、

「はい!」

力強く返事をした。

「課長殿によろしく頼むと伝えておいてくれ」

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「遅くなりました―――……お三方は?」

「少し前に環境課に戻ったぞ。杖の製造元を抑えてもらうことになるだろう」

「あのようなものが広まられても迷惑ですからね。回収については話がまとまりましたので、その内静まるかと」

「そうか。ところでフェリックス」

バッテリーを指で突きながら、

「これはどこから仕入れたんだ?」

それは刻印の粗い容器の方である。

「どこかで混ざってしまったのではないですか?」

「ならばウチの検収は減給だ。入れ替えも必要かもしれないな」

「仰る通りかと」

静寂。

「どの程度目星をつけている」

間。

「さて、何の事か分かりかねます」

間。

「まあいい……。お前の判断であれば信用はしておこう。信用は、な」

間。

「面倒事を引き込んだ分、儀礼派からの嫌味にはお前が全て対応しろ。事態が収束するまでは電話口に缶詰だと思え」

狙ったかのように、卓上の電話が鳴った。

「はい、フェリックスです。会長ですか?お昼寝しています」

助走を付けて、蹴りが入った。

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【B-3】

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