【一握り、二振り重ね】

「はいこれ!」

リアムからの呼び出しを受けて整備/開発室を訪れたフローロの前には見慣れない――どころか、見たことのない備品が並んで置かれている。

「ええと……?」

身に覚えのないそれを前にして、とりあえずは困惑を示すしかない。

「前にLumberjack投げて壊したじゃん」

刹那、繋がる記憶。
そういえば長い間手にしていなかったな、という朧げな記憶。
解体武装は外で取り回すと大体驚かれちゃうんですよね、という私的な感想。

「その節はご迷惑を……」

深々と頭を下げる姿にリアムは慌てて手を振った。

「違う違う!そういうんじゃないって!」

曰く、性能の方向性を変えた改良品であるらしい。

「解体業務に使えると思うんだけど、どう?」

刃の短い一本を手に取ってみる。

「トリガーを引くと振動で高周波ブレードみたいな挙動になるから持ち運びの時はセーフティーかけてあった方がいいね」

試しに軽く引いてみると、低く唸る駆動音と共に刃が甲高く震え始めた。

「なるほど」

「前のに比べると軽くなってるのと見た通り華奢だから、剛性は落ちてるけどフーケロちゃんなら大丈夫でしょ?」

「……もう投げたりはしませんよ」

わざとらしく拗ねるふりをして、小さく破顔する。

「あっちにジャンクがいくつか転がってるから、試運転ついでにバラしてきてくんない?」

リアムが指したのは試験室への扉だ。

「散葉ちゃんは来てないから誰もいないと思うけど」

「ありがとうございます。危ないかもしれないので誰か来たら連絡してもらえますか?」

「了解」

もう一本を手に取って歩く後ろ姿からは楽し気な雰囲気が漂っていた。


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「戻りましたよー。あれ、今日誰か来る予定ありましたっけ?」

「フーケロちゃんが使ってる」

ダンボールを抱えたアルベルトが試験室の利用状況に気付き、椅子に座ったリアムが背中越しに答えた。

「あぁ!Jabberwock完成しましたもんね」

「そういう事。今試運転してもらってる」

「量産でもするつもりですか?」

「ワンオフだよワンオフ」

ですよねー、とアルベルト。
単純な話、製作にコストがかかり過ぎるのだ。
解体に使用するのであればJabberwockの性能は過剰であるし、フローロのこれまでを思えば業務そのものは無くても成立する。

「作りたかったんだからしょうがないだろ?」

「別に何も言ってないじゃないですか」

と、整備室の扉が開かれた。

「リアムさんこれすごく使いやすいですね!」

珍しく大きな声でテンションの高い様子のフローロは、向けられた注目で我に返る。

「あっ、ええと、報告書は後日提出しますね。解体したものは部屋の隅に集めておいたので……。あと、手が空いた時でいいのでスペック表を送ってもらいたいです」

焦りや困惑、あるいは照れといった滅多に見れない表情。
あは、ふふふ。と誤魔化す様に笑い、開発/整備室の出口へと向かう後ろ姿を見送った。

「作ってよかったなぁ」

「ですね」


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【一握り、二振り重ね】

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『専用備品:Jabberwock』

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