何もない、見飽きた部屋から

この間読んだホラー特集みたいな本で、胸を打たれた。ある作家が、
「本を書こうと思ったらホラーしか書けなかったんですよ。生まれ育ちが地獄みたいな地域で、親に殴られ、先生にも殺されかけてきたから、それしか書けなかったんです」
と言っていた。

「好きです」と思った。自分の世界にはそれしか書けるものがないから書いた、という切実な理由が沁みた。ホラーとは、たった1人の苦しみでも世界を揺るがすに値するという命題があるのだという。

しかしこんな売れ方をする人は一握りで、現実は芸術でさえとんでもない弱肉強食の競争社会だ。当たり前だ。
豊かな海を見て育った人は海を描けるが、部屋に閉じ込められて育った人はその狭い空間以外を想像することは難しい。愛を与えられなかった者は愛を与えられた者より語る言葉が見つからない。楽器が与えられた者は与えられなかった者より楽器が弾ける。それだけのことだ。

ダンサー、俳優、ピアニストなど色々な芸術家を見てきたがみんな理解ある親が背後に透けて見えた。莫大な金をかけられて習い事できてよかったね。大人になって所属していた劇団で、バレエシューズも知らないの?みんな持ってて当たり前だよと鼻で笑われた日のこと一生忘れないだろう。

部屋に閉じ込められ放置された子が、退屈で1人遊びしているような音楽や作品が好きだ。
最近狂ったように聴いていたのは神聖かまってちゃんの「ぼくの戦争」です。
Let's start a new life from the darkness.
(暗闇から新しい世界を始めよう)。

おしまい




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