「お酒呑みたい」 そんな夜
「お酒呑みたい」そう思う夜がくるなんて思ってもみなかった。
酒を呑めば嫌なことが忘れられる。
そんな文章を何かで読んで、嫌な人生すべてを忘れたかった中学生時代、お酒を呑んだ。
不登校でも学校に行かなきゃいけない日、久々にクラスに入って“不登校”に直面した日、いくら避けていても不登校の原因となった教師の声が廊下から聞こえてきた日。
酒を呑めば嫌なことが忘れられる。
そう信じて、呑んだ。
だけど、何も忘れられない。怖かった、嫌だった、無理だった。その日の感情が、大人たちのように忘れて酔っ払って笑い出すことはできなかった。どちらかというと、逆に頭が冴えた感じがあって呑んだ日は進んで宿題をしていた…。
酒を呑めば嫌なことが忘れられる。
そんなことはない。むしろ、お酒は害だ(未成年飲酒は犯罪)。
そう悟ってからは呑んでいない。大学時代にサークル送別会と劇の打ち上げで呑んだだけ。どっちも友だちが飲みきれなかった余りだけど。
それなのに、最近ふと「お酒を呑みたい」と思うのだ。呑んで忘れたいと…。
大学卒業後、1年近く引きこもりのような生活をしていたが、今年の1月から仕事をさせてもらっている。ありがたいことに。
サングラス&体調崩しやすい、という面倒くさい目障りな奴なのに、採用していただき、お給料も頂いている。健常者ではないが障害者でもない中途半端人。だから雇った側は障害者雇用のポイント稼ぎにはならない。それでも働かせてもらえている。だから、それに見合う、いやそれ以上の働きをしなきゃ。
決して突っ走って燃え尽きたわけじゃない。この5ヶ月間、先輩や同僚の方々に助けられ、愚痴を聞いてくれる友だちに助けられ、自分なりのやり方で仕事に慣れて来たはずだった。
だけど、この頃ふと思う。
「自分、この仕事向いてないな…」と。
何が、と断言できるものはない。直感というか、5ヶ月間での学びというか…。
前任者の仕事を見て。他支所で活躍されている先輩を見て。直属の上司とうまくコミュニケーションが取れなくて(〇〇の件についてΧΧを教えてください、と書いた付箋付き書類がそのまま戻ってきたときは…笑)。支所長には仕事の遅い奴だと思われて。同僚は各自の仕事に忙しく、圧倒的に漂う部外者感。
それらが積み重なって溢れた。注ぎすぎたビールの泡のように。
作業中「他の人だったらうまくやれるんだろうな」「他の人の方がうまくできるのに」と思う。
資格さえ持っていれば、誰にでもできる仕事。だけど、その“誰”に私は入っていない。私には向いていない。迷惑な存在でしかない。業務効率も、仕事の速さも丁寧さも、サングラスマスクの見た目からしても。
他のまともな人がこの仕事にあたったほうがよっぽど良い。何より同僚たちにとって良い。
もしかしたら、私がいることで仕事の一枠を奪い、スキルある人が職務機会を失っているんじゃないだろうか。私がいなくなれば、職場は健全な環境に戻り(見た目不審者がいなくなるから)、他の人の仕事ぶりで活性化するのではないか。
自分には向いていない。でも、辞めるとは言い出せない。私みたいな奴を働かせてくれるところなんて他にはないだろうし、奨学金の返済は永遠に終わらない。
向いていないとわかっている仕事。それなら何が向いているのか?それはわからない。やりたいことはあっても、伴う才能がない。自分は何なんだろう…友だちだって、あんだけ愚痴ってても働き続けているのに…。
せっかくいただけている仕事が向いていない。何もできない能無しの自分。それらを忘れるために、一人夜風にあたりながら強めのお酒にすべてを委ねたくなる。
酒を呑めば嫌なことが忘れられる。
それを呪文に…。
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