見出し画像

4.失意のアンバー姫

ハスティナープラにたどり着いた一行は、
たくさんの人々に歓迎されながら、宮殿へと向かいました。

ビーシュマに付き添われて、3人の姫君はサッテャヴァティーと、その息子、つまり未来の夫となるヴィチットラヴィーリャと初対面。

美しい姫たちをみた2人は大喜びです。
特にヴィチットラヴィーリャは、自分のためにここまでしてくれる義兄に深い感謝と愛情を示し、
そんな敬意あるヴィチットラヴィーリャに対して、
ビーシュマも感激で胸がいっぱいになりました。

さあ、3人の姫がヴィチットラヴィーリャと結婚して、世継ぎをたくさん産んでくれればこりゃ安泰、
さっそく、結婚式の準備に取り掛かろう!
…というところでしたが。

場を遮って勇気をふり絞り、声を上げたのは例のアンバー姫。

「皆様、そしてヴィチットラヴィーリャ様。
私はすでにサルヴァ王の許嫁の身分でございます。
結婚するのはわたくしの二人の妹たち、アンビカーとアンバーリカーだけではいけませんでしょうか」

どんなお咎めがきてもおかしくないと、目を固く瞑って返答を待ったアンバーでしたが、
「まことか!それは知らなかった。早く申せば良いのに!」とにこやかにビーシュマ。そういうところは案外聞き分けが良い人だったのです。
すぐに馬車を用意すると、彼女をサルヴァ王のもとに戻してやりました。

安堵と喜びに溢れてサルヴァ王のもとへと到着した彼女でしたが、なんと残念なことにそのアンバー姫をサルヴァ王は拒否したのです。

曰く、俺はビーシュマに負けた身分だ。
一度負けた男に情けをかけられる程俺はすたれちゃいないんだよ。
悪いけど、君はビーシュマのところに帰ってくれないか。

こんなことを言われたら、
アンバーのショックはいかほどのものでしょうか。
そんなこと決して気にしませんと訴えたところで、一度決めた男の意思は思った以上に固かった。アンバーは失意のどん底のまま、サルヴァ王からビーシュマの元に送り返されます。

かくかくしかじか、とビーシュマに経緯を伝えて、こうなった以上は私もやっぱりヴィチットラヴィーリャと結婚する、とアンバーは言いました。

ところが今度はヴィチットラヴィーリャがうんとは言いませんでした。一度断られているのになんで結婚してやらなきゃいけないの、という気分だったのでしょう。

それを聞いたアンバーは自棄になり、
「じゃあ、ビーシュマ、あなたがわたくしと結婚してくださればいいのよ!」
と言い募ります。

アンバーにとって、ビーシュマが一生独身宣言をしているなんてことは、正直どうでもいいことですからね。

けれども、誓いを破ることはできないビーシュマ。
その後もアンバーはあの手この手を使っては、ビーシュマを説得しようとするのですが、全てビーシュマは断りはねのけます。
仕方がないので、ビーシュマは、
なんどかヴィチットラヴィーリャへ「結婚してあげたら?」と説得を試みますが、これもダメ。

「アンバー姫よ。私がサルヴァ王に結婚するよう説得してあげるから、やはりサルヴァ王のもとに帰ったらどうだろうか」
とビーシュマは困った末に懇願しますが、もはやそんなことは気位の高いアンバーには到底許せることではありません。
しばらくハスティナープラに居座るのですが、結局ビーシュマの願いを聞き入れ、再度サルヴァ王のもとに。

しかし残念。
サルヴァ王の頑なな拒否にあいます。

何度も何度も二人の男に結婚を拒否されたアンバー姫は、ついに怒りくるい自我が崩壊。

そしてその怒りと恨みの矛先を、サルヴァ王でもなく、ヴィチットラヴィーリャでもなく、
ビーシュマに向けるのです。

アンバーは森にこもり、辛く厳しい修行に明け暮れました。

そのアンバーの修行の様子を天から見ていたのが、シヴァ神の息子でもあるシャンムカ(カールッティケーヤ)。
彼はアンバーの行いに大層喜んで、彼女の前に姿を現してこう申し渡しました。
「アンバーよ。この花輪の首飾りをそなたに渡そう。
この首飾りをつけたものだけが、ビーシュマを倒す人間となるだろう」

アンバーは感激して、花輪の首飾りを受け取りました。
そしてその首飾りを身に着け、ビーシュマを倒してくれる男を探すことにしました。

【途中のガネーシャのひとりごと】
ちょっとちょっと。シャンムカって僕の兄弟じゃない。
だって僕もシヴァお父さんの息子なんだから。どうしてヴャーサは、ガネーシャの兄弟、って書いてくれなかったんだろう。
なんか。悲しい。こっそり文章に足しちゃえばよかったなあ。

************

不思議な力が宿った、花の首飾りを受け取ったアンバー。
彼女は、その首飾りを身に着けてくれる男、つまりビーシュマを倒してくれる男を探し始めます。

願いを叶えてくれそうな、
数々のたくましい王たちの元へ出向いては、ビーシュマを倒すよう頼むのですが、誰も頷いてくれるものがいません。

ついにはパンチャーラの王、ドゥルパダの宮殿にたどり着きます。

「ドゥルパダ様。どうか私の願いを聞き入れて、この花飾りをお受け取りくださいませ。
そして私の積年の恨みをはらすべく、憎きビーシュマをその御手で葬り去ってくださいませ!」
アンバーの強烈な呪いの言葉を聞いたドゥルパダは、驚き困惑しました。

「アンバー姫の気持ちはよく分かった。
なんとかしてやりたいけれど、相手は、ほら・・・あのビーシュマだろう?
それはちょっとなあ・・・申し訳ないが、その願いを私は聞き入れることはできないのだ」

それもそのはずで、何せビーシュマはバラタの中でも一番強いと称される程の男。
さらにビーシュマは性格もいいし、みんなに好かれているとあれば、誰がそんな花飾りを受け取るでしょうか。

ところがあまりにも憤慨していたアンバーは、断られたにも関わらず、その首飾りをドゥルパダの宮殿の柱に引っ掛けて、出てきてしまったのです。
なんて不吉な花輪を掛けられたと、ドゥルパダも、宮殿にいるものも、みな恐ろしくてその花輪に触ることすらできません。
仕方なく、その花輪はそこに掛けられたまま見守られることに。

一方、花輪を半ば捨てた形で森に戻ってきたアンバー。
ビーシュマを忌み嫌い、呪いをかけたい一心で、再び過酷な苦行を続けます。
その苦行が実り、ついにシャンカラ神(注:シヴァ神の名称の一つ。吉兆をもたらす者という意)が現れました。
「悲しむでない。来世で生まれ変わったおぬしが、自分でビーシュマを滅ぼせるようにしてやろう」

その言葉にアンバーはあろうことか、不服を申し立てます。
「いいえシャンカラ様。もし生まれ変わったら、私はすべてを忘れてしまうではないですか。
私は私のままのこの記憶を保ち、あの男を葬ってやりたいのです!」

シャンカラは苦笑しつつ、
「まあまあ、落ち着かれよ。生まれ変わってもおぬしは全てを覚えておる。
いいか。おぬしはドゥルパダの娘として生まれ変わる。
そして女性から男性へと性を変え、ついにはその手でビーシュマを倒すことができると、約束してやろう」

喜び震えたアンバーは、すぐ様大きな火をおこし、その中に自分の身を投げ入れました。
必ずや、来世でビーシュマに復讐を果たすという喜びだけを胸に抱いて。

************

次の年、シャンカラの約束通り、アンバーはドゥルパダの娘として生まれ変わり、
シカンディン(シカンディー)と名づけられます。
(実は本当は女の子として生まれたのですが、ドゥルパダ王は王子が欲しくて彼女を男として育てます。本人も自分が男だと疑わずに育ちます)

その後成長して宮殿の庭で遊んでいたアンバーことシカンディンは、いまだ柱に掛けられたままの花輪を見つけ、
ついにその花飾りを自分の首にかけたのです。

慌てて従者がドゥルパダに報告し、駆けつけてきたドゥルパダ。
花飾りをつけたわが子を見て、驚きますが、よもやこうなる運命なのか、と彼は彼女の命運を悟るでした。

ただの小国の姫に過ぎなかったアンバーが、シカンディンとして生まれ変わり、
さらには女性にも関わらず男性として育てられる奇妙な人生。
後にビーシュマの運命を変える大きな存在へと変貌していくのですが、それはまだまだ先の話・・・

【ガネーシャのひとりごと】
どうせ忘れちゃうと思いますけど、一応忘れないであげてください。シカンディーンって名前。アンバーの生まれ変わり。
それにしても結婚って、呪っちゃうくらい大事なものなの?

いいなと思ったら応援しよう!

eiko_ichikawa
よろしければサポートをお願いいたします! ヴェーダーンタというヨーガの学びを通して、たくさんの方に知恵を還元できるよう使わせて頂きます。