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7.蒼白王の誕生
目の見えない王子が生まれてくると聞いて、
がっかりの色が隠せないサッテャヴァティー。
ヴャーサの元に再び赴くと、
「お願いよ。今度はアンバーリカーとの間に世継ぎを生んで欲しいのだけど」
と頼みます。
ヴャーサはあっさりと承諾しました。
事情を聴いたアンバーリカーは、すでに姉の件を知っているわけですから、
震えながらも賢者の来訪を待ちます。
目だけは閉じてはならないと唾を飲み込み身構えましたが、
ヴャーサの姿を一目見た瞬間、
恐ろしさで顔面が蒼白になってしまいました。
かろうじて目をつぶることだけは避けたものの、
青白いままで一夜を過ごしたアンバーリカー(しつこいけれど大人の夜です)。
次の日の朝、サッテャヴァティーは、ヴャーサからまたもや残念な報告を受けます。
「アンバーリカーの息子もそれは素晴らしい王子となるでしょう。誰もが憧れる美貌と才気あふれる青年となり、国中の女性が恋い焦がれることでしょう。
ただ、顔は青いけど」
サッテャヴァティーは、世にも大きなため息をつきました。
素晴らしくて誰もが恋い焦がれる王子だけど、顔色青いって、何!?と。
しばらくして宣言された通り、こちらは顔面が青白い王子が生まれます。
彼の名は、蒼白王パーンドゥと名付けられたのでした。
《ガネーシャのひとりごと》
こうゆうことも、あるある。
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諦めきれないサッテャヴァティーの執念は、勲章モノと言っていいほどでした。
「ほんとにもう最後だから!どうかお願いよ、もう一度だけ、アンビカーの元に行って、
あと一人だけ子を宿してちょうだい!」
ドゥルタラーシュトラが生まれるまで、しばらく王宮から離れていたヴャーサでしたが、
呼び出されてまたこの用事を言いつけられます。
ヴャーサは、にっこり笑って答えました。
「ええ、もちろん、いいですよ」
さて、困ったのはアンビカーです。
もう二度とあんな恐ろしい思いはごめんだと、
自分の代わりに、アンビカーのベッドに自分のメイドを寝かせたのです。
そうとは知らずにアンビカーの元に現れたヴャーサ。
ところがなんと、ヴャーサの姿を見てもメイドは一切驚かず、至って落ち着いておりました。
次の日の朝、ヴャーサの方からわざわざサッテャヴァティーに会いに行き、弾む声で伝えました。
「お義母さん!
なんと素晴らしい一夜だったことでしょう。
彼女は、本当に素晴らしい王子を生むに違いありません。
そう、その王子はダルマ神(宇宙の秩序を司る神)の化身です!!」
「なんですって!」
サッテャヴァティーも笑顔満面で、ヴャーサの手を思わずつかみます。
その手を握り返し、ヴャーサはこう続けました。
「ま、相手はアンビカーじゃなくて、
メイドだったけど」
「・・・な、な、なんですって?」
硬直したまま事情が掴めないサッテャヴァティーに対して、
ヴャーサはすまなそうにうつむきました。
「僕は僕なりに精いっぱい頑張りました。
けれでももうこれ以上、お義母さんの力にはなれそうにありません。
僕はここを去ります。お達者でお過ごしくださいね」
別れの言葉を残して、賢者ヴャーサは自分の住まいであるヒマラヤに帰っていってしまいました。
サッテャヴァティーの健闘虚しく、
メイドの子だけが、五体満足の子として産まれます。
彼の名は、ヴィドゥラ。ダルマ神の化身と言われ、
後にドゥルヨーダナ軍の唯一の良心ともいわれることになります。
《ガネーシャのひとりごと》
メイドの名前が知りたい?
イーシュワラでしょ。ふふふ。
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