シークエンスを出す人は知らなきゃいけない?!「サンガー法」とは?
生命科学系研究者のえいこです。生命科学をやっている人なら一度は出したことはある「シークエンス」。構築したプラスミドの配列が正しいかどうか?ゲノム編集した部分がきちんとゲノム編集されているかどうか?など目では見えない塩基配列を解析する時には「シークエンスに出す」は常識ですよね。
その「シークエンス」、どうやって「読まれているか」ご存知ですか?きちんと説明できますか?実はその「シークエンス」は大学の授業で必ず習う、「サンガー法」が用いられているのです。次世代シークエンサーとかでバンバン配列が読める時代に、教科書に載るレベルのちょっと古典的な方法で解析されているって不思議ですよね。そこで今回は、シークエンスに出す人は知っておきたい「サンガー法」についてまとめます。
「サンガー法」を知る前に知っておきたい知識
サンガー法を知る前に、「DNA合成反応」がどのように進むのかを知っておきましょう。DNAは4種類の基質(dNTP[デオキシヌクレオチド三リン酸]:dATP, dGTP, dCTP, dTTP)が脱水縮合してつながっています。
DNA合成反応は一本鎖DNAを鋳型にしてDNAポリメラーゼが5'から3'の方向に鋳型DNAに相補的な配列を合成していきます。その際、短鎖DNA(プライマー)を起点として伸長反応が進みます。
これを試験管内(in vitro)でやっているのが、PCRです。
このDNA合成反応の過程を使って、DNAの塩基配列を「サンガー法」で決定していきます。
「サンガー法」の鍵はddNTP
「サンガー法」の鍵となるのが、伸長反応を停止させるddNTP(2', 3'-ジデオキシヌクレオチド)です。
ddNTPは3'部位の-OH基が-H基に置換されています。そのため、脱水縮合反応を起こせず、次のdNTPが結合できないので伸長反応が停止してしまうと言う原理です。
DNA合成反応液の中にddNTPのいずれか(ddATP, ddGTP, ddCTP, ddTTP)を入れておくと、ddNTPが取り込まれた時点で反応がストップします。この伸長反応停止がランダムに生じるため、様々な長さのDNA断片を得ることができます。
※例えば、ddATPを入れた反応系の場合、生じた断片の3'末端がAであることがわかります。
どうやってデータにして届けられるの?
大抵は業者にお願いして、プライマー、鋳型DNAを混ぜた物を出すと.ab1ファイルなどでデータが返ってきますよね。どうやって検出しているのでしょうか?
昔は32P標識したdCTPなどを反応系に混ぜて、変性ゲルで電気泳動した後、オートラジオグラフィーで観察していました。が、現在はRIを使わずに検出する方法が用いられているようです。
ddNTPそれぞれに違う色の蛍光をラベルしておいて、いずれか一つの蛍光で標識された様々な長さのDNA鎖ができます。それを一本鎖に解離して、キャピラリー電気泳動で長さの順に並べ、レーザーで検出を行うそうです(サンガーシークエンサー)。
おまけに、「リード長」についてのお話。シークエンスではDNA鎖が長くなってくるとリード効率が落ちると言う現象が見られます。それは何故なのか?私なりに考察してみました。
ddNTPが取り込まれる確率が高いところでは、蛍光も強くなるので検出効率が高く、ddNTPが取り込まれ辛いリードが短すぎるところと長すぎるところは蛍光が弱いので検出効率が低くなるのではないかと予想しています。
ちなみに、私の研究室の大学院生はこの「サンガー法」を不勉強なためにシークエンスを出す際にプライマーを二種類入れてしまうと言う大失態を犯しました...何事も「原理を知っておく」と言うのは大事なことですね。
「サンガー法」の名前の由来になっているフレデリック・サンガーはロバート・ギルバートと共に、DNAシークエンス技術の開発の功績が認められて1980年(40年前)にノーベル賞を受賞しています。
それでは、また!