書いた字のその先を読む
今のようなスタイルでの書のお仕事をはじめたのは数年前からです。
当時、書から十数年離れていたにもかかわらず、某チーム名を急いで書いてほしい、という依頼でした。
しかも、
・字の寸法が決まっている
・機械で刺繍するための元原稿
・その字を見て(チームに)入りたいと思ってもらえるようなものにしたい
……今ならおもしろそう!ってすぐに反応できますが、当時は単なるムチャ振りにしか思えなかったです。
当然いきなりうまく書けるわけもなく、鬼のようなダメ出しを受けたのちにようやくOKが出た字を見たとき、わたしが若いころに習った書の世界にて良かれとされていたこととのズレを感じました。
つまり、相手は字の一つひとつのディテールより、全体の雰囲気重視だったのです。字どうしの調和、という意味合いでもなく、刺繍されたものを着る人の動きを想像して見ていたようです。
実際にわたしも着用しているところを見せてもらいましたが、刺繍の立体感もあいまって、違った表現を見た気がして感動しました。
ユニフォームなどにくっついている文字が、着ている人の身体とともに踊るように動く。
今はAIでモーショングラフィックスが簡単に作れてしまうけど、これはまた違う話。
私の見え方の切り口が変わったような気がした、とても新鮮な体験でした。
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それにしても、、わたしのブランクありまくりの書が、今さら誰かの役に立ったり見てもらえたりするんだろうか。書に精通した人なんて、世の中にたっくさんいるのに。
そこに答えを見いだせない中、いろいろな方との交流を経るうちになんとなく頭の中が整理され、合間にお仕事もぽつぽつといただくようになり、今に至ります。
このお仕事は字を書いて終わりではなく、むしろ始まりなんだな、というところが魅力のひとつでもありますね。
画像はその刺繍の一部。「神」です。