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小説『本と旅と○○と』マレーシア #5 留学

成田から約7時間のフライトを経て、
クアラルンプール国際空港に着いた。
「Thank you」「ありがとうございました」「テリマカシ」
客室乗務員に見送られ飛行機を降りる。

私は高校3年の夏休み、マレーシアで2週間の短期留学をすることにした。
部活動が終わり、周りのみんなが本格的に受験勉強を始める中、
先生や友達には「大丈夫?」と心配されたけど、
留学はどうしても高校のうちにしてみたいことの一つだった。
留学したいことを母に相談すると「由美子がやりたいならやってみたら?」
といつも通りOKが出た。
母は昔から放任主義で、よくも悪くも私のことに口出しはしない。

アメリカやカナダは渡航費もかかるし、生活費も高い。
うちは特別貧乏でもないけど、超金持ちでもないからお金のことは娘なりに気を遣う。
留学について調べているうちに、
『母と子のマレーシア通信』という本に出会った。
この本は、マレーシアに一年間留学する娘と母親の文通を記録した本だ。
インターネットがない頃のだいぶ昔の話だが、
マレーシアの生活、留学の楽しさや大変さなどもリアルに感じることができる。

マレーシアはマレー系、中華系、インド系の民族が集まっている他民族国家。
民族ごとにそれぞれの言語を使用しているが、共通の言語として英語が話せる人が多い。
二週間しかない留学では、多様な価値観に触れたいと思っていた私にとって魅力的な国だった。
「マレーシアにしようかなと思ってるんだ。」と留学パンフレットを見せると、
「へえ、マレーシア留学ってこんなに安いんだ。いいじゃん、楽しそう。」
自分が行くかのようにワクワクしている。
『母と子のマレーシア通信』のお母さんは、
娘を心配して事前にいろいろ調べたり、留学中に手紙を書いてたけど、
私の母は娘を心配をしないのだろうか。

入国審査を通過し、荷物を受け取る。
到着ロビーに出ると、ヒジャブをかぶった女性、
白い服をきたインド系の男性など日本では見慣れない光景を前に、
一気に寂しさと不安が襲ってきた。
現地集合の留学プログラムなので、
クアラルンプール市内の留学支援の施設まで電車で行かなければならない。
駅を探すために、空港の案内マップ探す。
案内マップは全部英語でなかなか解読ができない。
マップの中に見慣れたマクドナルドのマークを見つけ少しほっとする。
「マックで落ち着いて調べよう。」

マクドナルドの注文はタッチパネル。
注文はうまくできたのに何度やってもクレジットカード決済ができない。
「May I help you?」
戸惑っていると女性の店員が話しかけてくれた。
いろいろ聞かれたけど英語のはずなのに、ほとんど聞き取れない。
適当に相槌を打って何とか買えたマックセットを持って席につく。
「マックでこんなんじゃこの先無理かも。」
自分の英語力のなさをつきつけられ泣きそうになりながら、
スマホを空港の無料Wifiにつなぐ。
お母さんからLINEが来ている。
『無事についた?楽しんできてね。お土産よろしくー!』
普段と変わらないメッセージに苦笑する。
『無事着いたよ。今マックで朝ごはん中。マックにナシレマセットがあった!』
ナシレマはココナッツ風味のライスに、辛いサンバルソースや小魚、
ピーナッツ、卵などの具材の組み合わせた料理マレーシアの伝統的な料理だ。
注文したナシレマセットの写真と一緒に送ると、
すぐに母オリジナルのLINEスタンプが返ってきた。
私が幼い頃の満面の笑みの写真で作ったGoodスタンプに思わず笑ってしまう。
少し笑うと気持ちがスッと軽くなった。
なんだかんだ言って私は母の性格に救われている。
「何とかなるかもしれない。」
そう思うと急にお腹がすいてきた。
サンバルソース、きゅうり、卵、
ご飯にのっている具材の色が鮮やかに目に映った。

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