キトンブルーのexcellentでhappyな夜
ここは、とある都内のビルの一角で、ご夫婦で営業されているとても素敵でアットホームで心安らぐ空間。
ネット検索で試しに来てみたのがちょうど1年程前。
それから、昨年末にも元の同僚たちと訪れ、今回3回目。
この夜は、昔から付き合いが続いている元仕入業者で現在も顧問で活躍されている大先輩Mさんと元取引先でこれまた現役で頑張っているEさんとの3名で向かった。
因みに私以外はお酒は嗜まない。
Mさんは大酒飲みだったけれど、大病した後は一滴も口にせず、キッパリと止めた方。
他方、Eさんはと言えば生まれつきの下戸である。
だがしかし、御二方とも〝夜の場〟が大好きなのである。
有難い事に、ノンアルビールとジンジャーエールさえあれば、酒呑み相手に何時間でも付き合ってくれる稀有な2人である。
この日は、1軒目の居酒屋で2時間程、肩慣らしした後、このお店では生伴奏付で歌いまくろう、との目論見からの訪問である。
このお店に興味を抱いたのは、1年前に2軒目どこに行こう?となった時にサックスによる生伴奏付、明朗会計、そして店名の響きも気に入ったので喰いついたのが始まり。
以上、ここまでは、グルメサイトの口コミ風ご紹介。
そもそも、キトンブルーって、どういう意味?
そう、猫の目の色の事なのだ。
猫が好きな方から、そんなことも知らないの?てなことを言われてしまいそうだけど、猫は生まれてから2ヶ月くらいは目が青く、2ヶ月経つと、元々親から受け継いだ色に変わるそうである。
子供のうちは、色を定着させるメラニンが不足しているので青く、成長と共にメラニン量が増えてきて本来の受け継いだ色に変わるというのが理由だそうだ。
知らなんだ、知らなんだ。
本題に戻そう。
予約して入店すると、先客2名あり。
どうやら、ひとりの方はワイングラスに赤ワインを並々注がれているが、かなりご酩酊のご様子。
我らオジサン3人は、若い順だとか、年配順だとか言って、譲り合うように中々選曲が決まらない。
「ホームなんだから先に頼んますよ。」
それでは仕方ない、誰かが歌いださないと始まらないので意を決してまず、1曲目をインプットする。
『よ~し、ひとつバラードで痺れさせてやろうじゃないか!』と心に秘めつつ、内心ドキドキ。
ここはお店のど真ん中にスタンド型のビンテージマイク🎙️が置かれ、必ずボックス席から立って歌うのが暗黙のルールのお店である。
誰も歌ってないので、すぐに前奏が流れた。
席を立ち、店中央のスタンド🎙️の前に立ち、いよいよファーストステージ、緊張の瞬間だ。
桑田のバラードソング『月』に挑戦である。
「遠く、遠く海へと下る 忍ぶ川のほとりを歩き、、、、悲しく見える。」
ワンフレーズを気持ちよく間違わずに歌い切れたなと思い、ほっと息を抜いたその瞬間、、、
意表をつくように静けさは破られた。
酩酊していると思われた御仁が突然、むっくと顔を上げ大声を張り上げた。「いいぞ~!クワタ!」
あ、れ、れ、れ〜〜〜っ
なんだ、すっかり出来上がって静かにしているのかと思いきや、元気じゃないか!
「よ〜し、いいぞ、いいぞ、クワタ!」
「いいぞ、いいぞ!」
「いいぞー!」
1曲を歌い終わるまで、こんな調子で威勢の良い掛け声が5回、いやいや10回位は浴びせられ、歌い終わると、マスターが吹くエレクトリックサックスのアウトロが見事に流れる中、なおもダメ押しで「よ、いいぞ、いいぞ!」の掛け声。
良い具合に出来上がっている御仁の洗礼を受けるのであった。
内心、バラードなので、しっとり歌わせてくれよ、うるさいなぁ。
と思いつつも、ここは大人の振る舞いで、、、両手を振って、満面の笑みを浮かべ愛想よく掛け声の主の方を向いてお応えし、席に着く私であった。
次は大先輩Mさんの番だ。
吉幾三の『酒よ』が始まった。
これこそ、しっぽり、しみじみと歌い、聴く方もしんみり聴くのが流儀だ。
しかし、そんな事はお構いなく、ご酩酊の御仁はご機嫌で合いの手の如く「よ、いいぞ!」を連呼して突っ込んでくるのであった。
Mさんが歌い終わると、
「すみませんな、うるさくて。」と当の掛け声の主。
心の声「わかってんなら、静かに聴いてよ!~ったく。」
Mさん:「いえいえ、ご声援ありがとうございます!」
Mさんも私が受けた洗礼と同じ位の砲撃を受けたが、気持ち良く歌いきれてすっきりしたのか、満面笑みを浮かべて席に着いた。
次の曲が大型ビジョンに映り、今まで掛け声を掛けていた件の御仁が自分の席で立ち上がり、大きな声を上げた。
「違う、違う、これは日本語じゃないか!トリオロス◯◯◯ナンチャラのだよ。」
どういうこと?
ママちゃんがオロオロしてカラオケマシンのところで探すも、見つからず、代わってマスターが「それ無いんですよ。すみません。」
「しょうがない、そのままで良いよ。」
大型モニターには、日本語のテロップが映しだされている。
ところが、 、 、 、 、 、
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、 、 、 、 、 、 、 、
、、、、、、、、、、、、、、、
ところがである。
いい具合に酔っ払っていると思われた御仁の口からスペイン語らしき言語が放たれた。
何度もモニターを見返すも、そこには日本語の文字しかない。
なのにこの人、どうみてもスペイン語で歌っている。
優美に流暢に歌いこなし、最後までスパニッシュで歌い切ったのだ。
え、どうなっちゃたの?「いいぞ、クワタ!」だったあの人は?、、、
テロップには日本語しか映し出されてないのに、スペイン語で歌い切る、これはまともではない。
マスターが❝先生❞と呼んでいる。
そうか、どこかの大学教授なんだろう。
注意を促さなくて良かったと意を改めるのであった。
元取引先のEさんも❝先生❞の後に何か歌ったのだが、タイミング悪くこの衝撃の出来事の直後だったので、無惨にも私の頭の中から完全に消し去られてしまった。Eさん申し訳ない!
しかしながら、これでエンジンが完全に掛かった。
私とEさんは、吉田拓郎、浜田省吾、松山千春、チューリップ等、昭和歌謡やPOPS、フォークを歌い、戦中派で年長のMさんは韓国のリズムのある歌や演歌、私が知らない名前の歌手や歌を昔鳴らした自慢の喉で見事に歌った。
こうして、我々グループ3人は各々持ち歌を各々3、4曲程歌い、ノリノリ状態になり、ボルテージMAXとなったところで、またしても、思いがけない瞬間が訪れる。
第2ステージの始まりだ。
因みに、流石の❝先生❞も我々の勢いに押されたのか、俯いて寝に入っているように思われた。
そんな時、突如、オッさんばかりの店に天使🪽が舞い降りた。
白人とおぼしき若くてキュートな女の子がひとり入店してきたのだ。
店のシステム、料金などを訊いて納得したのか我々の向かいの席に座る。
どう見ても掃き溜めに鶴、いや、これは間違なく『エンジェル』だ。
『エンジェルちゃん』と呼ぼう!
若き日のオリビアニュートンジョンと小山ルミ(古!)を掛け合わせた様な可愛さ満載のプリティーガールだ。
席に着くなり『エンジェルちゃん』は、いまどきの若い子らしくアップテンポの曲をガンガン入れ、リズムを取って身体を揺すりながら歌っている。
流石、ネイティブイングリッシュだ、発音が心地いい。
よ〜し、わかった。英語で行こうじゃないか!
頑張って、エルトンジョンの『Your Song』に挑戦だ!
こんなの古すぎてわかりゃしない。
アップテンポのビートの利いた曲じゃないとダメじゃん。
と思って歌いだすと、身体を振ってリズムを取ってるじゃないか?
いいぞ、いいぞー(あれ、❝先生❞のが移ってしまった。)
歌い終わり、その場から『エンジェルちゃん』に声を掛けた。
「you know this song?」
「of course」
おー、良かった。
でも、これはオッサンへの忖度だろう。
こんな古臭い歌に興味なんぞあるもんか。
マスターが『エンジェルちゃん』に話し掛ける。彼女の口からは
「from Hong Kong」
「mydad is Jerman,mum is Chinese」が聞きとれた。
席に戻るなり、昔から台湾に旅慣れているMさんに話し掛けた。
私:「あの娘、お母さんが中国人だそうです。なら、中国語の歌、行ってみましょうよ。」
Mさん:「ハーフなんですね?いやーびっくり。」
外見からは、偏見とかでなく、混じりけのない白人の女の子ではないか、とその場に居合わせた誰もが思っていたはずだ。
演奏の合間に我々の席に一瞬、接客に着いたママちゃんに尋ねた。
私:「しかし、異国のビルの1室のお店に若い女の子がよく1人で来れるね?」
ママちゃん:「外国からのお客さんはgoogle検索で評価とか調べて来るんですよ。」
ナルホド、そういうことか、そういう時代なんだ。
さあ、中国語の歌にしよう!
Mさんと選曲に入るもレパートリー少なく、見つけだすのに苦労する。
Mさんは鄧麗君(和名/テレサテン)の代表曲『月亮代表我的心』(和訳/月は私の心を表している。)を入れた。
う、うっ、持ち歌を取られてしまった。
ならば、同じ鄧麗君の『千言萬語』(和訳/すごくたくさんの言葉)で行こう。
お母さんが中国の人なら、少しは反応してくれるだろうと慮って、気を引こうとアジアの歌姫の代表的な歌を中国語で必死に歌う日本のオジサン2人、、、。
ところがどっこい、世の中そんなに甘くない。
思惑は見事にはずれ、『エンジェルちゃん』は気にも留める様子もなく、ほぼ無反応。
お母さんが中国人なら当然知ってるだろうという浅はかな考えはもろくも崩れ去るのであった。
テイラースイフトやアリアナ・グランデなどを歌ってる若い子がいくらお母さんが中国人だからと言って、知ってる訳ないだろ。
世代が違うんだよ、大馬鹿もん!
今度は逆に『エンジェルちゃん』が我々を慮ってくれた。
トニーベネットとレディーガガのデュエットソング
『Cheek To Cheek』がかかった。
往年のエンターテナー、トニーベネットを出してきた。
やるじゃないか!『エンジェルちゃん』
軽やかにステップを踏みながらリズムを取り、トニベネとガガを1人二役で歌いこなした。
アッパレである。
続いては、中国語、英語に縁のないEさんが歌うは、ノリの良い
『2億4千万の瞳(エキゾチック・ジャパン)』である。
『エンジェルちゃん』が前奏からノリノリでボックス席から「イェイ、イェイ」と掛け声がかかる。
そして、最後の「ジャパ~~~ン」のフレーズまで『エンジェルちゃん』は身体を揺すり、ときたま立ち上がっては「イェイ、イェイ」の掛け声を上げるのであった。
おや、気が付けば、❝先生❞もカムバックして、「いいぞ~いいぞ!」と加わっているでは、ないか。
こうして、英語、中国語には縁のないEさんのジャパニーズPOPSが見事、金賞に輝くのであった。
ぼちぼちいい時間となり、MさんEさんから帰りますか?の打診。
お勘定し、帰ろうとしたその時、カムバックした❝先生❞がスタンドマイクの前に立ち、何やら歌っている。
今度はテロップは日本語、歌ってるのも日本語やんか、、、。
なぬっ、スペイン語じゃないの?、、、
こうして、本日のステージは幕が下りた。
スペイン語、英語、韓国語、中国語、日本語の歌が飛び交い、国際色豊かな時間、タイトル通りexcellentでhappyな時間であった。
特にLIVEでネイティヴイングリッシュの歌を間近に聴けて、大満足の夜だった。
此処は、その場に居合わせた人たちと皆で盛り上がれるとても楽しい空間だ。
本日のメインゲスト、スペイン語の❝先生❞と香港からのお客様『エンジェルちゃん』に大感謝である。
そして、サキソフォンとエレクトリックサックスを使って、どんな曲にも伴奏して合わせてくれたマスター、ママちゃんにspecial thanksを捧げます。
(了)
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