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あの夏、鹿と俺と君がいた奈良

部屋を掃除してると、懐かしい物が出てきた。

卒業アルバム。ではなく、中学の修学旅行で撮った写真を貼り付けたオリジナルアルバム。
確か、修学旅行が終わった後、振り返り授業の一環で作ったやつだ。

全5ページ。
今でも毎週のように飲みに行く友達や、生きてるのか死んでるのかも分からないかつての友達と共に初めての奈良をエンジョイするティーンエイジEIJIがそこにはいた。

そんなほっこりした話。

ではない。
ここに、一枚問題の写真を見つけてしまった。

それは、鹿とピース姿の俺の2ショット写真。
文字に起こすと中学生の90%が修学旅行で撮るそれに思えるが、この写真はちとそうではない。

それがこちら

なにが問題かって、鹿が怖すぎてシャッターが切られるその瞬間までずっと目を離せてないこと。
今でも覚えてる、目を離したらこの人差し指と中指を食いちぎられると思い、実はちょっと漏らしていた。

なのに、この笑顔。
必死に、鹿と戯れたい無邪気さを演出している。

そうなのだ、昔から、誰が気にしてるわけでもないのに、「陽気な俺」をセルフ演出する癖が身に付き、今でも抜けない。

もっと嫌な時に嫌な顔しろよお前!
もっと雰囲気ぶち壊せよ!
もっと態度の悪い居酒屋の店員に思いっきり嫌な顔しろよ!
鹿なんてなんにも好きじゃないって叫べよ!

そんなことを思ってアルバムを閉じると、窓からあの頃のみんなの笑い声が風に乗って吹かれて来た気がした。

Hey、みんな、元気かい?



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