変わらないもの、変わるもの。
やわらかな日差しがとてもあたたかくて、気持ちのいい朝。うちの奥さんがいつものように、フンフンとワケのわかんない鼻歌を歌いながら私にこう言った。
「ねぇ、こんなに天気がいいと思わず部屋の模様替えなんかしてみたくなるよね」
その言葉に私は思わずドキッとする。彼女はときどき思いついたように部屋の模様替えを本当にするからだ。この前も私が夜中に仕事から帰ってくると、私に駈けよるなり彼女はこう言った。
「ねぇ、部屋の模様替えをしたのよ。ほら、いいでしょ?」
私を驚かせたいのか、彼女はいつもいきなりだ。
それがカーテンのデザインが変わっていたりするのならまだ話はわかる。けれども彼女の場合、タンスの位置や本棚の場所が大きく変わっていたりする。それはもう、年末の大掃除をするようなものだ。
「ほら、いいでしょ?」
そう聞かれても、ひとりでこんな重いタンスを、いったいどうやって動かしたんだ?と私はその度に目を丸くしてしまう。
でも、彼女のいいところは、自分がそれをすることで、どんなに苦労をしたとしても、それを誰かに押しつけがましく言うのじゃなくて、そのことで誰かを喜ばせたいと思うところだ。
そんなふうに、まぁ、たまには彼女を誉めてあげようと思ったけど、畳に少し目立つ傷跡が出来ていたのを私は見つけた。たぶんタンスを動かす時にこすってしまったのだろう。
「ほら、ひとりで無理するからこんな跡が・・・」
ちょっと叱ったら、とてもすねていた。(しかも、足で隠そうと見え見えの悪あがきをしていた。)まぁ、なんというか、彼女はとてもわかりやすい性格だ。
・・・・・・
「ねぇ、こんなふうにいつも同じものが、
いつもと同じじゃないって、なんだか素敵じゃない」
いつもと違う朝の新鮮な空気の中で、洗濯したての真っ白な肌着を干した後、彼女はまるでネコみたいに、ちょっと背伸びをしながらそう言った。
彼女は時々、変わった言い方をする。
確かにそんなものかな?と私も思う。
いつまでも変わらないものも大切だけど、変わりゆくものもやはり大切なことには変わりはしない。なんか変な言い方になってしまったけど、確かにそう思う。
夏の暑さにどんなにイヤな思いをしても、人はどこか夏を待っているし、冬の寒さにどんなにイヤな思いをしても、人は寒い冬の中に、なによりも暖かなものをどこか見つけている。変わりゆくものの中に、こうして人はいつも何か素敵なところを見つけているのだろう。
彼女が気まぐれにする部屋の模様替えも、まんざら悪いことでもなさそうだ。なんて、いつのまにか私は彼女のペースにはまってしまったみたいだ。
季節ももうすぐ変わってゆく。
私もネコみたいに”うーん”と大きく
背伸びしながら彼女に言った。
「ねぇー、なんだかもうー
秋みたいだねぇー」
彼女はコロコロと笑いながら、
洗濯物をパンパンと元気よく鳴らした。
最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一