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懐メロシンガーたる日系企業における、人材の定着懸念という問題

日本の会社では転職時、特に

・転職回数
・勤続期間

を気にします。私は転職回数が多いので、外国籍の転職エージェントだったり、外資系企業の外国籍リクルーターはダイレクトにそのことを伝えてくれます。だからNGというわけではなく、

・説得力の在る説明が出来るようにしてください

ということです。逆に日本人のエージェントやリクルーターからはこういう言葉が聞こえてこないのは、「暗黙の了解」だからなのでしょう。言わずもがな、というわけです。

さて、表題の「懐メロシンガーですが、最近の音楽番組ではあまり見かけませんが、それでも季節ごとの特番だったりすると

・あの人のあの曲

みたいな、懐メロシンガーが多く出てきます。演歌だと特に多いのですが、かつて昭和歌謡などと呼ばれていた時代のシンガーなんかはいまだに「懐メロシンガー枠」で出てきます。

このような懐メロシンガーに求められるのは、

・新しいアレンジや歌い方

ではなく、

・昔聞いたそのままのアレンジと声とメロディー

なわけで、言葉を変えると

・「変わらないことが価値」

なんですね。いまでも現役で歌手活動をされている石川さゆりさんの代表曲「天城越え」はなんと1986年の発売です。まだこの一曲で食っていけます。

他にも「そう言えばあの歌手って新曲出してるの?」という人もいるわけですが、最近なにかと話題のX JAPANのYOSHIKIさんが最近どこかで弾いていた曲、「Endless Rain」は1989年の作品です。34年前の曲です。もちろんX JAPANはその後も新曲を出しているので「懐メロシンガー枠」には入らないのですが、「最新曲が代表曲」ではないことを考えると、そろそろ「懐メロシンガー枠」なのかなという気もします(YOSHIKIさんはシンガーではありませんが)。

ファンでないと最新曲は知らないので、例えばですが下記のような例が挙げられると思います(個人的に好きなアーティストばかりなので下記が”最後の代表曲”だとは思っていませんが)。

・勝手にシンドバッド By サザンオールスターズ(1978年)
・ルビーの指輪 By寺尾聰 (1981年)→今年2023年に紅白歌合戦に出場で話題になりました
・クリスマス・イブ By 山下達郎(1983年)
・元気を出して By 竹内まりや(1984年)
・星空のディスタンス By THE ALFEE(1984年)
・Get Wild By TM NETWORK(1987年)
・もう恋なんてしない By 槇原敬之(1992年)
・決戦は金曜日 By Dreams come true(1992年)
・Rosier By LUNA SEA(1994年)
・All I Want for Christmas Is You By Mariah Carey(1994年)
・ロビンソン By スピッツ(1995年)
・天体観測 By BUMP OF CHICKEN(2001年)
・Ultra Soul By B’z(2001年)
・世界に一つだけの花 By SMAP(2002年)

ではなぜ「懐メロシンガーたる企業」と言ったのかというと、この30年ほど日本から新しいデフォルトスタンダードになるようなサービスは出てきていません。自動車はTesla、家電はLGやSamsung、スマホはApple、音響はBose、マウントディスプレイはMeta、と多くの「新しいデフォルトスタンダード」を作り出しているのは海外勢です。

日系企業は何をしているのかというと、ここで表題回収なのですが

・懐メロシンガー

なんですね。変わらないことが価値。最近話題のAI(サム・アルトマンの騒動で有名になったOpenAIもアメリカの会社)にしても基準を作っているのは諸外国です。日本からは出てきません。

その「変わらない価値」を維持し続けるためには「変わらない業務」を続ける必要があります。ここで必要になってくるのが

・熟練のベテラン社員

なわけです。30年40年前からの生き字引的な人が”いまだに”社内業務の基準であり続けている。そしてそういう人達のコピーを作り出すために「定着」が求められ、コピーロボットのような没個性な会社員が量産されていく。

極端に言うと、30年前と変わったのは

・紙ではなくPCを使うようになった

ことぐらいではないでしょうか。つまりアウトプットは変わっていないわけです。多少の変化はあるでしょうけど、基本的な業務プロセスは30年前と変わらない。だからこそ

・会社の専門家たる長期勤続社員

が求められるわけです。社内のあらゆる事情や政治に精通するにはやはり時間がかかります。そのため

・すぐに辞める=価値がない

ということになってしまいます。

もちろん、仕事人としてのベーススキルである

・ロジカルシンキング(論理的思考)
・最低限のデータ分析
・話術
・資料作成能力

みたいなものは変化する必要はあまりないのですが、そのウワモノが30年前と同じものであり、また会社固有の謎ルールがたくさんあるわけで、せっかく入社してもらうなら

・会社の専門家

になってもらわないと困るわけです。

もし会社が常に違うフェーズに入っては出て、入っては出て、を繰り返しているのであれば「会社の専門家」は逆に

・過去の成功に囚われた融通の効かない人

になるわけで、むしろ邪魔になるでしょう。ところが多くの大企業はずいぶん昔に「安定期」に入ってしまっているので「延命ビジネス」を辞めるわけには行かないわけです。

あるいはまだこの世にないものを生み出す会社では、自己模倣を繰り返すだけの人材は

・何も創造できない人、過去を繰り返すばかりで価値のない人

になってしまうでしょう。

ある意味では企業は採用基準が明確でなく

・即効性があり、持続性も兼ね備えている

人材を求めるわけですが、それは例えて言うと

・100m走のタイムでフルマラソン42.195kmを走れる人

のような、「亀毛兎角(きもうとかく)」を探しているとも言えます。継続的に「人材不足」を嘆く企業の多くは「存在しないものを探し続けている」とも言えるわけです。

最近少しAppleも「懐メロシンガー」になってきたかなと思ったのですが、多分Apple Visionでまた新しいデフォルトスタンダードを作り出すのだろうと思います。このAppleのように

・世界にないものやサービスを作る

のが日本人は苦手なようです。過去を遡ればSonyだったりHondaだったり、発明をしてきた企業はあったのですが、いつの間にか「自己模倣を繰り返す延命ビジネス」に偏ってしまったと思います。

とはいえ、日本の産業の殆どは海外で開発されたものを改善してハイクオリティにして唯一無二のポジションを作ってきたわけで、

・自動車(フランス発祥)
・家電(スイス発祥)
・アニメーション(諸説あり)

と、いまも日本が世界に誇る分野も発祥は別の国でした。元々日本は「発明」は苦手だったようです。

まとめます。
日系企業の多くは「延命ビジネスの維持」が大命題なため、会社独特の業務をこなせる生き字引的な社員が求められます。そのためには長年にわたり会社の隅々まで把握したうえで阿吽の呼吸で業務ができないといけません。そのため、中途採用の際に

・定着懸念

という謎の概念が出てくるわけです。今この瞬間役に立つかではなく、「将来会社の専門家として伝統を引き継ぎ、さらに後続に伝えていく役割になること」が求められるわけです。

どちらがよいという話でも無い気もしますが、VUCA(Volatility・Uncertainty・Complexity・Ambiguity)とも言われるこの時代には「懐メロシンガー」で居続けるにも、限界があるように思います。

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