【留学日記】隣の忍者ウィリアム外伝
日本人であることについて、そして異文化理解について考えた話
■日本人であることを自覚する海外経験
海外に出た日本の方から
「日本の外に出てみて初めて日本人であることを自覚した。」
「日本にいるとき以上に日本のことを考えた」
という声を聞くことが多いです。
海外の方からすると、
普段は接する機会の少ない外国人である日本人が自分の国を歩いているので、
私達に接しながら
『日本人ってこういう人なんだ。』
『馴染みのない日本のことをこの人に聞いてみよう』
という気持ちになるのは当然かなと思います。
そして、そういう風に接せられると、
『えーっと日本人ってなんだっけ?』
『なんで日本人はこういう習慣あるんだっけ?』
と考える機会がたくさん生じるわけです。
なので、海外に出ると日本のことを考える、というのはごく自然なことだと思います。
私自身もそんな経験をした日本人の一人であり、帰国の際の飛行機の中で
『日本に帰ったら英語の勉強ではなく、日本の歴史や文化について、政治について、もっと考えてみよう。』
と思ったりしたものです。
今回はそんな『海外に出てこそ、日本について深く考える体験』の中でもとびきり特殊で強烈な体験を一つご紹介したいと思います。
題して、『隣の忍者ウィリアム外伝』
■不思議なお隣さん
私が留学していた時の話です。
新しい寮に入り部屋を紹介されたその日の夜、荷物をほどいて整理していると、誰かが私の部屋をノックしてくれました。
出てみると、そこにはとてもイケメンな白人男性。これぞブリティッシュという感じのナイスガイが立っていました。
私は彼を見てとても好い印象を抱きました。
と、次の瞬間小さな驚きが。
『コンニチハ、ハジメマシテ』
とたどたどしく不思議なトーンでの挨拶。
日本語を話してくれたのです。
本来、母語を使って挨拶してもらえるということはとても光栄なことです。
ただ、その時はなんとなく不思議な印象を受けました。
そして、すばやく英語に切り替えて、
「私は隣の部屋に住んでいるウィルというものです。ウィリアム。よろしくおねがいします。よければ私の部屋にきませんか?」
と笑顔で招待してくれました。
『とてもフレンドリーで嬉しいな、隣の人がいい人そうで良かったな』と思い
「よろこんで」
と彼に案内されるまま部屋に入りました。
ドアを開けると、部屋の奥にはウィルくんの友人であろう私以外の来客がすでにありました。
そして、彼は部屋の奥から嬉しそうに目をキラキラさせながら、
『アァ、コンニーチわー』と挨拶をしてくれました。
そして、ウィルくんが
「僕の部屋は日本式で靴を脱ぐんだ。靴を脱いで上がってくれ」
と説明し、部屋の中に案内してくれました。
おお、なんと気の利いた人だ、と思いながら靴を脱いでいると、不思議な光景を目撃しました。
そう、ウィルの履いていた靴は、靴ではなく、なにやら鳶職人が履いている靴のようなものだったのです。
『おわ、不思議だな〜』
と思ってみていると、彼も気づいて説明してくれました。
「ああ、これはタビだよ。今日はトレーニングだったから」
と。
『ん?タビ?トレーニング?』
私が不思議そうにしていると、奥のもうひとりの友達の方が説明をしてくれました。
「今日は庭で隠れるトレーニングをしていたんだよ。なかなか息が切れてしまって、ハードだったよ。ははは。」と。
そして、間髪入れずウィルくんがもっと詳しく教えてくれました。
「オレたちは忍者のトレーニングをしているのさ。今日は先生がきてくれたので、寮長に許可を得て中庭で実戦の訓練をしていたんだよ。」
と。
その後も色々と語ってくれたのですが、
彼は日本のことが大好きで、しかも日本の忍者のことがとてつもなく好きだそうです。
いつも忍術のトレーニングをしていて、他にも合気道のようなものを習ったりしているし、日本語も勉強をしているそうです。
とにかく日本のことを愛していると。
なので、日本人である私が来たことがとても嬉しくて、色々と教えてもらいたい、ということでした。
私は、聞きながら
『どう対応してあげればいいのか。』
『日本では忍者はいないんだよ、とか言わないほうがいいだろうな〜』とか。
いろんなことを考えていましたが、まだ知り合って日が浅いので、その日は無難な対応で終えました。
そして、話も終わったので、さようならと別れようとした瞬間、部屋の出口の壁のところにかけられているものを見て、その日一番の衝撃を受けました。
なんと、どでかい日本刀が飾ってあったのです。壁に。
ちょっと嫌な予感がしたので、おそるおそる聞いてみたところ。
「ああ、もちろん。これは本物の刀なのさ。」
とウィルは自信に溢れた感じで自慢してくれました。
「オレは、昔から睡眠障害でアルコール中毒にも陥ったことがあるけど。この刀を脇において寝るようになってからは、不安がなく深く眠れる日を手に入れることができたんだ。」
。。。
ということは、アルコール依存の状態で脇に日本刀を置いて寝てたということか。なかなかすごい。
そんなことを思いながら、気を遣って傷つけないというレベルではなく、色々と発言には気をつけようと気を引き締め、彼の部屋を後にしました。
ウィルとの長い長い出会いの夜でした。
次回はウィルとの不思議な出会いに続き、彼との日々、そのたびに考えさせられた様々なことについてお伝えしたいと思います。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!
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