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【留学日記】王の末裔タピワくんの話#2
■タピワくんの戦いの日々
(タピワくん物語#1はこちらから)
とても純粋でどこにでも飛び込んでいくタピワくんですが、世の中そんなに甘くない。
世間の厳しさにぶつかり落ち込むタピワくんとは、寮の共同キッチンでよく話し込みました。
彼の悩みもまたストレートでした。
私にとっては、いつのまにか当然のように受け入れてしまっている、社会の理不尽さや人間の嫌な部分について、改めて深く考える機会でした。
■都市伝説に翻弄されまくり事件
前回ご紹介したように、タピワくんは純粋なのでなんでも信じてしまいます。
たとえば、当時エヴァンゲリオンという日本のアニメが流行っていたのですが、登場するキャラクターに銀髪の女の子がいます。
彼の部屋で一緒にそのアニメをみるたびに、
「お前の家族に銀色の髪はいないのか?」
と何度も尋ねられました。
「日本には実はああいうロボットを開発している人がいるんじゃないか?」など
現実とアニメの境界があやふやになったりすることがしばしばありました。
そして、流行に流されやすい。
流行ったものにはもれなくダイレクトに影響を受けてしまっていました。
あるときは、レゲエなノリで、あるときはラッパーのノリで、と。
いろんな挨拶や話し方を真似して、よく私に指導してくれてました。
大体月が変わるぐらいのタイミングで新しいスタイルにチェンジしており。
「こんどはどんなモードのタピワくんになるのか」といつもワクワクさせられました。
そして、都市伝説。
学生ならではの、いろんな都市伝説が当時も飛び交っていました。
これもタピワくんは一つ一つ、欠かすことなくといっていいほど信じていました。
おいおい、と心のなかでツッコミながら、
「そのソースはどのぐらい信頼できるんだ?」
「お前が今まで熱く語っていた信仰についてはどう説明するんだ?」
などと冷静に2,3質問してみると、
慌てて我に返って
「ふー、あぶないところだったぜ!」
と、いつものタピワくんの目の色に戻り、落ち着いた様子でスキップしながら自分の部屋に戻っていきました。
このように、純粋で真っ白なキャンパスのような彼の観念に、いろんな文化や思想の色が塗られていく様子を目撃する毎日。
それでも純粋さを失わないタピワくんのステキな姿と、ちょっと危うい彼が少し心配になる、そういう気分で過ごした日々でした。
■Life is not so easy(人生はそんなに甘くない)
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さて、海外の留学生たちにとっては学費の支払いがいつも悩みのタネです。
タピワくんも同様にいつも悩んでいました。
そんなある日、とても嬉しそうにキッチンで小躍りしながら料理を作っているタピワくんの姿。
『なにを作ってるの?』と聞くと
「アフリカの伝統的なチキン料理さ。このスパイスで今から8時間煮込むんだ。」
「は、はちじかん??」
「そうだぜ、Life is not so easy。人生はそう甘くないのさ」
とウインクとともに返事を返してくれました。
(またどっかのドラマか何かで覚えたんだろうな、この返し方ww)
数時間後、キッチンから「NO!!!!」と、どでかい叫び声が。
驚いて行ってみると、強烈な焼け焦げた匂いとすごい煙り。
・・・みなさんお分かりでしょう。
次の瞬間、打ちひしがれたタピワくんの姿が飛び込んできました。
「Life is not so easy,men…」
と先ほどと同じセリフをつぶやくタピワくんにかける言葉も見当たらず、話題を変えようと、
「どうしてこれを作ろうと思ったの?」
と聞いてみました。
すると、「そうそう。オレはなんと、マックのバイトに受かったのさ!」
と再び笑顔で誇らしげな感じに戻ってくれました。
タピワくんから何度もバイトに落ちたという話を聞いていたこともあり、私もわがことのように嬉しくなり、ケシズミと化した黒焦げチキンを廃棄し、一緒にパスタを作ってお祝いをしました。
■マックアルバイト事件
さて、それから数週間、タピワくんはマックでのバイトに忙しくなってしまい、なかなか話す機会も持てませんでした。
が、まあ念願かなって楽しそうだなと思いながら横目で見ながらお互いに自分のやるべきことに打ち込む日々を過ごしました。
そんなある日、彼と久しぶりに一緒に食事をする機会がありました。色々と近況をシェアする中で、当然バイトにも話が飛びました。
「そういえば、バイトの調子はどうだい?」
と聞いてみると
予想していた返事とは全く反対の答えが帰ってきました。
なんと、
「あいつら、◯してやる」
と、ただならぬ様子。
滅多に人に当たることはないタピワくんでしたが、かなり怖い顔になっていました。
話を詳しく聞いてみると、彼がブラックでアフリカンだという理由だけで、スタッフが色々と言いがかりをつけてくるらしいのです。
同じ作業をしても、彼だけやり直しやミスの指摘をされ、仕事の種類にしてもゴミ捨てや掃除など、そういう汚れ仕事はなぜか彼にだけ回ってくるのだそうです。
おまけにお客さんからも。
彼がレジに立つと違う列に並んだり、彼が注文をとろうと笑顔で話しかけても、完全に無視されて他の店員さんに注文をされたり、と。
あからさまな差別行為を受けているというのです。
比較的留学生が多い町なのに、そういう現実があるという事実には、少なからず驚きを感じました。
「まあ、でもお金がないから頑張って続けるよ」となんとかこらえている彼を見ながら、胸中とても複雑で嫌な予感がしていたのを覚えています。
それからさらに1〜2ヶ月が経過したある日、嫌な予感が的中しました。
タピワくんのバイト生活は悲惨な結末を迎えます。
ある夜、タピワくんが夜中に私の部屋のドアをノックしてきました。
ドアを開け、マクドナルドの制服のまま立ち尽くす彼の姿を見て、ある程度察しがつきました。
他の友人も誘ってキッチンスペースでドリンクを飲みながら彼の話を聞くことにしました。
すると、タピワくんは涙を流しながら、
「もう終わりだ。本当に嫌だ。何もかも嫌だ」とため息をつきながら、ことの顛末を語ってくれました。
その日は月末で会計の処理を店長がしていたそうです。
しかし、売上が合わないということになったとのこと。
そこで、なんの根拠もなく、お前が金を盗んだに決まっている、とスタッフたちから責められなじられ、泥棒と罵られたそうです。
お金もお前が払えと言われて、バイト代も払ってもらえなくなったそうです。
そんな映画やドラマのような展開があるのか、と憤り、私も思わず
「ありえない!一緒に行って話をつけにいこう。絶対に引いちゃだめだ!」
と息巻いてしまいました。
しかし、そこに同席した他の留学生は意外にもとても冷めた様子で、
「それがこの国なのさ。やめときな。」
と諭してきました。
こういうことは日常茶飯事。
バイトをするならそれぐらいは覚悟して日頃から根回ししたり、事前に取り決めをしておかなければならなかった、というのです。
若いうちからイギリスに渡ってきた留学生たちは、そういうことに打ち勝ってきたサバイバーたちです。
彼らいわく
「まるで太陽の届かない場所にいるような感覚に陥って、そこからが留学の始まりだ。」と。
まるで18世紀ぐらいに戻ったかのような言葉を耳にしました。
そんなこんなで、純粋なタピワくんを通して、留学や海外生活の負の側面。恐ろしい現実の一端を目にするという経験をしました。
しかし、純粋な心を守るということはこうまで難しいのか、とたくさん考えを巡らせたました。
私にとっては、純粋な心を持ちつつ、誇り高く、喜んでみんなが生きることのできる社会を作りたい。
心からそう思うようになり、あれこれと考えるようになったきっかけをくれた出来事かもしません。
そういう一連の出来事でした。
次回は、タピワくんシリーズ最終回。
彼の口から語られる、王の末裔としての誇りについて話したいと思います。
最後までごらんいただき、ありがとうございました。