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【留学日記】王の末裔タピワくんの話#3

タピワくんシリーズ最終回

とても純粋で人懐っこく感情をストレートに表現しながら生きるタピワくん。しかし、理不尽な環境や待遇を受けるなど行く先々で困難に見舞われてしまいます。

そんな彼がそれでも前を向き続ける、ある衝撃の理由がありました。

タピワくんシリーズ最終回です。

■王の末裔としての誇り


キッチンで泣きながらバイトで受けた仕打ちについて語っていたタピワくん。日に日に表情が曇っていっていきました。

それからも、学校の友人関係、新しく始めたバイトなど、色々とうまくいかないことがありました。

そんな中で、久しぶりにゆっくりと話をしたときに、衝撃的なことが判明しました。その夜のことから話したいと思います。

■ある日の夜の文化交流


ある日の夜、一緒に映画を見ようと約束をして彼の部屋に行きました。

日本のアニメ映画を見て、気に入ったセリフがあるとそこで再生をストップ。

「今のはなんて言っているんだ。オレにも教えてくれ!」
と日本語のレクチャーをねだってきます。

1音節ずつ日本語を分解していきながら
「に・げ・ちゃ・だ・め・だ」
などと、一つ一つ丁寧に仕込んでいきます。
彼が習得しようとしまいと、彼が自分の中でできたと思ったらそこで終了。

そこから、こんどは同じ意味のアフリカの言葉を教えてもらいます。
とっても難しいので、こっちができていると思っても、彼にはとても奇異に映るようで、ゲラゲラと笑われます。

「お前も大して言えてないじゃん」などと互いに面白がってやり取りが終了。再び映画を再生して没頭する、というちょっとした文化交流の時間です。

そこで、かなりオープンになったところで、お互いの近況を話したりするのが恒例なのですが、その日の夜は、とても深いところまで話をすることができました。

■王の末裔としての誇り


先述の通り、タピワくんは色々と苦労が重なっていて初めて出会ったときよりも疲れている様子でした。

「マックのバイト辞めてから調子はどう?」
と聞くと

「人生はタフだぜ。でも、おれは負けない。絶対に負けちゃいけないんだ。」と自分に言い聞かせるように、また決意めいた感じで話してくれました。

「でも、イギリスってこんなに留学生に厳しいんだね。郷に入っては郷に従えって言うし、うまく適応していかないとなかなかタフだよね。」となんとなく文化を理解し共存していくことについて話を振ってみました。

すると、かなり強い調子で
「いや、おれはオレのままで行きたいんだ。自分の国にないものを色々と吸収していきたいと思って入るけど、とにかくこの国に迎合して気持ちとして負けてしまうのは絶対に嫌だ。」
と言いました。

そして、彼の普段口にしないようなことを滔々と語ってくれたのです。

「なあ、お前はどんな家に住んでる?オレの家はめっちゃデカイんだ。兄弟も10人以上いるのさ。」
「うそ?すごいね」
「そうだろ。ちょっとまってな。」
と、何やらゴソゴソとパソコンをいじり始めました。
「あった!これだこれ。これを見てみろよ」
とパソコンの画面を見せてくれました。

そこには私が読み取れない、彼の国の言語であろう文字で何やら図が乗っていました。
「これはな、家系図だ。そして、これがオレのことだ」
「へー。読めないからよくわかんないけど、何やら凄そうだね。」

すると
「オレのおじいちゃんは王族なんだよ。でも、他の奴らに追いやられてしまって、今は王族だということは伏せてるんだ。」
「おお、結構すごい背景なんだね。そんなこと打ち明けてくれてありがとう」

続けて、
「オレはジンバブエの人間として絶対に成功して、王族の誇りを取り戻したいと思っている。そして弟や妹たちが王族であったことを誇りに思えるようにしてやりたいんだ。だから、ジンバブエ人であることを誇りにしたい。アフリカンだからといって見くびられるようなことは絶対にあってはならないと思ってるんだ。」

その真剣な眼差しは、おそらく今まで私が見てきた中で、どんな人の眼差しよりも飛び抜けて迫力に満ちていました。
少し怒りに似た感情と将来への希望でキラキラしたものが混ざっている、そういう眼差しでした。

本当にこの人は一族や国を背負っているのだな、と、感嘆したあの日のあの部屋の空気感は今でも鮮明に覚えています。

■揺るぎないプライドが崇高な生き様に


それから、タピワくんを見る私の目は変わりました。

それまでは、
「あいつはピュアだから、世間知らずだから」と話す周囲の声の影響も少なからずあったのですが、
恥ずかしながら
『ただ純粋で世間知らずだから、無防備にいろんなところに突っ込んでいっては打ちのめされている』
と見えていました。

しかし、彼の真実な告白を聞いた後からは彼の一つ一つの挑戦がとても美しいものとして目に映るようになったのです。

彼が、王国の歴史を背負い、一族の運命を背負い、自分が何者かということを証明するために未知の世界に挑戦しているということ。

その誇りがとても美しく尊いものとして捉えられると同時に、私の心を刺激してくれました。

自分はそれだけ、自分に誇れるものがあるだろうか?
私は何を証明するためにいまここにいて、この環境の中で取り組んでいるのだろうか?
と自分に問いかけ、鼓舞する貴重な機会をいただいたと思っています。

いまも彼のことを思い出すたびに、自分の存在証明について考えます。

■多様性とは?


『多様性』という言葉が近年叫ばれるようになりました。
それは、『少数派を差別しない』というような意味や『一つの価値観に固着してしまってはいけない』という意味など、様々な次元でいろんな解釈ができる言葉だと思います。

私がタピワくんから学んだ多様性、というのは、
『自分自身のアイデンティティに誇りを持つ』
ということでした。

ここで、『多様性』について私が思うもう一つのことがあります。

それぞれがアイデンティティに誇りを持つことは重要ですが
『いかに相手のアイデンティティを尊重してあげられるか』
ということが、この多様性を活かすために重要ではなかろうかということです。

ともあれ、
『自分のアイデンティティを証明するために命がけの迫力で生きていたタピワくん。』
彼の生き様から、私は多くのことを学びました。

長々とした感想文のようになった最終回ですが、最後までお付き合いいただきありがとうございました!

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