The Doobie Brothers ソロ・ワークス<トム・ジョンストン編>
Everything You've Heard Is True(1979)
バンドを辞める必要はあったのか?初ソロ作はR&B、ソウル色全開
挿話 イタリアン・シェフの再起
The Doobie Brothers の Livin’ on the Fault Line を取り上げた拙稿「静かなるバンド・リーダーの交代劇 前後編」で書いた挿話の続きになります。
待望の1stソロ作
日本盤は「真実の響き」との邦題が付けられたソロ第1作。
古巣の The Doobie Brothers 脱退後では初の作品。Livin’ on the Fault Line には実質不参加だったので、レコーディングとしては76年の Takin' It To the Streets 収録の Turn it Loose 以来となる。
発表当時の反応は地味なものだった。
バンドを脱退した経緯から、音楽性を賭けたリベンジを期待する向きもあった。だが、そうした聞き方は微妙に肩透かしを食う感じなのだ。
全体としてはR&B、ソウル色が濃い内容。
1曲目、Down Along The River のイントロでギターのカッティングに絡むのはマーク・ジョーダンの弾くエレピのテンション・コード。いきなり予想外のオープニングではある。
1979年頃の音楽マーケットを踏まえての事でもあるのだろう。とは言え、これはLivin’~当時のDoobiesの腰の座ったバンド・サウンドとして聴きたかった音かも知れない。
ソロ歌手としてアプローチした本作
本作では腕利きセッション・ミュージシャンを多数起用。曲毎に変化をつけたキャスティングは、プロデューサーのテッド・テンプルマンが手がけたカーリー・サイモン、ニコレット・ラーソンらのアルバムと似た采配だ。バンドの制約を離れた多彩なアプローチ、ソロならではのフリーハンド感が本盤の特徴と言える。
本作からはA-③ Savannah Nights がシングルとして切られ、当時Hot100で34位を記録した。この日本でも一時期ディスコで定番だったそうだ。
この曲も含めて楽曲の出来自体はとても良いと思う。だが、トム本人の体調が戻らなかったのか、そこかしこで線の細さは否めない。タフなロックン・ローラーぶりはアルバム終盤の2曲で垣間見れるのだが。
ゲスト・ミュージシャンの配置に見る狙い
本盤は先に挙げたソロ・シンガーの作品に通じるゲスト・ミュージシャンの起用と配置がポイントだ。それを伝える本盤のクレジット、曲単位の布陣が分かりにくいので、スプレッド・シートに整理してみた。
アナログA面がソウル、R&B寄りで、B面がロック寄りと音楽性で大まかに区分けされている。それはリズム隊の起用にも見て取れるが、本盤でのテッド流采配の極意だと思う。ニコレット・ラーソンの起用も効果的。
また、各サイドに1曲ずつ、イレギュラーな編成がある。A-④でのTower Of Powerのホーンとドラム、B-③でのDoobiesのメンバー客演がそれだ。
A-④は個人的に最も惹かれるナンバー。当時Tower Of Powerがワーナーと再契約、テッド・テンプルマンがプロデュースを担当する予定だった。結局はお流れになってしまったそうだが。
B-③は往年を思わせるギター・リフが期待させるが、曲本体はやや焦点を欠いてしまっている。バンド同様のマジックを起こせるとは限らない様だ。
これと対照的にLivin’ on the Fault Lineは、一見それっぽくないにも関わらず、やはりバンドとしてのアルバムだったのだと思う。
U.S. Billboard #100
Still Feels Good(1981)
固定メンバーで臨んだソロ2作目 前線復帰はなるか?
テッドの手を離れ、方向性を変えた2ndソロ作
1作目の幕の内弁当的な作りが肌に合わないと考えたのか、2年後のソロ2作目は基本メンバーを固定してレコーディングされた。参加メンバーとの共作が2曲あるところも1作目に無かったバンド感をうかがわせる。
プロデューサーは当時、新人AORシンガーとして鳴り物入りでデビューしたクリストファー・クロスを、グラミー受賞に導いた事で知名度を上げたマイケル・オマーティアン。
1作目と対照的なメンバー布陣
こちらも参加メンバーをスプレッドシートに展開してみた。ただし、本盤は曲単位のクレジットが無いため、正確さを欠いてる部分はご容赦願いたい。
さて、本盤の参加メンバーだが、なかなか凄い布陣だ。
Greg Douglass(Guitar) 元Steve Miller Band、ほか
Dennis Belfield(Bass) Rufus創設メンバー、Three Dog Nightほか、セッション多数。矢沢永吉のアルバム、ツアーにも参加。
Philip Aaberg(Keyboard) 後にWindham HillでNew Age系のソロ作品を多数リリース
Mike Baird(Drums) Hall&Oatesほか、セッション多数。後にはJourneyのサポート・メンバー(Raised on Radio tour)
このメンバーでじっくり煮出す様なアプローチで臨んだ本作、それでもどこかあっさりした味わいに終始する点は1作目と共通。R&R色を強めた内容から、本人の復調ぶりは充分伝わるのだが。
今作の場合、主役から十分な滋養成分を抽出するには、彼と対峙する個性が必要だったのかも知れない。例えばパトリック・シモンズの様な。だが、そこはソロの体裁ゆえ、致し方ないところではある。
A-① Madman は彼のロック・ナンバーとしても久々の感が。
A-④ Last Desperado はメンバーのPhilip Aaberg(Keyboard)との共作。キーボードのリフが中核となった曲調はこの人の新境地だったはず。
コーラス・ワークの復活
1作目では封印されていた節のあるバンド時代を思わせるコーラス・ワークを、今作ではセッション・メンバーで再現している。
エア・プレイのアルバムで驚異的なハイ・トーンを聴かせたトミー・ファンダーバークを含めたその一角に、パトリック・シモンズの名前も見られる。
明言は出来ないが、B-① Up on the Stage のコーラスは、パットが加わっている様に聞こえる。
ゲスト起用はやや地味か
今作でのゲスト・ミュージシャンの起用は、今一つ印象に残りにくい様に思える。その点で前作のテッド・テンプルマンは、ゲストの活かし方が上手いと感じた。音響的な配置も含めた効果的な聴かせ方、音楽的な意味合いを考慮しての演出など、色々と考えているのが解る。
U.S. Billboard #158
以上、対照的なソロ2作を見て来ました。正直なところ、どちらも一長一短ではあるのですが、当時は聞き流してしまっていた楽曲の良さを再認識しました。無理を承知ではあるけれど、現在のDoobie Brothersで再録してくれないだろうか。
Fin