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The Doobie Brothers ソロ・ワークス<パトリック・シモンズ編>
引き続き、The Doobie Brothersのメンバーのソロ・ワークスを取り上げます。今回はトム・ジョンストンと共にバンドの創設者である、パトリック・シモンズの1stソロ作「Arcade」。
なお、日本でだけ発売された Take Me to the Highway(1995)は未聴のため、触れられない事をお断りいたします。
Arcade(1983)
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バンド以降を見据えた1stソロ作
プロデューサーは John Ryan(Styx, Santana, etc)。コ・プロデュースにTed Templemanも名を連ねている。
本作はDoobiesが82年に解散ツアーを行う前から制作を開始。そのツアーで早々に A-① Out on the Streets が披露されている。コーラスが初期Doobiesのヒット曲、Jesus Is Just Alright を連想せずにいられない。
若い頃にフォーク・ミュージックに傾倒したルーツを持ち、精巧なフィンガー・ピッキング技術を持つギタリストとしてバンドに貢献した。
そんなイメージをこの人に持つ方も多いと思うが、本作にそうした要素は希薄。バンド後期の延長にあるコンテンポラリーなロックに振り切った内容だ。
彼はどの時点でバンドを離れる決意をしたのだろうか?
制作経緯との絡みで微妙に思えるが、やはり本作はソロとしての独立を念頭に置いた内容だ。ただ、商業性を意識して趣味的な要素は控えた様にも映るが、やはりこの人らしい内容だと思う。順を追って見て行こう。
最初のシングル・カットはマシン・ビートを使った A-② So Wrong 。
2曲目のカットはA-③ Don't Make Me Do It。Huey Lewis & The Newsのカバーだ。
複雑な参加クレジット
例によってクレジット情報をスプレッド・シートに展開してみた。
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参加者が多数でリストも大きくなってしまった。別途とりまとめ中のマイク・マクドナルドの1stソロ作より多いのだ。
またDoobies関連のソロ作品で元バンド・メイトの参加が最も多いのは、この人らしいところ。
シンプルなリズム隊の使い分けと対照的に、キーボード関係はかなり混み入っていて緻密なサウンドの作り込みを窺わせる。個々の名前に言及するとキリがないが、Doobiesのアルバムにも参加していた Victor Feldman の貢献度は高いと思う。
また全曲にクレジットされているクリス・トンプソンは、関与部分を太線で囲っている。その理由は後述するが、彼がリード・ボーカルのクレジットを受けているものはバック・ボーカルと分けて記述した。また今回から作曲クレジットも記載している。
クリス・トンプソンとのコラボレート作品
本作は、クリス・トンプソン(Vo, G)との実質的なコラボ作品と言える。カバーや外部ライターの曲を除外すると、殆どの曲をパットと共作。ボーカルでは全曲に関わっている。殆どの曲でクレジットの筆頭に名前があり、関与度の高さが窺える。
パットとのコラボとしては解散前の The Doobie Brothers 最後のアルバム、One Step Closer 収録の No Stoppin’ us Now をパット、マイクと共作したのが最初だった。同曲にはバック・ボーカルでも参加。
彼はブリティッシュ・ロック界の出身。Manfred Mann's Earth Bandのメンバーとして知られ、76年に「光に目も眩み(Blinded by the Light)」(Bruce Springsteenのカバー)を全米No.1にしている。個人的にも大好きな曲だ。
収録アルバムは The Roaring Silence (邦題「静かなる叫び」)
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パットとクリスの接点は、クリスが一時アースバンドと並行して結成した NightというAOR系バンドからとなる。
79年にHot Summer Nights、If You Remember Meの2曲をTop40に送り込み、当時Doobiesのツアーでオープニング・アクトを務めている。
英米のロック界にまたがった縦横無尽なキャリアは、改めてチェックして驚かされた。詳しくはwikiのリンクを貼ったので参照して欲しい。
コンポーザーにアンディ・フレイザーの名前も
B-① Knocking At Your Door は、元Freeのベーシスト、アンディ・フレイザー作。
ディスコ・ヒット狙いの節も感じるが、この作者ゆえの英国ロックの香りが濃厚。アレンジ次第では White Snake の曲でも通用しそう。思えば再結成Doobiesの2作目、Brotherfood でパットが担った湿度高めの作風の先駆けかも知れない。
なお、この頃のアンディ・フレイザーは表舞台から退き、コンポーザーとして活動。テッド・ニュージェント、ジョー・コッカー、チャカ・カーンなどに楽曲を提供していた。
そのアンディ本人のバージョンは Fine Fine Line (1984)で発表されている。権利関係が怪しいためリンクは貼らないが、むしろこちらの方がハード・ロック色を控えたAOR的な仕上がりだ。
終盤の曲に感じる音楽的な本音
B-④ Sue Sad は、彼ならではのフィンガー・ピッキングをフィーチャー。
本作では唯一、パットが単独で書いた曲でもある。
あくまでアナログ盤時代の話だが「アルバムの地味な位置にある曲こそ、そのアーティストの本音だ」なんて誰かの言説があった事を思い出した。
B-⑤ Dream About Me は、George D. Greer とカントリー・ロック・バンド Pure Prairie League の Jeff Willson の共作。
Jeff Willson はバック・ヴォーカルでも参加。また George D. Greer は、サザン・ソウル・シンガー George Jackson のソングライト・パートナーだった。この曲を書いた2人はチャカ・カーンの2ndソロ作、ノーティ(じゃじゃ馬ならし)(1980)収録の Too Much Love でも作曲クレジットに名を連ねている。
黒人音楽との接点
本作が出た当時は The Chi-lites のカバー、 B-③ Have You Seen Her? が話題になったと記憶している。
そうした黒人音楽との関連では、バンド時代にもメンフィス・ソウルの立役者、Willie Mitchell, Earl Randle との共作で Echoes of Love を残していた。
バンドの変遷に関わり続けた音楽性の多彩さ、柔軟性にの背景には、こうした黒人音楽との接点もかなりの割合を占めていたのではないか?そう改めて感じた。
冒頭で述べたフォーク、ブルー・グラス畑出身という先入観こそ、捨てるべきなのかも知れない。
バンドを支え続けたバランス感覚
初ソロ作で創作上のパートナーを求めたところ、この人らしいバランス感覚に思える。
それこそが、トム・ジョンストン、マイク・マクドナルドとの違いであり、その両名とも音楽的パートナー関係にあった彼らしさと見る事もできる。
複雑な変遷を辿った The Doobie Brothers を内部から支え続けた彼のバランサー的な感性、それを連想させる要素が随所に感じられる。そんな1stソロ作だ。
余談になるが、82年の解散ツアーでのこと。
A-①を演奏する前のMCで本作を録音中であることに触れ「制作期間は、34年くらいかな?」と冗談めかして言っている。お気づきの方もいると思うが、当時の彼の年齢だ。
今回レビューを書くにあたって色々リサーチしたのだが、言及したくなる情報の多さに驚いた。それも含め、きっとそういう事なのだろうと思う。
Fin