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らしさと、らしくなさの狭間で Queen / Hot Space


異色のアルバム Hot Space

Hot Spaceはクイーンのディスコ・グラフィの中でも、とりわけ異彩を放つ1枚として知られている。理由ははっきりしていて発表当時のディスコ、ファンクの要素を大胆に取り入れた音楽性が「らしくない」と、ファンの不評を買った経緯があったからだ。

Hot Space / Queen(1982) Front
Hot Space / Queen(1982) Inner Bag - Front
Hot Space / Queen(1982) Inner Bag - Rear

とは言え、筆者自身は発表当時から結構気に入っていたし、今もその印象は色褪せていない。よく言われる「クイーンが進むべき方向性を誤った」との見方についても、案外そうでもなかったとすら思っている。

そもそも、前作 The Game からシングル・カットされ、全米1位のヒットを記録した「地獄へ道連れAnother One Bites the Dust)」のディスコ・サウンドの拡大路線として制作したアルバムだった。次の一手として考えても本作の路線に間違いはないはずだった。

だが、柳の下に2匹目のドジョウはいなかった。アルバムの出来とは裏腹に全米でのセールスは前作を大きく下回った。その後、全米ツアーから撤退した影響もあって、アメリカ市場での人気はついぞ元の水準に回復しなかった。それほどのダメージを残したのだった。


変化を厭わないバンドのアイデンティティとは?

この作品の音楽性は70年代にハード・ロック、プログレッシブ・ロックの狭間から出て来たバンドとしてあまりに異質だ。試しにクイーンを知らない人に1st〜2ndと一緒に本作を聴かせたら、とても同じバンドと思わないのではないか。

ただ、そもそもクイーンは、大胆な変化を厭わないバンドではなかったかと思う。

本作の日本盤の解説で難波弘之さんが書かれている様に「一歩間違えば転落するかも知れない」きわどいキャリアを歩んで来たのが、クイーンというバンドだ。その説に全面賛成する筆者としては、Hot Spaceで見せた大胆さ、サウンドの徹底した変革こそ、クイーンのクイーンたる証ではないか、とすらと思うのだ。

我々としては単にクイーンの新しい一面を提示したつもりだったので、いつもの様にファンもノって来ると思ったんだ。なのにクイーンのポリシーを忘れたのか!って怒りの投書を山ほどもらって面食らったよ。

Tne Works発表当時のブライアン・メイのインタビューより

この路線に乗り気ではなかったブライアンも、当時はこんな事を言っていた。今でこそ、フレディの個人マネージャだったポール・プレンターが、クイーンの音楽性に介入したせいにされている様だが。


自意識を持ったとき、失われるもの

次のアルバムThe Works(1984)は、一転して従来の「クイーンらしさ」を意識した作風になった。だが、筆者はどこか物足りなく思った事を覚えている。このアルバムを評価しないわけではない。だがファンがイメージするクイーン像に寄せた作風こそ、逆に「らしくない」と感じた事も否定できなかったのだ。

良くも悪くもクイーンはHot Spaceで臨界点を迎えていたと思う。

危険を厭わない大胆さを売り物にした、曲芸師の様なバンド。それがクイーンだった。だが、そんな自分の芸風を自覚した途端、それまで難なくこなせていた「きわどい演技」が出来なくなってしまった。そんな例えが合っているかは置いて、何かが終わった様な寂しさを覚えたのは確かだ。

「ファンの意見を真剣に受け止めたという事ですか?」

The Worksの作風についてそんな質問を受けたブライアンは「いいや、これからも大いにファンの機嫌を損ねるはずだよ(笑)」と、強気の姿勢を崩さなかった。

一年後、The Worksのツアーの千秋楽を日本で迎えたバンドは期限を設定しない活動停止に入る予定だったと伝えられる。(実際、この来日時にクイーン解散説がまことしやかに噂されていた。)

疲弊していたバンドを甦らせたのが、その数ヶ月後のライブ・エイド出演だった事は、今ではよく知られた話だ。


流行りものを咀嚼する大胆さ

最後になったが、Hot Spaceでクイーンが取り入れた音楽性のネタもとに少し触れようと思う。

Staying Power / Queen

この曲のリファレンスは、チャカ・カーンがビートルズを大胆にR&B解釈したこの曲ではないだろうか。

We Can Work It Out / Chaka Khan

鋭角的なホーン・アレンジのクレジットは、どちらもアリフ・マーディン。


Dancer / Queen

Don't Stop The Music / Yarbrough & Peoples

シンセ・ベースの使い方がこの曲あたりに通じていると思う。ただ、聞き返してみて、思っていたほど似てなかったのだけど。

様々な音楽性を大胆に咀嚼する能力はデビュー当時から突出していたし、その意味でも一貫していると思う。

Fin

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