見出し画像

The Doobie Brothers ソロ・ワークス<マイク・マクドナルド編②>

The Doobie Brothersのメンバーのソロ・ワークス、今回はマイク・マクドナルドの2ndソロ作 No Lookin' Back を取り上げます。

82年にバンドが解散するタイミングでリリースされた1stソロ、If That's What It Takes(邦題:思慕<ワン・ウェイ・ハート>)は、1stシングル、I Keep Forgettin' の全米4位のヒットもあって、全米6位まで上昇。ソロ活動は、順調とも言える滑り出しを見せましたが・・。


No Lookin' Back(1985)

No Lookin' Back(1985)

予期しなかったバンドの解散劇

「解散後の予定は特に決めてないんだ」
82年のThe Doobie Brothers解散ツアー、その最終公演の直前にマイクはTV局のインタビューで答えている。

以下の英文情報より要約すると、バンド解散の切っ掛けが唯一のオリジナル・メンバーだったパトリック・シモンズの脱退だったこと。また、マイク自身はその時点までバンドを辞める意思がなかった事などが、マイク本人により語られている。

バンドがシモンズ抜きでリハーサルをしようとしたとき、彼はさらに確信を深めた。「1曲も終わらないうちに、みんな演奏を止めて部屋の中を見回していたんだ。そして、あのさ、みんな、これは正しいとは思えないんだけど、と発言したのは僕だったと思う。」
「僕たちはもうドゥービー・ブラザーズではないと思うんだ。ドゥービー・ブラザーズはもう存在しない。その現実を受け入れる必要があると思うんだ」。

ultimateclassicrock.com

そんな事情もあってか、初ソロ作のヒットをフォローするツアーの情報は見つけられなかった。が、この年はシングル、I Keep Forgettin'の録音メンバーとほぼ同じ布陣でSoul TrainほかのTV出演をこなしており、YouTubeに動画も残されている。

翌83年には、Edgar Winter、Robben Ford、Willie Weeksらと日本も含めて数回の公演を行っている。日本公演の一部はBoz Scaggs、Joe Walsh(本作にもゲストで参加)とのジョイントだった。

他アーティストとのコラボも継続、同じく83年は奥方となるAmy Hollandの2ndアルバムOn Your Every Wordに楽曲提供、プロデュースで関わった他、Van Halenのヒット作1984の収録曲、I'll Waitの作曲にも手を貸している。

また、83年末にリリースされたJames Ingramとのデュエット曲、Yah Mo B There(邦題:歓喜の調べ)が、翌年にかけてチャートの19位まで上がるヒットとなり、彼の存在感が途切れることはなかった様に思われた。

なお、James Ingramは、Quincy Jonesの秘蔵っ子。彼の満を持してのデビュー作、It's Your Nightに収録されたこの曲で、マイクはJames IngramRod TempertonQuincy Jonesらと共作者に名を連ねている。


ソロ活動の本格始動となった2nd

タイトルから過去との決別、心機一転の心境を伝える85年発表の2ndソロ作。プロデュースはTed Templemanと、今回はマイク自身が共同で当たっている。

1stシングルはタイトル曲 A-① No Lookin' Back がカットされた。が、当時は残念ながら全米34位と小ヒットに終わっている。

マイクとKenny LogginsEd Sanfordとの共作だが、Kenny自身も同年のアルバムVox Humanaで取り上げている。


この1stシングルに代表される様に、パーソナルで内省的だった前作とは一転、開放感を感じさせる作風から、本格的にソロとしての独り立ちを意識した事が伺える。

ただ、当初は必然と思われたマイクのソロ活動への移行、実はそれほど自然な流れでもなかったかも知れない、そんなジレンマにも似た印象を本作から受けてしまう。

得意とするキーボード・アレンジの最新アップデートを狙った節もある本作のサウンド。それが、どこかミッド80thのルーチンに陥ってしまった感が否めないのだ。
本盤での分厚いシンセサイザー、プログラミングを多用した音像は、終始コンプレッション感が強く、音圧高めに響く。そんなバックと張り合うためか、得意の高音域の抜けを意識した歌唱が、心のひだを逆に感じ取りにくくしている場面も多い。本来、最優先されるはずのソウルフルな情感が、本作では少し後退してしまった様に聞こえるのが残念だ。

ここでのサウンド・クリエイター的な取り組みが落ち着きを見せるのは、次作、あるいは次々作あたりまで待つことになる。


制作方針の転換とメンバー構成

クリックで拡大

ドラムは1曲を除いてJeff Porcaroが担当。
唯一、B-② Our Love で“Roger”とわざわざクレジットされたRoger Nicholsは、Steely Danお抱えのエンジニア。額面通りのDrums演奏ではなく、彼の自作サンプラーの使用を意味していると思われる。この機材は、Steely DanのGaucho、Donald FagenのNight Flyでも重用された。
他にドラム関係でSimmons TomsとクレジットのあるGeorge Perilliは、当時のツアー・メンバーでもあった。

また、シンセサイザーが生演奏だった前作と様相を変えた事は、プログラミングでの参加者に見て取れる。
Emulator Programで3曲クレジットされたChris Pelonisのほか、B-③(I Hang) On Your Every Word では、Scott Plunkettによる打ち込みのシンセ・ベースが使用され、ベース奏者は参加していない。

続いて本作から初参加の共作者3名を、順を追って紹介する。


Chuck Sabatino

ツアー・バンドのレギュラーである彼は、マイクと同じセントルイス出身で彼の幼馴染み。また地元でバンド活動を共にした仲でもあった。
ライブではキーボードやコーラスに加え、Yah Mo B Thereなどのデュエット曲でマイクの相手役をつとめ、存在感を発揮した。本作では3曲をマイクと共作したほか、バック・ヴォーカル、シンセサイザーでも参加。

B-① Any Foolish Thing は打ち込み系が使われてない事もあって、前作に近い作風だ。彼のバック・ヴォーカルでの貢献もポイント。サックスはCornelius Bumpus。

なお残念ながら、彼は96年に43歳の若さで亡くなっている。


David Pack

AORのスタンダードと言っても過言ではない、Biggest Part of Me(1980)の大ヒットで知られるAmbrosiaの元メンバー。ギタリスト&ヴォーカリストであり、当時マイクのツアー・メンバーでもあった。

B-②Our Loveは、本作のハイライトにして、唯一の弾き語り系アレンジ。David Pack自身は演奏に関与していないが、楽曲は彼のテイストを感じさせる。

マイクとDavid Packの繋がりは、AmbrosiaがDoobiesとツアーを共にした頃まで遡る。マイクが彼をツアー・バンドに誘った経緯は、Ambrosiaの解散で彼が意気消沈していたのを見かねてとする説と、彼が初ソロ作Anywhere You Go(1985)の商業的な不発で落胆していた頃だった、とする説の2通りがある。
そうした経緯はともかく、この時点で前述のソロ作や、Amy Hollandの2ndでもマイクとコラボしており、密接な関係にあった。アーティストとしてマイクと並び立つ存在であるだけでなく、主に作曲、歌唱面で相性の良さを感じさせる。

本作では2曲での共作に加えて、ギター、キーボードで参加。前作より歪み系が増えたギター・サウンドは、彼のソロ作Anywhere You Goと共通する感触もあり、アレンジ面での貢献も多いと思われる。


AmbrosiaはTOTO以前のL.Aで唯一と言っていいプログレ志向のバンドだったが、78年にDoobiesと同じワーナーに移籍して発表したLife Beyond L.AでAORに接近。
その音楽的リーダーでもあった彼は作曲、アレンジ、歌唱のいずれにも優れ、ギタリストとしても一流の評価を得ている。
そのThe Beatlesへのリスペクトぶりや、バンド時代からのAlan Parsonsとの繋がりも含めて、Todd Rundgrenと共通する資質のミュージシャンでもある。なお、この少し前にはQuincy Jonesの誘いでプロデュース業も始めていた。


Amy Holland

Amy Hollandは、1980年に1stアルバムを発表したシンガー&ソングライター。そのデビュー作のプロデュースを担当したのがマイクだった。当時アルバムからカットされたシングル、How Do I Surviveは、チャートで22位と中ヒットを記録している。
続く2ndアルバム、On Your Every Wordでもマイクは引き続きプロデュースを担当。収録曲のI Still Run to Youでは前述のDavid Packが、マイクと共に楽曲のコ・ライト、およびデュエットで関わっている。

本作収録のB-③(I Hang) On Your Every Wordは、同アルバムに収録された彼女とマイクの共作曲のセルフ・カバーでもある。

残念ながらエイミーの2ndはサブスクリプションで聴けないのだが(1stは上がっている)YouTubeに音源が存在する。権利関係がクリアーでない様でリンクは貼らないが、機会があれば聴き比べもいいかも知れない。

ちなみに本作の前年、83年にマイクと彼女は結婚している。そんな私生活の充実ぶりも、本作の開かれた印象に繋がっているのだろう。


ワン&オンリーゆえの模索

バンド時代に彼が作り出した独特なキーボードのリフを使ったアレンジは、数多くの模倣を産む事になった。当時なんと、あのIsley Brothersまでもが追随していたのだ。
そうした一世を風靡したアーティストの宿命として、時代性の刻印がされてしまう事は避けられない。それは言い換えるなら、自らが作り出したスタイルが、逆に自身のリスクとなり得る状況だった。

そこも含めて「過去との訣別」をタイトルとし、時代性へのキャッチ・アップを意図した事が、本作の楽曲や、サウンドには表れている。
ただ、それは自然な進化、成長とはやや性格が違う。バンド時代はパトリック・シモンズがバック・アップした結果、彼の才能が開花した。ここでは独り立ちを意識した自身の「気負い」が前面に出てしまった様に聞こえる。楽曲的に十分キャッチーなものが揃っているだけに、何とも歯痒い部分だ。

次作、Take It to Heartの発表まで、5年を要する事になる。

Fin

いいなと思ったら応援しよう!