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2022.11.12 - 地域CL:刈谷×くりやま

introduction

全国地域サッカーチャンピオンズリーグの1次ラウンド・第2日。第1試合を終えた時点で、決勝ラウンド進出のために必要な勝点が朧気ながら見えつつある。群馬県前橋市のアースケア敷島サッカー・ラグビー場で行われているAグループは、第1試合で関東1部リーグ王者の栃木シティFCが勝利し、1勝1分の勝点「4」として暫定首位に浮上。1勝1敗となったFC延岡AGATAが勝点「3」でこれを追う状況だ。13:30から行われる第2試合では、勝点「1」の東海1部リーグ王者であるFC刈谷と、勝点「0」の北海道リーグ王者であるBTOPサンクくりやまの対戦が行われる。

FC刈谷は2020年の地域CLを経てJFLに昇格したが、昨季はそのJFLで最下位に沈み、クリアソン新宿との入替戦にも敗れ、敢え無く1年での地域リーグ逆戻り。今季はJFLを戦ったメンバーの大半がチームを離れ、大卒選手中心の若いチームでの再出発だった。しかし、上位が混戦となった東海1部リーグでさっそく優勝。1年でのJFL復帰に向け、2年ぶりとなる地域CLへのチャレンジとなっている。地域リーグを制したとはいえ全国レベルでは戦力的に未知数であることから、大会前の下馬評は芳しくなかった印象だが、蓋を開けてみれば大会初日の栃木シティFCとの試合で1-1のドロー。決勝ラウンド進出の有力候補と目される強豪と堂々渡り合い、個人的にもこの結果には驚かされた。第2日の試合は、前日の大健闘が刈谷の実力なのか、それともフロックに過ぎないのかを確かめる意味でも重要な一戦となる。

対するBTOPサンクくりやまは、今季から運営会社が代わり、本格的にJリーグ参入を目指して強化を始めたチーム。チーム名を改称する前の「サンクFCくりやま」時代は、北海道リーグと道央ブロックリーグの間を行き来しているチームという程度の印象しか持ち合わせなかったため、今季いきなり北海道リーグを制したのはちょっとした驚きであった。登録メンバーを見るとJリーグやJFLを経験している選手が多数所属しており、メンバーリストを見比べただけならば刈谷よりもくりやまの方が「映える」印象。一方、第1日は大卒選手中心のFC延岡AGATAに1-2で敗れる苦しい滑りだし。これ以上勝点を落とすことは許されない状況だ。

声出し応援が許可されているバックスタンドの芝生席には、両チームのサポーターがそれぞれ集まって試合前から応援。声出し応援の人数では意外にも刈谷よりくりやまのサポーターの方がやや多い印象だ。全員が全員、北海道から駆け付けたわけではないと思うが、こういう光景からもくりやまというチームの勢いを感じる。観客数も290人と発表され、栃木シティのサポーターが多く来場した第1試合(284人)より僅かに多い入りだった。

1st half

前半に主導権を握ったのはくりやまだった。多少精度は粗いが後方からロングフィードが次々に入り、前線にボールが収まる。前線で待つのは上米良と枝本の2トップ。2人共に昨季までJ3でプレイしていた実力者だ。この2人をサポートするのが平岡と轡田の両サイドアタッカーで、攻撃だけでなく守備でも高い位置からプレスをかけていく。

刈谷は球際に厳しくアプローチするくりやまに対し、中盤で起点が作れない状況。序盤はパスを回しながら崩していこうという狙いも見えたが、徐々に出し先が見つけられず、くりやまのプレスをかわすためにロングボールを使う場面が増えてくるが、くりやまの最終ラインが丁寧にケアをしてボールを収めさせない。ルーズボールはほぼくりやまが拾うようになる。

くりやまが支配しながらもなかなか決定機を作れない流れが続いていた中で迎えた35分、くりやまは波状攻撃の流れから中盤に下りてきた枝本がボールを収めて前を向くと、DFラインの背後に動き出した轡田へ縦パス。これを轡田が受け、飛び出してきたGKを鼻先でかわしてニアに流し込み0-1。くりやまが押している時間帯でしっかりと先制点を奪う。

ここまで良い場面をほとんど作れていない刈谷は引き続きくりやまのプレスに苦しむ状況が続いており、ロングボールで活路を見出したいが、チャンスといえそうな場面は41分に左サイドの深い位置で起点を作ってからの、池田のクロスに川西がニアへ飛び込んだ場面くらい。これも得点には至らないまま前半は0-1で終了する。前半はくりやまの完璧な内容だった。

2nd half

HT明けから刈谷は2人を交代して流れを変えに行く姿勢を見せるが、ゲームの内容は前半と大きく変わりなし。パスを繋ごうにも所謂「ステーションパス」が続く状態で、最終的には出し先が無く、前線に蹴らされる。57分には左サイドで池田が裏を取りアタッキングゾーンまで攻め込むチャンスを作るものの、クロスは中央の鈴木が合わせきれない。

しかし、前半と比べて刈谷がクリアボールを拾う場面が増え、単純に手数が増えていくことで徐々に流れが変わっていく。71分、DFの岩永が中盤まで押し上げたところから縦パスをPAまで送り込むと、これを受けた鈴木がマークを受けながらも振り向きざまに右足を振り抜く。するとこれがゴールマウスのニアを見事に撃ち抜いて1-1。決定機が作れない厳しい展開だった刈谷だが、ここに来てワンチャンスを決め同点に追いつく。

その後は両者決め手を欠く時間が続いたが、84分に刈谷は中盤の齋藤がDFライン裏のスペースに出た浮き球のスルーパスに対して途中出場の藤原が抜け出すと、DFの川里が藤原のペナルティエリアへの侵入を後方から引っ張って阻止。3分前に守備固めで投入されたばかりの川里だが、得点機会の阻止によりレッドカードを提示されてしまう。ここまで互角以上の戦いをしていたくりやまだが、ここに来て数的不利の戦いとなる。

この展開を無駄にできない刈谷は当然ながら逆転を狙う。残り時間が少ない中、くりやまのゴール前へロングボールを送り込むが、精度が粗くて味方にボールが収まらない。追加タイムに入っても刈谷の拙攻が続く中、AT4分にくりやまはカウンターからCKを獲得。くりやまにとっても等しく1点が欲しい状況であり、GKの佐藤がベンチに確認をとった上でパワープレイに出る。相手ゴールマウスが空いたことを確認した刈谷は前線に藤原を残し、最後のワンチャンス狙いだ。

運命のCK、くりやまは中央にボールを入れるが、刈谷がクリア。ルーズボールを受けた鈴木が誰も残っていない裏のスペースへボールを蹴ると、ハーフウェイライン手前で待っていた藤原が1人抜け出した。既にATは目安の時間を過ぎており、クリアのタイミングで主審は笛を一度口にくわえたが、藤原が抜け出したのを見てプレイ続行。その瞬間に全てが決まった。くりやまの選手の必死の追走も間に合わず、藤原が無人のゴールに渾身のシュートを蹴り込み2-1。刈谷の選手とサポーターが歓喜に沸き返る中、主審がタイムアップのホイッスル。劇的としか言いようのないラストプレイでのカウンターを決めた刈谷が勝点「3」を確保した。

impressions

「これぞ地域CL」というべき、想像を絶する決着だった。「ラストプレイでの決勝点」や「パワープレイを仕掛けられた側がカウンターで得点」というのはごくたまに観る光景だが、「同点の状況のラストプレイで片方のチームがパワープレイを仕掛け、仕掛けられた側がカウンターで決勝点」という事例はリーグ戦の最終節などではありそうなシチュエーションだが、自分の知る範囲ではちょっと記憶にない。決勝ラウンド進出のハードルが高い地域CLならではのレギュレーションにより両チーム共に勝点3がどうしても必要だったことや、くりやまが数的不利だったことなど、複数の条件がたまたま揃っていたからこそ起きたシチュエーションであり、そう簡単に再現できるものではないだろう。凄いものを見させてもらった。

刈谷は後半途中まで全くと言って良いほど見せ場を作れない試合だった。主要因としてはくりやまのプレスが非常に厳しく、ボールを回せなかった点にある。後方が押し込まれることで全体が間延びし、たまに出てくるロングボールも前線で収まらず、2列目のサポートも乏しい。途中まではくりやまが完全に掌握していたゲームだった。しかし早め早めの交代でフレッシュな選手をピッチに送り込んでいた刈谷が徐々にボールを拾えるようになり、いつの間にかピッチ上のパワーバランスが変わっていた。その結果として71分に鈴木の同点弾が生まれている。

同点となって以降はくりやまも勝利を狙って前に出てきたため、すぐさま逆転とはいかなかったが、逆に再び背後のスペースが生まれ、その結果として川里の退場という試合の行方を大きく左右する場面に繋がった。数的優位になって以降はワンサイドゲームとしながらもクロス精度が甘く、詰めの甘さを覗かせたが、ラストプレイに関しては前線に味方を2枚残し、クリアボールを回収して確実に1点に繋げた。運の要素が働いたとはいえ、勝点3を獲得するために「やるべきことはやっていた」のもまた事実である。決勝ラウンド進出のためには明日の延岡戦で勝つことが最低条件となるだろうが、この勝利がチームにもたらすプラスの影響はかなり大きいだろう。

くりやまは敗れたとはいえ、全体的な戦い方は悪くなかった。後半途中まではパーフェクトに近い出来だったし、同点とされた後も諦めずに再び前に出て1点を取りに行くサッカーができていたのではないか。退場者を出して以降に防戦一方となったのは致し方なく、ラストプレイの場面でワンチャンス狙いのパワープレイを選択したのも判断としておかしいものではなかった。ドローでも一応決勝ラウンド進出の可能性は残る状況だったが、その可能性は微々たるものでしかなく、それならばリスクを冒してでも自力突破の可能性が残る勝点「3」を狙いに行きたいと考えるのはごく自然だ。結果として刈谷に決勝点を許して1次ラウンドでの敗退が決定したくりやまだが、これはギャンブルの結果にすぎず、特定の誰かを責められるものではない。

かくしてAグループは、栃木と刈谷が勝点「4」で並んだまま明日の第3日を迎えることに。Cグループでは福山シティとブリオベッカ浦安がそれぞれ2連勝で勝点「6」に伸ばしたため、ワイルドカードでの決勝ラウンド進出のためにはこの勝点「6」以上がマストという状況になった。栃木にとっても刈谷にとっても勝利が絶対条件となる1次ラウンド最終戦、決勝ラウンドへ進むのはどのチームなのか、現地で見届けることはできないが楽しみだ。

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