(サッカー)2023.12.3_J1_湘南ベルマーレ×FC東京@レモンS
introduction
カレンダーは12月に入り、サッカーシーズンはいよいよ1年の締め括り。この週末はJリーグが閉幕を迎える。昨日(12/2)にはJ1昇格プレーオフの決勝が行われ、J2で3位の東京ヴェルディが16年ぶりのJ1復帰を決定。そして今日、12/3はJ1とJ3の最終節が行われる。例年、J1最終節は土曜日に行われる印象があるが、今年に関しては11月最終週のミッドウィークにACLがスケジュールされていたため、ACL出場クラブの日程を考慮しての日曜開催なのだろう。我らがFC東京の最終節は、湘南ベルマーレを相手にアウェイ・レモンガススタジアム平塚での対戦。東京近郊でのアウェイであり、やはりシーズン最終戦は現地で見届けたかったので、現地観戦を決定。発売日を狙ってチケットを押さえ、試合当日を迎えた。
毎度のことではあるが、今回も行き帰りのアクセスは伊勢原から路線バス。小田急線の快速急行に乗って伊勢原へ向かう。伊勢原の前駅にあたる愛甲石田を出ると、進行方向右手に現れる大山の稜線がくっきりと見える。こんなに綺麗な山並みが見られるのもこの季節ならでは。伊勢原で下車するとつい北口から大山ケーブル行きのバスに乗ってしまいそうになるが(笑)、そこは我慢して駅構内の「箱根そば」で腹を満たし、南口から平塚駅行きのバスに乗って総合公園へ。総合公園の西入口はこの公園の裏門的な入口で、イベント開催日も比較的閑散としているが、今日はこの西入口からスタジアムに延びるメタセコイアの並木道の色付きが本当に綺麗で、ちょっと儲けものをした気分になる。
平塚で東京のアウェイ戦を観るときは専らメインスタンドのアウェイ寄りのチケットを買っているが、本日の観客席はアウェイ寄りまで湘南ファンが多く陣取っており、チケットもほぼ完売に近い状態。青赤のグッズを身につけるファンもそれなりに見かけるが、例年に比べれば少ない印象だ。湘南が前節までJ1残留を確定させていなかったこともあり、この試合がJ1残留を賭けた大一番となる可能性があったためだろう。
ホームの湘南は現在勝点「34」で15位。今季は3年目の指揮を迎えた山口智監督のもとで上位進出を目指してのシーズンだったが、第7節から第21節まで実に15試合連続勝利無しという長いトンネルに入るなど苦戦を強いられ、J1残留争いに巻き込まれた。リーグ終盤戦に入ってからは得点源である大橋の復調などもあり、直近5試合では4勝1分と復調。前節はアウェイで18位・横浜FCとの「裏天王山」だったが、大岩の値千金のゴールを守りきり1-0と勝利。最終節を残してJ1残留を確定させている。残留争いの重圧から解放された状況で臨むこの試合で何を見せてくるか、要注意だ。
一方の東京は、勝点「40」の12位で迎える最終節。リーグ戦では第29節のガンバ大阪戦(H)を最後に4試合勝利が無い。4試合といえば大した試合数ではないようにも感じるが、カレンダーでいえば10/1以来2ヶ月勝利が無いので、ファンとしては久しく勝利を観ていない感覚だ。来季から新エンブレムへの変更が予定されている東京にとって、今日は現行エンブレムでの最後のゲーム。とても成功とは言い難い残念なシーズンだったが、最後だけは良い終わり方をしたい。今節は長友が出場停止となっているが、他にも渡邊や原川などがメンバー外となっており、代わりに寺山がスタメン起用されるなど、ややフレッシュな顔ぶれ。また、今季限りでの契約満了が発表されたアダイウトンもスタートからの登場で、選手紹介時にはゴール裏から大きな拍手が起きていた。
1st half
試合の序盤は互いに攻める構えは見せるものの、リスクマネジメントが機能していてこれといったチャンスは無し。11分に東京がアダイウトンのミドルシュートで攻撃を終えた場面が最初のそれらしいチャンスだ。続く12分、湘南の中盤での組み立てをアダイウトンがカットしてショートカウンターが発動。アダイウトンがボールを運んでゴール正面のディエゴに渡し、前を向いたディエゴがボックス外から右足インフロントに引っ掛けたコントロールショットを狙うが、これは僅かに枠の上に外れてしまう。
ホームの湘南は、ボールを奪ってスペースがあれば直線的に東京ゴールへ迫っていく持ち前のスタイル。右WBの岡本が高い位置取りをして押し込んでいく形はもはや見慣れた光景。岡本とマッチアップするバングーナガンデにとっては忙しい1日だ。序盤から何度か岡本が裏のスペースを狙う局面があり、アタッキングゾーンから中に入れた先でゴールを狙うのは、今季好調を維持している大橋。とにかく彼にフィニッシュへ持ち込ませないことが肝要となる。序盤は湘南にサイドを明け渡す場面こそあるが、クロスはしっかり跳ね返して流れを作らせない。
ゲームスピードを制御したい東京は、ボランチで先発の寺山が低い位置まで下がってきて組み立てに積極的に関与。その影響もあってか、東京のポゼッションが多い前半となるが、仕上げの部分はどうしてもディエゴやアダイウトンのアイデア任せに。周囲の湘南サポーターはディエゴやアダイウトンにボールが渡るたびに「怖い、怖い!」と恐れているが、今季の東京を見慣れている立場からすると、なぜそんなに恐れる必要があるのか少し不思議なくらいだ(笑)。22分には右サイドからのクロスにアダイウトンが中央で合わせるが、相手の寄せもあってシュートはミートしきれない。
東京が攻めあぐねるうちに流れは少しずつ湘南へ傾いていく。35分、ハーフスペースまで進出した岡本のマイナスの折り返しに、走り込んだ池田がダイレクトで狙うが、若干当たり損なったシュートは枠の左。その後も右サイド中心に崩す場面の続く湘南は前半ATに中盤へ下りてきた阿部のスルーパスに抜け出した岡本が右から折り返し、ファーサイドに詰めていた大橋がフリーで待ち受けるが、シュート性の折り返しはどうにか守備が戻ってブロックして事なきを得た。結局前半は0-0で終了。徐々にホームチームが押す展開となる中、どうにかゼロで折り返すことができたのは良かった。
2nd half
後半に入り、先に攻勢を仕掛けたのは東京。47分、バングーナガンデが左からカットインを仕掛けて中央付近でこぼれた球をアダイウトンが身体を張って残し、更にこぼれた所へ待っていたディエゴがボックス右隅付近からニア上をパワーシュートで狙うが、これはGK・宋範根が反応してCKに逃げる。続く50分、今度は左サイドでボールを受けた寺山が前を向いてドリブルで持ち運び、味方に預けてからのリターンを裏のスペースで受けてボックス内に侵入。左の狭い角度からフィニッシュへ持ち込むが、これは枠の左。いずれも崩しきるような決定機ではないが、相手ゴールへ迫る場面を立て続けに作り出す。
52分、東京は最終ラインの森重が左サイド裏の広大なスペースにロングフィードを蹴り込むと、これにアダイウトンが追いつき、ドリブルで持ち運んでアタッキングゾーンまで進出。湘南の守備陣が急いで帰陣して自陣を固める中、アダイウトンはキープしながら様子を窺い、遅れて上がってきた小泉へボールを渡す。引き取った小泉はそのまま左のポケットにボールを持ち運び、シュートコースを切りながら出てきた宋範根が身体を倒した瞬間、頭上を抜くループ気味のシュート。「ふんわり」という効果音が聞こえてきそうな鮮やかなフィニッシュがゴールネットに吸い込まれて0-1。東京が先制に成功する。ゴールを決めた小泉がそのままビジター側のゴール裏スタンドに駆け寄り、控えの選手たちも一斉に走り寄って歓喜の輪ができる。
先制を許した湘南は57分に最初の交代で2枚替えを敢行(茨田→奥野、平岡→鈴木)。このあたりから再びホームチームのポゼッションが増え、東京が受けて立つ流れに変わっていく。66分には左に流れて受けた阿部のサイドチェンジが右サイドでフリーの岡本に渡り、ゴール前への低くて速いクロスは森重がどうにかカットしてCKへ。ひやひやする守備対応が目に付くようになる。71分、東京はこの日最初の交代カードで一気に3枚替え(アダイウトン→ジャジャ、寺山→東、ディエゴ→熊田)。東京でのラストゲームであるアダイウトンはここでお役御免となり、スタンドからは大きな拍手。ピッチ上でもチームメイトがアダイウトンのもとへ集まる光景が見られた。
75分、湘南は再び右サイドを崩して岡本がアタッキングゾーンから折り返し。完璧なタイミングでニアに入った大橋が頭で合わせたフィニッシュはゴール目前を横切って僅かに左。ホーム側スタンドから大きな悲鳴があがり、肝を冷やす。この直後、東京は仲川が足を痛めた様子でプレーを続行できず、安斎と交代。特別指定選手として今季のチームに加わっている早稲田大学在学中のホープが右ウイングへ。更に80分には左で踏ん張っていたバングーナガンデもピッチに倒れ込み、こちらも交代の判断となって土肥を投入。土肥は急遽左SBでの出場だ。立て続けのアクシデントで交代カードを使い切り、経験の浅い選手もいる中での「撤退戦」となるが、もうやるしかない。
試合終盤は湘南がこの日安定して崩すことのできている右サイドからの攻撃を多用。若い土肥の対面であり、「狙い撃ち」の意図もありそうだ。湘南の猛攻を受けて防戦一方の東京だが、ゴール前に入ってくるボールをどうにかクリアして時間を稼いでいく。後半ATは7分。気の遠くなるような時間だ。湘南はDFの金眠泰を最前線に上げ、ハーフスペースまで切り崩しての折り返しで押し込もうとしてくるが、東京も必死に掻き出し、熊田・ジャジャ・安斎の3トップも必死にプレスをかけて簡単にはボールを入れさせなかった。そして遂に谷本主審がタイムアップのホイッスル。ビジター側スタンドからは安堵の入り混じった歓声があがった。虎の子の1点を守りきり撤収を完了させた東京が、シーズン最終戦をクリーンシートの勝利で終えた。
impressions
リーグ戦の最終節にしてようやくの、2ヶ月ぶりとなる勝利。課題は色々あるにせよ、まずは結果が出たことを喜びたい。今季の東京はアウェイでの戦績がめっぽう悪く、リーグ戦に限ればここまで僅か2勝しかできていなかったが、我慢強い戦いでアウェイ3勝目を挙げることができた。また、ここ近年、決して相性が良いともいえない湘南相手にしっかり無失点で勝ち切ることができたのも、大きな収穫だと思う。勝ち無しのままシーズンを終えることになっていたら消化不良感は半端なものではなかっただろうし、何より今季限りでチームを離れる選手もいる中で、勝利で区切りをつけることができて良かったと思う。
ホームの湘南は攻撃に迫力があった。得意とする崩しの形があるのは武器として大きい。それは主に右サイドの突破にあると思っているが、今日もその形で複数のチャンスを作ってきた。東京の守備も後手を踏んだわけではなかったが、単純に押し負ける時間帯は多かった。一方、フィニッシュの精度を欠いたのは痛かった。現状での得点源である大橋にボールを集めたが、その大橋が今日は不発気味。また2トップを組んだ阿部もゴールから遠ざけられる形となり、フィニッシュにはなかなか絡むことができなかった。終盤のパワープレイには怖さがあったが、その時間帯に至るまでに明確な「プランB」を示すことができなかったのが湘南の敗因かもしれない。
東京は前半はボールを保持できる時間帯もあったが、相手の守備を崩すアイデアが無いまま湘南に主導権を渡してしまい、苦しい展開になった。しかし悪いなりに無失点でハーフタイムを迎えることができたことで流れが変わった。後半の頭から中盤やバックラインの選手が積極的に攻め上がる姿勢を見せて攻撃に迫力が生まれた。先制点は最終ラインの森重からアダイウトンをめがけたシンプルなロングフィードが起点となったものだが、アダイウトンがキープする間に中盤が一気に押し上げることができた。この試合でゴールが取れそうな空気があったのは本当に僅かな時間帯に限られたが、そこで1点を取り切り、逃げ切れたのは収穫といえる。
シーズン最終戦ながら、フレッシュなメンバー構成で結果を残せたという点も良かった。中でもスタメンで出場した寺山のプレーは印象的だった。前半から自陣で数多くボールを引き出す姿勢を見せ、攻守に関与していた。後半には自らボールを運んでフィニッシュまで持ち込み、先制点に繋がる流れを作った。この試合最初の交代でピッチを退いたが、プレー機会に飢えていたのが良く分かる働きぶりだった。多少軽さはあるが、良い意味での「蛮勇さ」がチームに活力をもたらしたのは間違いない。本人のアピールが前提になるとはいえ、来季はもっと寺山の出番を観たい。途中出場の安斎も右ウイングでボールを追いかけ、ファーストディフェンスの役割を果たしていたし、緊急出場となった土肥も、自分のサイドを狙い撃ちされた感はあったが決定的な破綻はきたさなかった。貴重な経験になったのではないか。
今季限りでチームを離れるアダイウトンは、小泉へのアシストで最後に勝利に貢献してくれた。一人でサイドを制圧することのできる突破力は間違いなくチームにとって最大の武器であり、必要な戦力だった。その存在価値は、この試合においてもなお変わらなかったと思う。アダイウトンが去った後の東京が上手くいくのかは未知数で不安しかないが、特定の個への依存から脱却して次のステップに進むために必要な決断だったのだと思う。改めて2020年シーズンから4年間に渡るアダイウトンの貢献に感謝したい。
2023シーズンの公式戦は本日を以て全て終了。クラブにとっては現行のエンブレムでのラストゲームを勝利で飾ることができ、ひとまずは良い区切りをつけた形。しかしシーズンをトータルで見れば、リーグ戦は勝点「43」の11位でのフィニッシュ。カップ戦も早い段階での敗退となり、総合評価としては「失敗」と言わざるを得ないだろう。明日から選手の移籍や契約更新に関するニュースが次々にリリースされると思うが、今季をどのように総括し、来季にどう繋げていくのか、まずはクラブにそれを示してもらいたい。