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『天真爛漫ミイラガール』第2話(全3話)

7. 走行中の車内(夕方)

来た時同様、曽太郎が運転している車に助手席に恵、後部座席に爛子が乗っている。後部座席のベビー用品の箱が来た時よりも増えており、爛子が座るスペースが狭くなっている。

爛子「え、明日の飲み会に、木下先生も来るってこと?」

曽太郎「想像したら緊張してきた」

「久しぶりでしょ? 爛子」

爛子
「うん、卒業してからは会ってないから、もう5年?」

曽太郎
「なんか腹筋痛くなってきた」

爛子
「あ、出た、腹筋!」

「私も会うのは久しぶりなんだけどさ、折角部員も結構集まるから」

曽太郎
「我れら演劇部が産んだ大女優の凱旋でごぜぇやすからね」

爛子
「フェッフェッフェ、いやあ木下先生かぁ懐かしいなあ、いっぱい怒られたなあ、毎日毎日よくもまああんなに……」

スマホの着信音。爛子のカバンの中から音が聞こえており、気付いたがカバンの場所がわからず焦る爛子。

爛子「わわわ! ちょ、まっ!」

慌てて探し当て、スマホの画面を確認するが、がっくりしてスマホを投げる。着信は続いている。

「出ないの?」

爛子
「うん、バイト先だった! 暫く電話出れないって言ってあるし」

「何、誰からの連絡をお待ちで? 男すか? え?」

爛子
「んー、むふふぅ」

「え!? 本当に!?」

爛子
「違うよー、今映画のオーディションでやっててさ、ちょっと大きいやつで、最後の十人に選ばれてたんだけど、早ければ今日にでも事務所から直接電話来るはずなんだよね」

「へー凄いじゃん! 爛子なら大丈夫だって」

爛子
「ちょっとだけ手応えあって、なんかもう、ちょっと今これに掛けてるっていうか、まあでも難しいとは思うんだけどね」

「いいじゃん!」


8. 爛子の実家・居間(夜)

暗い部屋に赤いスーツケースを引きずり入ってくる、包帯姿の爛子。

爛子「ただいまー」

電気を点けながら懐かしそうに部屋を見渡す。
仏壇の前に座り、鞄からチラシを取り出す爛子。

爛子「お父さんただいまー、これがねぇ次の舞台のチラシだよー」

仏壇には爛子の父の遺影。その横にチラシを置く爛子。


9. 爛子の実家・居間(回想)

小学3年生の爛子が学芸会での演技の練習をしている。それを見て拍手をする父と母。父に褒められ喜ぶ爛子。


10. 爛子の実家・部屋(夜)

ベッドの上に学校のアルバムや、写真が散乱している。
爛子が壁に掛かる賞状を取ろうとすると、額縁の裏から小箱が爛子の顔面に落下して直撃。

爛子「いでぇっ!」

顔を押さえながら、落ちた小箱を拾う。中には金メダル。賞状には”第53回北関東演劇発表大会優勝”と書かれている。
賞状を眺めて微笑む爛子。


11. 湖のほとり

翌日。
太陽の光が反射する水面を眺めながらゆっくり歩く包帯姿の爛子。


12. 病室

母と笑顔で会話している爛子。

爛子「じゃあ、そろそろ行くね」

「楽しんできてね」

爛子
「うん!」


13. 居酒屋・個室

10人程の若い男女が酒を飲んでおり、その中には爛子、恵、曽太郎も居る。

爛子「そう、がっつーんって!」

「なんで裏に置いてあったの」

爛子
「わかんない、賞状と一緒に置いておきたかったのかな?」

曽太郎
「俺ちゃんとメダルも飾ってあるよ、いやぁ、懐かしいね大会」

「爛子の熱ね!」

曽太郎
「そうそう!」

爛子
「え、熱?」

「えー?」

曽太郎
「お前、覚えてないの?」

爛子
「え、なになに?」

「マジか」

曽太郎
「決勝の日お前、39度だかの熱出して倒れたじゃん」

爛子
「そうだっけ?」

「木下先生も爛子は絶対に出しちゃダメだって言ってたのに、あんた出るって聞かないから」

曽太郎
「俺が大会に嘘の連絡とかして、後で先生に死ぬ程怒られたじゃん」

爛子
「全然覚えてないんだけど」

「えぇぇ、まあ、そのおかげであの優勝もあるんだけどね」

曽太郎
「いやぁ、青春ですなぁ」

「(スマホを見て)木下先生、着いたみたい!」

曽太郎
「おぉ、なんか緊張してきた」

男1
「変な事言ったら腹筋だぞ!」

女1
「わー、やった腹筋!」

「あんたいっつも怒られてたもんね」

曽太郎
「ほんとだよー、恵も爛子も全っ然言われねえから、二人の分を俺が引き受けてたと思ってたもん」

爛子
「えーそんな事…」

そこへ個室の戸が開き、木下先生(45)が入って来る。

木下先生「どうも」

「先生ご無沙汰してます」

男1女1
「ご無沙汰してます!」

木下先生
「お邪魔じゃないかしら?」

男1
「いや、何いってるんすか! ささ、先生こちらへ!」

男1が木下先生を上座へと案内する。
爛子が少し改まって先生に挨拶をする。

爛子「お久しぶりです先生!」

木下先生
「爛子―! 久しぶり」


14. 居酒屋・化粧室

鏡を見つめる包帯姿の爛子。表情は少し笑顔。そこへ木下先生が入ってくる。

爛子「あ、先生」

木下先生
「どうなの調子?」

爛子
「なんとかやってます」

木下先生
「ならいいけど」

爛子
「ようやく、慣れて来た感じですかね、遅いですけど」

木下先生
「そう」

爛子
「先生もう学校で教えてないんですよね?」

木下先生
「……うん、今は地域センターのサークルで週1でやってるくらい、今ハムレットやってるんだけど酷いのよねー、あーまた明日もあれ見るのかー」

爛子
「そうなんですね」

包帯姿の爛子を見つめる木下先生。

木下先生「元気そうで良かったわ」

爛子
「はい!」

木下先生
「こないだの舞台も観たよ、あの裁判のやつ、DVDだけど」

爛子
「え!? ほんとですか!」

木下先生
「正直、本はあまり好きなタイプじゃないけど、爛子は良かったと思うよ、あそこの後ろ向いて話すところとか」

爛子
「うわぁ、え、えええ!?」

木下先生「なに?」

爛子「なんか先生から褒められるのとか、違和感!」

木下先生
「なんで!?」

爛子
「え、だって先生褒めた事ないじゃん!」

木下先生
「はぁ? そんな事ないでしょ!」

爛子
「えぇー、無いっすよー、駄目とか無理とか才能ないとかしか言わないじゃないですか!」

木下先生
「そりゃあほら、時には厳しい事も言うでしょ」

爛子
「だって先生、卒業の時に言ったこととかも酷かったじゃないですかー!」

木下先生
「え、なんか変な事言ったっけ?」

爛子
「言いましたよー! いや結構ショックだったもん! なんか逆にあれでちょっとスイッチ入った所もあったり……」

楽しげに話す爛子と先生のやりとりの声を、入り口の外で聞いて微笑む恵。


『天真爛漫ミイラガール』第3話へ続く

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