見出し画像

【中国映画】怒りの河 が面白かった

東京国際映画祭2024が始まっている。シネフィルでもなんでもないので毎年数本しか観ないが、やっぱり映画祭はお祭り感があって楽しい。
先日綾瀬はるか主演の「ルート29」を観て、その次に今作「怒りの河」を観てきたので簡単に感想を書こうと思う。日本公開決まってるのか知らないが、めっちゃ面白かったすよ。

上映後には監督とプロデューサーのティーチインもあった

あらすじ(TIFF公式より引用)

雲南省の地方都市に暮らすフー・ダンジエは、都市に出稼ぎに行っている間に娘が自殺したことを知る。学校内でのいじめが娘の自殺の原因だったことを知らされたダンジエは、そのいじめの中心となっていたと思われる少女ジー・ホンを探し、娘に何があったかを問い詰めようとするが、ジー・ホンは国境を越えてミャンマーに逃走していた。ダンジエはジ・ーホンの行方を追ってミャンマーに向かうが…。娘の死の真相を明らかにするために国境を越えた男が、混乱した異国で直面する過酷な現実を壮大なスケールで描いたドラマ。『初恋未満』(13)でデビューしたリウ・ジュエンの監督第2作。ジャ・ジャンクーがエグゼクティブ・プロデューサーを務めた。平遥国際映画祭オープニング作品。

TIFFの作品紹介サイト

家父長制的な振る舞いを超えて

あらすじを見るとなにやらおじさんの復讐譚みたいな感じに見えて、デンゼルワシントンとかリーアムニーソンとかマドンソクとかがやりそうですが全然そういう方向じゃないです。むしろすごく内省的というか、父親による贖罪と悔恨が未来をどう変えるかという話。

この映画は生前の娘と父親の描写で始まるんですが、彼は娘のことが大好きで寡黙だが優しい人なんだろうとは思いつつ、地域の伝統行事である屠牛のパフォーマンスに興味のありげな娘に対して「そんなんいいから学校で勉強しろ」と言います。
優しいけど彼女を人格ある個人として扱ってなくて、あくまで”庇護する対象”として見てるんだなってその一連でわかる。そんな”大切な”娘が自身の出稼ぎ中に自殺して、犯人探しの旅が始まっていく。やや家父長制的な価値観を持つ彼が旅の過程でどう変わっていくかっていうのが、この映画の大きなテーマだと思いました。
詳細の表現は避けますが、彼がラストに取る行動からは女性を(弱き者を)守るべき対象として見ていないのが明白で、自身の過去の間違った男らしさを解体しているようだなと。本国の空気や社会情勢には疎いですが、中国映画でこういうことを語る映画って珍しい気がする。(わたしが疎いだけか)

あとこの映画母親が出てきません。これもすごいいいなと思って、男性性が成長したり何かを改めるときに自分で気づく・自分で変わることってすげー大事だと思うから。弱きものが声を上げないと変わらないのはただの驕りだから。ひたすら内省によって行動が変えられる、その勇気を持っていることが、大人だなーと。

”河”が表象すること

タイトルにもなっている河が何度も劇中で出てきます。中国とミャンマーの国境沿いの話で、まさにその2国間を行き来するときにロープウェイ(というよりジップラインか)が使われるのがとても印象的。
濁っていたり澄んでいたり、静かだったり荒れ狂ってたりするんですが、これって権力勾配を象徴しているのかなーと思ったんです。
・上から下へ流れる(逆流しない)こと
・上が腐れば皺寄せは下に来ること
”パラサイト”でも大雨による水流が半地下に流れ込む描写があったけど、今作もそれに近い水の使い方をしているなと。

中国とマレーシアの国境で映画を撮る

ティーチインで監督がおっしゃってましたが、この映画は実際に現地でモデルとなる人がいて、彼らに実際に話を聞いたことがきっかけで映画を作ったそうです。
取材も綿密に行ったらしく、屠牛のパフォーマンスや仏像をはじめとした宗教のモチーフについては何かの意図というよりは実際にそういう生活なんだとか。

こういうローカルなものを体感できるのも外国映画を見る楽しみのひとつだったりすると思うので、そういう意味でも映画祭でこれを観れたのはよかったなと。公開決まってるのか不明ですが、見れる人はぜひ。

*会場は中国のお客様が大変多かったみたいで、上映後のQAは日本語での質問はなかったです。(フェミニズム的な文脈で私も質問したかったけど当たらず)


河の迫力・誰かと誰かが繋ぐ手・リスカの跡。アートワークも良い。


いいなと思ったら応援しよう!