Vol.884「KCIA 南山の部長たち」★★★

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 ☆ ★ 映画のなかの人生、映画のような人生。★ ☆

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【映画とは、人生を2時間で切りとるもの】
映画が魅せる、人間のやさしさ、弱さ、強さを、いっそう鮮烈に、
そしてもっと映画を観たくなる、ひと味違うメールマガジン。

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  Vol.884「KCIA 南山の部長たち」★★★  2021.3.4(水)
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  【1】STORY
   将軍とともにクーデタを起こした男は、側近中の側近と
   して政権を支え続けてきたが、次第に大統領は変節する。

  【2】Review
   韓国版「麒麟がくる」。永遠のNo.2として生きる男の
   プライドと苦悩をイ・ビョンホンが熱演するサスペンス。

  【3】Column
   絶望は救世主を求めるが、人は救世主を演じきれない。。

______________________________________The Man Standing Next

日本でもよく知られるイ・ビョンホン主演のサスペンス。
韓国映画は政治的背景や実際の事件をベースにしながら、
重厚な映画に仕立てるのが本当に上手です。
「殺人の追憶」なんて、いまだにラストシーン印象に残る。

<オフィシャルサイト>

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┃1┃ STORY (観ていないあなたへ)

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軍事独裁政権下の韓国、大統領とともにクーデタを起こし、
いまは中央情報部部長として、反対分子弾圧を進める男。
忠実な彼だったが、次第に同僚や国民を軽んじる大統領に、
同情と憎しみをない交ぜにした気持ちを高ぶらせていく…。

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┃2┃ Review (観終わったあなたへ)

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【ポイント】★★★

<内訳>
テーマ   :★★★
ストーリー :★★★
キャスト  :★★★
スタッフ  :★★★★

No.2がトップの寝首をかく、という話であれば、
つい最近、日本でも盛り上がったばかりの展開。
まさに韓国版の「麒麟がくる」ですね。

こちらは徹底してノワールな雰囲気。
抑制された表現のなかに交錯する殺意。
いつ、凶行が始まるのかとヒヤヒヤする流れ。
この雰囲気づくりは本当に上手ですね。。。

そのなかで、イ・ビョンホンの演じる主人公は、
決してスーパースターではなく、あくまで中間管理職。
強権発動の実行責任者という強面でもありながら、
独裁者の忠実な後輩であり、失態続きの部下でもある。

国を良くする、というクーデタに魅入られて、
しゃにむに将軍についてきた結果の矛盾した現実。
自らの理想と現実との乖離、政治的手腕に欠ける実力、
大統領となった将軍への敬愛の念に引き裂かれて、
行動を起こし、破滅に突き進む男の苦悩を、
ビョンホンが前髪をかき分けながら演じていきます。

ただ、彼には苦悩だけではなく、迫害者ではなかったか。
なぜ、彼が最後に破滅を迎えるのかも含めて、
限界を示さないと、最後の実際の音声だけでは、
独りよがりに見えてしまうな、と気になりました。
とはいえ韓国映画、ちゃんと作ってるな、と感心。

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┃3┃ Column(観終わったあなたへ) 

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いつの時代も、絶望は独裁の始まりである。
自分たちのチカラでは、どうにもならない状況に陥ると、
人々が求めるのは救世主であり、強いリーダーである。

それは、民主主義が広がった時代でも例外ではない。
混乱した社会では、意見がバラバラになり、
話し合いや多数決ではなかなか問題が解決しない。

やがて人々は苛立ち、この体制ではダメだと思い始める。
かくして、この国のためにと立ち上がる人々が集まり、
クーデタが勃発し、彼らは政権を奪取する。
戦後の韓国で実権を握ったのは軍部であり、
そして朴正熙将軍が大統領として独裁をはじめる。

多くのクーデタは、高邁な思想からなる。
命を懸けてまで立ち上がったのだから当然だろう。
実際、軍事政権時代に韓国経済は急速に回復したとされ、
クーデタの実行者たちは、その成果に胸を張っただろう。

しかし、時が経てば、人々は変わる。
独裁は目的を見失うと、自己防衛に走り出す。
高邁な理想のために、反対者たちを抑圧していたはずが、
いつのまにか自分たちのために、反対勢力を抑圧する。

独裁は暴走し、独裁は止められない。
なぜなら、それが独裁だからである。
中央情報部の部長として、「敵」を抑圧してきた男は、
権力の変質に気がつくが、それでも権力を裏切れない。

だって、ともに命を懸けた同志だったのだ!
大統領もかつては将軍で、上官だったのだ!
あのときの高邁な理想、高ぶる胸の内は、
いったいどこへ行ってしまったのか?

その将軍が、部下たちを斬り捨てていく。
理想とはかけ離れたイエスマンを側近にする。
自分のイメージやプライドばかりを気にして、
国民さえ蔑ろにする発言に、彼は返す言葉を見つけられない。

彼は忘れている。
人は変わるのだ。
理想は現実に溶け込んで劣化するものだ。
命を懸けた人間ほど、そして得たものに執着して、
余生を汚すことなど、いくらでもあることなのだ。

それでいいのか?
しかし、独裁を止めるには暴力しかない。
そしてそれこそが、民主主義が独裁を上回る、
いちばんの利点だが…それでも今日も世界各地で、
いくつもの絶望が、独裁の始まりを告げている。

2021/2/9 グランドシネマサンシャインにて。

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┃4┃ 次回予告 ほか

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その他、筆者からのお知らせなどなど。
なかなか仕事やいろんなことの合間に書くには、
ペースがつかめずごめんなさい。

★ 次回予告「すばらしき世界」……………………………………

デビュー作からレビューしていた西川美和監督もいまや巨匠。
主演に役所広司を迎え、長く刑務所生活が続いてきた男と、
社会との間に横たわる断絶を深く切り取っていく作品らしい。
この前の「聖なる犯罪者」と対比できそうなテーマなのか。


★これまでのバックナンバー…………………………………………

かろうじて、昔やっていたブログがここに残ってる。
http://filmandlife.seesaa.net/

なんと、まぐまぐが復刊できました。。。
https://www.mag2.com/m/0000197069

しかしなぜかバックナンバーは出てこない…。
まあそんなものか…ショックだが、やむなし。

そのうち過去のオススメを復刊します。
ちょっとお時間をください。
気長にやっていきますので、今後ともよろしくお願いします。

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【映画のなかの人生、映画のような人生。】
 Vol.884 2021年3月4日
 発行者:モノカキスト
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