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小説『四日間の奇蹟』

『四日間の奇蹟』
浅倉卓弥・著、
宝島社文庫・\720

【<脳に障害を負った少女とピアニストの道を閉ざされた青年が、山奥の診療所で遭遇する不思議な出来事を、最高の筆致で描く癒しと再生のファンタジー>】

私はまだ観てないが、佐々部清監督で、映画化されている。

泣けた。
本を読んで涙が出てしまったのは、いつ以来の事だろう。
死にゆく事が確実な事実として判っている時、私達はどうするだろう・・

死んでゆこうとしている女性が、少女の体に四日間だけ確実に存在していた、その奇蹟に私の涙腺はゆるんでしまった。
その女性はどのような存在だったのかが、その四日の間に浮かび上がってくる。
本を読みながら、いろんな思いがわいてきていた。

私自身、1997年春に父が亡くなって以来、親族の死去を何度か経験している。
父の兄、従妹、母の兄、祖母。
だけど、父の死去はやはり特別だった。
父がいなくなってからしばらくして、家に一人でいて父の笑っている顔の写真を見た時、ふいに泣けてしまった事があった。

・脳は不思議だ
私の父は、脳死だった。
朝、トイレで倒れて近所の病院に入院、夜には人工呼吸器をつけていた。
そのまま、十日くらいで、意識はもどらぬま逝ってしまった。ただ、胸が静かに動いているだけだった。
不思議だった。
その頃、立花隆の『脳死』(中公文庫)を読んだ。

脳は大脳小脳脳幹の三層に分けられるが、呼吸や内蔵系の、生命維持に関わることは、脳の根幹が司っている。私の父はそこで出血が起きた。
ちなみに、植物人間というのは、小脳や脳幹は生きているから、自力呼吸ができるし、食物が体内に入れば胃腸は消化活動を始め、従って排泄もする。脳死とはそこが違う。

脳細胞は再生しないそうだ。幼児期の急激な発達が終わった段階で、人はそのできあがった脳細胞と一生付き合う事になる。
記憶が増える、あるいは思考能力が高まるのは、脳が成長するのではなく、脳内のネットワークが発達するからだ。
シナプスとかニューロンとかいわれているものが回路を形成し、その組み合わせを複雑化させていくのだ。

現在、脳のどの部分がどの様な働きをしているかが解明されてきているが、わかればわかる程かえって謎が深まる、ようだ。
たとえば、左脳の言語能力を司っている所に損傷が出たとしても、損傷前と変わらない能力が確認できる場合もあるという。そこでしていた活動が、どこか他の所に振り分けられるか、でなければ情報伝達系にバイパスが通る。そういう自己修復を、脳自身がやってしまう。
けれど、それは百%起きる訳ではなく、そういう作用が働き始めるまでの時間もはっきりしない。
サウ゛ァン症候群というのもある。
ある種の知的障害者が、時として特定の分野に信じられない才能を発揮する症状をいう。
二万年分のカレンダーを記憶し、問われた日付の曜日を間違う事なく言い当てたり、一読しただけの書物の中の任意の文章が、何ページに記載されていたかを瞬時に思い出したりする、そういう才能。

『四日間の奇蹟』に、このサウ゛ァン症候群といっていい知的障害者が登場している。
なんで二万年なんだ?とか思うが、この本にそう書いてあった。実は、今回のこの記述、かなりそこから引用してます。

ー3
28歳の頃、私は現代ぷろだくしょんで働いていた。
はだしのゲン・裸の大将放浪記・茗荷村見聞記・等 を監督した山田典吾氏が代表の映画製作会社だ。。
その監督の再婚相手の長女が知的障害者だった。

『四日間の奇蹟』、を読んで、彼女を思い出していた。
作者はそういう人を知っていると思えた。想像力だけで書けるとは思えない描写があるのだ。

監督亡き後、火砂子夫人がプロデューサー、監督も兼ねて、その娘を題材にアニメとして作品を作っているから、知っている方もいるかもしれない。
ちなみに、火砂子夫人はその長女出産の後、キリスト教に入信し、その縁で『賀川豊彦物語』を製作している。
まぁ、そんな様な訳で、
いろんな思いがわいてしまったわけです。

この小説はまちがいなく傑作だ。


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