往復書簡・映画館の話をしよう「映画館とトイレ②」(山口雅)
「映画館とトイレ」は、案外切っても切れない話題ですね。大浦さん、ありがとうございました!
刈谷日劇、あるいは新橋文化劇場の「スクリーン横にトイレ」は、私も初めて見た時はびっくりしました。上映中に行くのは多少勇気が要るものの、絶対に迷うことがなくて便利ですね。ミニシアターなど出入口が後方にある劇場はこっそり出られますが、シネコンは出入口が前にあるパターンが多いし、むしろスクリーンの真横というのはキッパリした潔さがあって良いです。
各映画館、トイレの場所や数もさまざま。私も「頻尿問題」は切実なので、上映前にはまずトイレです。
トイレがいっぱいある劇場は安心極まりないですが、複数位置にある場合もどのタイミングでどのトイレに行くか、常に考えざるを得ません。
特に女子トイレは渋滞しがち。映画の内容で男女比率も世代率も違ってくるし、混み具合も変わります。先日見たBTSジョングクの映画なんかは、個室の大行列はもちろん、鏡の前も大混雑でした。
上映中トイレに立たずに済むように、映画の前には水分を摂りすぎない、冷たいものは避ける、などいつも細心の注意を払っている私ですが、これを書いていて、ふと思いました。
そもそもなぜ私は、そんなにも上映中のトイレを恐れているのか?
・真剣に見ている他人の邪魔になるのがイヤ
・大事なシーンを見逃すのがイヤ
理由は、主にこの2つだと思うんですよね。
「邪魔になる」問題は、長尺ものなど心配な時にはたいてい端っこや後ろに座るので、本来それほど問題にならないはず。
「大事なシーンを見逃す」ことについては、よく考えてみるとアンタしょっちゅう映画館で寝てるじゃん!今さら何だ!と気が付きました(「映画館で寝ること」参照)
確かに上映中トイレに立つ人に対して「あなたがいない間に大事件が起きましたよ。あーあ、なんで見なかったの」と心の中でつぶやくことはあります。たった数分の間に、映画の中ではさまざまなことが進行している。見逃すのはもちろん惜しい。
でもそれより何より、私が上映中のトイレ中断を最も恐れている理由は、「白々しい外の世界に、唐突に引きずり出されること」ではないか? と思い至りました。
スクリーンのある暗闇を離れ、煌々とした明るいトイレやロビーへ出ると、そこでは普通の人の普通の状況が展開しています。当然ですね。さっきまでソウルの薄汚い路地裏やヨーロッパの水辺や荒廃した惑星にいた私は、照明に照らされた日常感あふれるトイレに向かう。談笑する人々の間を抜け、広告の貼られた個室に入り、洗面所で手を洗いながら鏡ごしに自分と目が合ったりもするのです。
エンドロールの余韻が用意されて徐々に心の準備ができる終演後の退場とは違い、トイレの場合は唐突に外へ放り出されて白々とした現実を突きつけられる、あの感じがつらいんですよね。
まあ放り出されるも何も、好きで出るんだからしゃあないですね。これからもできるかぎり鑑賞前の水分は控える所存です。
ということで、次回は大浦さんの「スコーレのトイレ大洪水事件」ですか? 早く聞きたーい。更新を楽しみにしています!