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往復書簡・映画館の話をしよう「2024映画館体験ベスト②」(大浦奈都子)

山口さん、「2024映画館体験ベスト」ありがとうございました。
シネマ・チュプキ・タバタさんのお話、素晴らしいですね!誰でも座れる席がいつも用意されている、まさに理想の映画館ではないですか。どの映画にも字幕、音声ガイダンスをスタッフさんが作っているのもすごい。わたしもずっとずっと行きたいと思っているのですが、なかなか叶っていません。今年中に伺いたいなぁ。

さてさて、わたしのベストをお話ししなければ。自分で話を振っておきながら、悩み苦しんでいます。「年間映画ベストテン」を決める時もそうなのですが・・・誰に発表するわけでもないのに毎度毎度、あれを外すなんて・・・と勝手に苦しみます。

甥との映画、吉祥寺プラザ、シネ・ヌーヴォ、スコーレでの出来事、そして・・・たくさんありますが、実は過去に書こうと思いつつもあまりに長くなってしまうため「またいつか」と自分に課した宿題のようなお話があります。今回それを提出させてください。

以前「旅先の映画館①」で、大学受験に合格した翌日、高校3年生のとき伊勢進富座に行った話を書きました。あれから15年。いつかいつかと思い続けてようやく昨年、伺えました。
(ここからのお話は、こちらを読んでいただかないと「???」なお話だと思いますので、未読の方は気が向いたら読んでみてください。)

始まりは去年の1月。好きな映画を語るように好きない映画館を語る活動を始めよう!と思い立ち、かつての映画館のことを思い返してちょくちょく調べていました。「子ども時代の映画館②」でも書きましたが、その時見つけたのが「岡崎グランド劇場」。劇場の景色が赤かった、という記憶が強烈こびりついた場所です。色々調べるうちエゴサーチをしていたら、こんなつぶやきを見つけました。

【進富座の豆知識】
座席は赤とグレーの2種類あるのですが、どちらも2004年に閉館した岡崎グランド劇場様からいただいたものです。お客さんや知り合いなどに設置するのを手伝ってもらいました。

進富座(公式)Xより

なんてこったい!
わたしが15年前に座った椅子は、子どもの頃見たあの赤い景色だったのです。なんたる偶然。これはもう、今年中に行くしかない!と思い立ち、ラインナップをチェック。ちょうど見逃したビクトル・エリセ監督の『瞳をとじて』が上映されます。日取りをきめ、その日を心待ちにしていました。

当日たどり着いた駅はどうやら15年前に降り立った駅ではないらしく、その景色に見覚えがありませんでした。Googleマップによるとすぐに辿り着くはずの映画館、方向音痴のわたしは案の定その才能を遺憾なく発揮し、大変な遠回りをしてついに、あの青い建物が見えたのです。

建物が近づくにつれあの日の記憶が甦り、ぐんぐんと現実に迫ってきます。
受付でチケットを買い、劇場内へ。
椅子が、確かに、赤い。
グレーと赤の2種類があり、赤い方に座りました。大変座り心地の良い、長く使われているとは思えないキレイな赤色。だけれど、岡崎から伊勢に引っ越してきたこの椅子に、一体どれだけの人が座ったのだろう。その人たちはどんな映画を観たのだろうか。

進富座は本館と別館、2つのスクリーンがあり、前回は本館、今回は別館での鑑賞。飲み物を買いに行こうとしたら、本館の方にある自販機に案内してくれ、そこからもう1つのスクリーンをちらりと見ることができました。そして、前回「高校生が来てくれるのは嬉しい」と言ってくれた、あのスタッフさんもいらっしゃいました。

この時点でもう、胸いっぱいです。これから映画をちゃんと見つめることができるだろうか。そわそわキョロキョロ落ち着きません。

しかし、座っていれば勝手に映画が始まってくれるのが映画館の良いところ。

15年ぶりに訪れた映画館の、20年ぶりに座る椅子。そしてビクトル・エリセの31年ぶりの新作には、ある記憶を巡るストーリーと、映画館で映画を上映することに対する確固たる信念が映っていました。感動の渦に巻き込まれながら、終電に乗るため急いで劇場を後に。

映画館には、それまで上映されてきた映画の記憶と、それを観た人たちの記憶が跡を残さずともこびりついている場所だと思います。そんなことを実感できた、わたしの2024映画館ベスト体験でした!

皆さんもぜひ、映画体験ベスト、考えてみてください!

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