THE PAINTED BIRD / 異端の鳥(2020年10月9日劇場公開)
この映画の目を背けたくなる数々の出来事は、東欧の近代史を踏まえてはいるようですが、もっと根源的な人間の本性についての考察を促します。
1970年に発表されたイェジー・コシンスキの『ペインテッド・バード』はヨーロッパの芸術家に大きな影響を与えてきました。
特に近年、EUの存在意義を問い直す作業が行われており、ヨーロッパのアイデンティティの真摯な模索において、この原作に触発されたアーティスト達による壁絵の展覧会がマーストリヒトで開かれました。
そして2019年ヴェネツィア国際映画祭で、『異端の鳥』が上映され大反響を得るというモーメントが訪れました。
少年の体に刻まれた傷を見せることでキリストの受難を想起させて、ヨーロッパにおける原罪への導きをテーマにしたのだと思います。
ハーヴェイ・カイテルが演じる神父が少年を預ける信者がペドフィリアであったりすることからも原罪告発のエピソードが矢継ぎ早に描かれます。
ステラン・スカルスガルドのドイツ軍老兵は一言も喋りません。悲惨な戦争に言葉を失っているかのようです。
ソ連軍と少年との関わりも東欧に暗い影を落とした歴史を体現させていました。
大きな殺戮と排除の嵐が吹き荒れた東ヨーロッパをイノセンスを象徴する少年を通して描くという試みは、モノクロに美しく統一された美意識の下で、これ以上ない芸術的な極みに到達しました。
その意味では、「僕は、生きて、家に帰る」というキャッチフレーズは映画の内容を少しも表現できていないと言わざるを得ません。
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