
海の上のピアニスト4Kデジタル修復版&イタリア完全版(2020年8月21日劇場公開)
4Kデジタル修復版&イタリア完全版の両方を見比べました、画像の質の違いではなく編集の違いについて書きます。
結論から言うと「イタリア完全版」の方が断然オススメです。ナインティーンハンドレッドと親友マックスの心情が手に取るように分かる、いわばディレクターズカット版です。
イタリア完全版ですから当然タイトルもイタリア語 La leggenda del pianista sull'oceano つまり日本語のタイトルはこのイタリア語の一部直訳です。全訳すると「海の上のピアニストの伝説」です。
自由の女神を見つけて、歓喜に沸く乗船客の様子に重ねてキャストやスタッフの字幕が映し出されます。その分の尺をたっぷりとってあるので映画への導入としての感情の昂りが演出されています。
4Kデジタル修復版では駆け足だった、5歳と8歳のナインティーンハンドレッドの新エピソードが4つ追加されています。①ダニーが子守唄を歌うシーン。②ドイツ人船医の名前を尋ねるシーン。③ケーキを盗んで船長に見つかるシーン。④誘拐された子供が船内にいるという通報で警官たちが船内を捜索するシーン。これらのシーンがあると無いとでは船の中で育ったというリアリティの醸造が格段に違うと思います。
ある乗客が「アメリカ!」というシーンもより多く追加されています。この前半部分にイタリア完全版から削られたシーンが多いのは成人になってからのナインティーンハンドレッドの活躍に早く観客を巻き込みたかったプロデューサーの意向でしょうね。
ピアノが船の揺れに合わせて踊るシーンも、たっぷりと楽しむことが出来ました。この映画のリズムが170分を必要としていたのです。
それからなんと言っても中盤からの演奏シーンです。4Kデジタル修復版では演奏時間が短いと感じましたが、イタリア完全版での長い演奏シーンを見て余韻が全く違うことに気づきました。
ピアノ演奏対決はどちらのヴァージョンも同じ尺だと思います。ここはいちばんの見せ場ですからね。
この映画はアレッサンドロ・バリッコの独白劇『ノヴェチェント』が原案です。その劇の中でのクライマックスでもある下船のシーンは映画後半の見せ場。様々なアングルからのカットを駆使してのジュゼッペ・トルナトーレの演出が冴え渡っっています。
そしてこれもジュゼッペ・トルナトーレ演出の真骨頂と言える、少女とのシーン。
最後のマックスとの会話シーンまで、後半の印象は両ヴァージョンともそれほど違いはありません。
ここで大切なのは音楽を司る芸術家としてのナインティーンハンドレッドの考え方をどう理解するのかということです。映画はそのテーマに向かって導かれているからです。
マックスにその想いの丈をぶつける、ナインティーンハンドレッドのスイサイダルな思考は凡人には理解しがたいでしょう。でも音楽家の端くれのマックスには理解が出来たのです。
最後に色んな会話シーンもイタリア完全版は1.5倍になっている感じです。特にマックスと楽器店の店主との会話は物語の推進に大きな役割を果たしています。
1999年の初公開から20年の時を経て、ようやく本物の『海の上のピアニスト』を観ることが出来ました。
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