THE SPECIALIST / スペシャリスト 自覚なき殺戮者(2000年2月5日劇場公開)
ナチスの残党が飛行ザメ戦闘機で人々を襲う映画を観て、映画にとってナチスとは?と思い始めたタイミングで出町座でリバイバル公開されていました。
いわゆる1961年4月11日に始まった「アイヒマン裁判」のドキュメンタリー。エイアル・シヴァン監督はハンナ・アーレントの『エルサレムのアイヒマン──悪の陳腐さについての報告』を下敷きにしています。ハンナ・アーレントによるこの裁判記録に関する映画も作られています。
またアイヒマンはアルゼンチンで逃亡生活を送っていたのですが、モサド(イスラエル諜報特務庁)により1961年に拘束されます。その時の様子も映画化されています。
このドキュメンタリーの日本公開時のポスター。
『ゼイリブ』ですよね。宇宙人か悪魔が人間を装っているとしか思えない、ホロコーストが人智を超えた悪魔の所業という認識故のヴィジュアル。
裁判記録で淡々と証言をするその男アイヒマンは、理路整然と「私は上司の命令に従い、任務を果たしただけ」という主張を繰り返すのです。
ホロコーストのことを「人類史上最大の犯罪」とまで自ら客観視して述べるアイヒマンに「悪の凡庸さ」を多くの人が気味悪く感じているからこそ、フィクション映画においてナチスは徹底的に非凡庸な悪として描かれているのだとわかります。
トム・ウェイツの『ロシアン・ダンス』の終わらない歌をエンドロールに持ってくるしかアイヒマンの凡庸さには対抗し得ない作り手の諦めにも似た絶望感覚が伝わります。
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