BLACK BOX DIARIES / ブラック・ボックス・ダイアリーズ
凄いドキュメンタリーでした。伊藤詩織の一人三役。つまり性加害被害者、そのことについて本を書くジャーナリスト、そして本作の監督。普通の人はこんな重たい三つの役割を担うことは到底できません。実際劇中、心が崩壊寸前の場面すらあります。でもそれを冷徹に捉えているカメラがあります。それを編集で使う監督、伊藤詩織がいます。
映画は例の事件を扱った『ブラック・ボックス』を出版するまでの記録とその後の民事裁判の行方を追うというドキュメンタリーとしてはオーソドックスな作り。自分自身のドキュメンタリーだからどういう自分の姿を選べば面白いかよくわかっています。他人では絶対に撮れないというショットが数多くあります。
かと思えば、桜、銀杏、東京のビル群などの映像を巧みに使い、時にメタファーで心情を表現したり、本当に初監督作なの?と疑うほど上手です。ここまで自分と自分に起こった出来事を俯瞰して表現することはとても難しいのにそれを軽々とやってのけている印象です。
これはアカデミー賞長編ドキュメンタリーにノミネートされても全く不思議ではありません。世界レベルの作品。ドキュメンタリストとして相当な実力があります。それだけこの事件への強い思いがあるのだし、ジャーナリストとしての矜持なんでしょう。そして特筆すべきはあのDとの電話の場面。参りました。
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