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ゴーマニズム宣言SPECIALコロナ論

2020年8月20日、つまり今日発売。この本を取り上げるだけで多くのフォロワーを失うかもしれませんが、そのリスクを負ってでも紹介すべき本だと思います。

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小林よしのりが誤解されやすいのはその決定的な物言いだと思います。独善的な主張を漫画家特有の明解過ぎるロジックで武装するので生理的に受け付けない人が多いのだと思います。

本書の第1章から第9章までは、『週刊S P A!』の連載漫画の転載なので近視的な視点の章立てです。主張の深堀は第10章から最終章に至る描き下ろし部分にまとめられています。

第10章お辞儀と清潔感の脅威第11章世界各国のコロナ対策事情については最終章へ至る論旨の客観的事実の分析です。

第12章ウイルスとは進化の鍵だ において、ヒトのゲノムの塩基配列の生成における遺伝子による情報伝達を「垂直移動」と「水平移動」に分けてウイルスが「水平移動」に果たす役割を論じています。

第13章インカ帝国の滅亡とウイルス では、インカ帝国滅亡時に疫病が深く関係していたことを説明。「ヨーロッパからの移住者たちが持ち込んだ疫病は彼らが移住地域を拡大するより速く南北アメリカ大陸の先住民に広まり、コロンブスの「大陸発見」以前の人口の95%を葬り去ったという。」という説を挙げ、グローバリズムが内包する脅威を論じています。

第14章クローバリズムと権威主義の失墜 で自由を脅かされる危機を訴え、日本が採るべき道として「集団免疫」の獲得を目指すという持論を展開します。ここは議論が分かれるところですが、日本は新コロの侵入に対して、4つの防壁を持っているという論には説得力があります。

第15章自由よりお上に従う日本人 において、日本人に向けて「自由」の価値を説く必要性を感じている著者の切実な願いにも似た論を展開していますが、どこか諦めている感じもします。

最終章経済の方が命より重い で実に明晰に論旨を組み立てています。カミュの著作から起論するのですが『ペスト』ではなく『シーシュポスの神話』を引用します。

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この書におけるカミュの主張を労働に対するキリスト教的感覚への反抗と位置付けます。その際サルトルとの論争にも敷衍しています。

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共産主義の原型として、トマス・モアの『ユートピア』にも触れ、

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資本主義の誕生にも解説を加え、

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ソルジェニーツインの『イワン・デニーソヴィッチの一日』をカミュの不条理感覚に結びつけて「衝撃的な感慨」と語ります。

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「経済」の語源「経世済民」を思想の拠り所にした渋沢栄一を取り上げてこの章で「経済の方が命よりも重い」と説くのです。

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どうでしょうか?「コロナ」を論じるのに丁寧な論旨の組み立てだと思います。

本書を読んで、ドラスティックに生活様式を変容させるつもりはありませんが、ある種のパースペクティブは得られました。それはこの不安なコロナの時代には大切なことだと思います。


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