ASSASSINS / わたしは金正男[キム・ジョンナム]を殺してない(2020年10月10日劇場公開)
なんという事件でしょう。こんな背景でこんな結末になっていたとは。
無実の切実な叫びの様な邦題が響きます。
アメリカ本国のポスターはもっと過激です。
今の時代、どこにでもカメラがありますから、あの暗殺事件のその時の様子が克明に監視カメラに記録されています。
LOLは爆笑という意味。その長袖Tシャツを着てイタズラ動画を撮ると言って騙された容疑者の1人が太った男(=金正男)に後ろから近づき目を両手で塞ぎます。
金正男がその直後、空港の警備員に助けを求める様子が映っています。その後空港内で死亡します。塞がれた手に猛毒VXが塗ってあったからです。
実行犯容疑者の1人がドアン(下の写真の右)。ベトナム出身。
もう1人はシティ(上の写真の左)。インドネシア出身です。その後の裁判で出身国の違いが大きく2人の運命に作用します。
戦慄するしかない事件です。チェスのポーンの様な役回りを演じさせられた2人に罪はないことは明らかですが、何も知らずに実行犯に仕立て上げられ、国際政治のスケープゴートにされてしまうのです。
ライアン・ホワイト監督によるこのドキュメンタリーは、国家の壁の前では個人など小さな卵の様な存在である(村上春樹による比喩)ことを如実に示しています。要人暗殺がこれだけ公然と行われ、北朝鮮の工作員は誰も罰せられていません。その事実に心底恐怖を感じました。