石川県珠洲市でのこと
昨年11月、映画『ひとしずく』の石川県七尾市上映を終えた後、七尾市の方から「ここまで来たなら被災地の現状を見ておいた方がいい」と言われ、珠洲市に足を運ぶことにしました。
七尾市から車で北上すること約1時間、輪島方面と珠洲方面に別れる分岐点にコンビニがありました。道中ほとんど1本道のような感じで実際の移動時間以上に体感時間が長く感じられました。タイミングによるのかもしれませんが、すれ違う車の多くはトラックや廃棄物業者、自衛隊の車両でした。さらに40分ほど走り珠洲市に入ると水害や地震の被害が見えるようになり、そうこうしているうちに道の駅すずなりへ着きました。
今回は特にアポもなく誰かに会う予定もない急な訪問だったので、せめてものという気持ちで地元の方による復興ステッカーや様々なお土産品を購入しました。
その後珠洲市内を走ってみると、公費解体中の家屋や解体後の空き地が点在する住宅街、傾いてしまった電柱や電線、地震の地割れにより大きな段差が残る道路など、地震の爪痕が至るところに見られました。外観は大きな損傷がないのに「危険」と書かれた紙が貼られている建物や、瓦が落ちて大きく崩れてしまった古民家などもあり言葉を失いました。
どれも人生で初めて見る光景で、特に重機があちこちで同時に家屋を解体している様子は衝撃的でした。密集した住宅街にぽつぽつ現れる空き地を目にする度に、そこに暮らしていた方々の存在がよぎり胸が痛みました。
私はどうしてもその光景にカメラを向ける気になれませんでした。
もし撮るなら相当な覚悟で向き合わなければいけないと直感したからです。写真や映像を生業としている人間ならば何かしら撮るべきところだったかもしれませんが、簡単に撮れるものではありませんでした。私は本記事のサムネイル画像になっている道の駅すずなりの外観を1枚だけ撮り、珠洲市役所へ向かいました。
珠洲市役所では珠洲市の地域おこし協力隊の方や協力隊担当職員の方にご挨拶し、短い時間ですがお話を伺いました。金銭的な支援はできませんが、映画『ひとしずく』や映像を通じて何かお力になれることがあれば遠慮なく声をかけてくださいとお伝えしたものの、自分自身の無力さを痛感しました。
その後は地域おこし協力隊経験者の方が主体的に運営されている銭湯に立ち寄ろうかと思いましたがお休みだったので断念し、珠洲市で映画館を再興させようとされている方を訪ねてから帰路に着きました。
今回はボランティア活動のために伺ったわけではなかったこともあり後ろめたさを感じた部分はあります。ただ、写真には残さずとも自分の目に現状を焼き付けられたことには大きな意義があったと思います。なかなか言葉でうまく表せられませんが、この体験を決して忘れないようにしたいと思います。
最後になりましたが、地震の被害に遭われた方々に心よりお見舞い申し上げます。
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このnoteは映画監督山下大裕が私自身の活動を応援してくださる方に向けて日々感じたことや頭の中で考えていることなどを発信しているものです。他のSNSでの投稿よりも私的な内容が多くなりますがそちらも含めてお楽しみいただければ幸いです。
山下大裕