1分の動画編集になぜ数十時間もかかるのか
私は2015年に個人事業を開業してから10年近く映像の仕事で食べています。
映画制作はスタッフを伴って行いますが、普段の一般的な映像制作の仕事においては荷運びやサポートでアシスタントを呼ぶことはあっても、技術面はほぼ全てワンオペでこなしています。
よって、一人で企画・撮影・録音・編集・納品までを行うという形になります。
どれも大変な作業ではあるのですが、特に大変なのは編集です。私的には撮影よりも大変だと感じています。
撮影は撮影で、被写体の方やクライアントさん、その関係者の方々とのコミュニケーションがあったりするので会う人の数は多いのですが、時間が決まっていて長くても1日~数日以内で終わることがほとんどです。
対して編集は無限です。終わりがないのです。
カット順を決めたりカットの長さを決めるような、いわゆる編集作業に入るまでの作業も実はひと手間かかります。
動画編集は、撮影した素材を取り込み、バックアップを作成し、素材を整理してからタイムラインに並べ音声と同期させるところから始まります。この作業を抜きにしていきなり本編の編集作業に入ることはありません。
そして素材の準備が整ってからようやく編集作業に入るのですが、ここからは無限です。そしてこの間は基本的に人を介すことがないのでほぼ自分との闘いです。使えるカットを絞り、ざっくり粗めの編集をするまでに一苦労、クライアントさんに共有し現時点での修正指示を受けてから、ガッツリ編集に入ります。そしてカット編集(使用する映像カットの確定)が終わってからクライアントさんに再度確認し、OKが出てから色や音の編集仕上げに入り、完成に向かうといった形です。1分の動画でもしっかりしたものを作ろうと思うと数十時間はかかります。
また全てのクライアントさんが映像に詳しい訳ではないので、お任せに近い場合も往々にしてあります。その場合は確認も最小限にし、自分の判断で前に進めていきます。
動画編集は数学のようにはっきりとした答えはありません。だからこそ面白いのですが、だからこそ大変でもあります。多数の選択肢の中でベストなものを決めるにはかなりの労力を要します。
例えば、あるカットを使う時にどのカットを選ぶのかもそうですし、素材の何秒から何秒までを使うのか、引きを使うのか寄りを使うのか、寄りを使うにしてもどのぐらいの寄りを使うのか、など選択肢が無限にあります。
そしてカット順も無限にパターンがあります。引きから寄りを使うのか、寄りから引きを使うのか、左から右にカメラを振ったものを使うのか、右から左にカメラを振ったものを使うのか、そのカメラを振る動きが早いものを使うのか遅いものを使うのか、上に振ったものか下に振ったものか、斜めに振ったものか、その斜めの向きはどうなのか・・・など無限にあります。
そして色や音を調整するにしても、それぞれの項目の数値が仮に1~100まであれば、1にするのか、35にするのか、83にするのか、100にするのかなど、無限にあります。全ての数値や項目を意識的に決めるというよりも、映像を再生して、その時の見ための感覚で決めることも多いのですがとにかく時間がかかります。時間しかかかりません。そして同じ素材を無限に見続ける忍耐力も必要です。
動画の素材を他の誰よりも見ているのは、クライアントさんでも被写体の方でもなく動画編集者です。私も思考が煮詰まった時は休みますが、基本的には仕上がるまで毎日見続けます。飽きるとか飽きないではなく、何があろうと仕上がるまで見続けるのです。無理な人には無理な仕事だと思います。
ということで今日は、撮影よりも動画編集の方が圧倒的に時間がかかり、いろいろな意味で大変だということを書いてみました。時に「クーラーの効いた部屋でちょちょっとやれるんでしょ」「パソコン作業だけで羨ましい」などと言われることがあります。それが全然ちょちょっとじゃないんですよ!
ちなみに私が監督した映画『ひとしずく』の編集作業は、ほぼ毎日作業を続け完成まで半年ほどかかりました。編集を終え、忍耐力が格段にアップしました。まだ観ていない方は是非どこかでご覧ください!
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このnoteは映画監督山下大裕が私自身の活動を応援してくださる方に向けて日々感じたことや頭の中で考えていることなどを発信しているものです。他のSNSでの投稿よりも私的な内容が多くなりますがそちらも含めてお楽しみいただければ幸いです。
山下大裕