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「君が売れたら応援するよ」と言われた日のこと
あれからもう何年も経ちますが今でも忘れられないエピソードがあります。
当時、私は映画『ひとしずく』制作費の協賛をお願いするため、様々な人を紹介してもらっては自ら出向きプロジェクト概要を説明するいわゆる企業回りをしていました。
具体的な名前は差し控えますが、ある日、知り合いの伝手で紹介された地元にゆかりがあり数億の資産を持つ某企業の会長を紹介され、「会って話をしてきなさい」とのことだったのでアポイントを取り、車を2時間走らせ鹿児島市内にある本社に伺いました。
そして映画制作に関する資料を手にプロジェクトの概要をご説明し、地元をPRする作品に1口でも良いのでご協賛を検討していただけないでしょうかとお願いしたのですが、会長の口から出た言葉は、
「君が売れたら応援するよ」
それだけでした。
もちろん1口の協賛もいただくことはできませんでした。
あまりに悔しくて今でもその声色まで覚えています。
お話を聞いてくださるだけありがたいということは頭では分かっているのですが、面と向かってそう切り捨てられるととても悔しく、叫びたい気分になりました。
「売れてから応援するなんてズルくないですか!?」
「売れていない今、今だからこそ応援してほしいんですよ!」
「そもそもこのプロジェクト、魅力ないですか?」
「若い人を応援したいというのは本当ですか?」
「売れてから手のひら返されてもこちらから願い下げですよ!」
なんてことを思うも、私が逆ギレするのはそもそもおかしいので、持参した菓子折りを渡し泣く泣く返ってきました。1口の協賛をいただくどころか交通費と菓子折りで数千円を失いただ自信を喪失するだけの1日となりました。
誤解されないよう補足しておくと、私が傷ついた理由は協賛をいただけなかったからではありません。
「(協賛など)そういうことはやっていない」とか「応援したいけどうちも余裕がない」といった理由であれば納得していました。
ただ、断りの理由が売れてないからということだったのがものすごく悔しかったのです。世の中やビジネスにおいてはそれが当たり前であることは頭では分かっていました。しかし当時の私自身は受け入れることができませんでした。
そして同時にこう思いました。
もし今後自分が事業なり映画なりで成功する日が来たとして、自分のもとを訪ねてきた若者がいた時は絶対にそんな対応はしないようにしよう。少なくとも「君が売れたら応援する」などという言葉は絶対に口にしないでおこうと。
その企業の方とは以降接点はないのでおそらく全く記憶に残っていないと思いますが、私は一生忘れられない記憶として今でも鮮明に残っています。
新海誠監督の映画『君の名は。』が大ヒットしたあとに作られた次回作『天気の子』は前作の比ではないほどスポンサーがつき、作品の中の小道具もスポンサーのタイアップ商品ばかりで嫌気がさしましたが、世の中ってやっぱりそういうものなのでしょうか。
ということで、その後も悔しさをバネにあがいている山下大裕でした。
当然ながら協賛となると企業さんにフラれることの方が多いのですが、映画『ひとしずく』に協賛いただいた本当に恩人のような企業さんもありますので、ほっこり温まるエピソードはまたいつかご紹介したいと思います。
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このnoteは映画監督山下大裕が私自身の活動を応援してくださる方に向けて日々感じたことや頭の中で考えていることなどを発信しているものです。他のSNSでの投稿よりも私的な内容が多くなりますがそちらも含めてお楽しみいただければ幸いです。
山下大裕
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