「『HOUSE ハウス』で夫婦の絆が深まったんです!」 無反省炎上系配信者が地獄の家で悪霊と壮絶な死闘を繰り広げる『デッドストリーム』が公開間近。ヴァネッサ&ジョゼフ・ウィンター監督がホラー愛を語り、ティーチインで若者たちに導きを与えた
タイトル写真 『デッドストリーム』より
取材・文:後藤健児
近年、『女神の継承』など再び盛り上がりを見せるPOVホラー。最近は動画配信者を主人公にしたものも増えており、8月16日より公開される『デッドストリーム』もその一本。炎上系配信者が幽霊屋敷で過ごす阿鼻叫喚の一夜を描く、80年代特殊メイクホラー愛にあふれた楽しい映画だ。今回、日本公開を記念し、監督とプロデューサーが、映像制作を学ぶ若者たちとオンラインティーチインを行うイベントが企画され、8月7日に東京・代々木のBROADWAY DINERで実施された。
悪名は無名にまさるを体現するかのように迷惑動画を連発して注目を集める浅ましき配信者、ショーン。しかし、調子に乗った日々は続かず、とあるしくじりによりスポンサーを失ってしまう。起死回生を図るショーンは、最恐物件として名高い幽霊屋敷で一晩を過ごす配信番組を計画。はじめはいつもの軽いノリで屋敷にまつわる呪いをレポートしていき、配信の視聴数が上がり続けることを喜ぶショーン。だが、冗談半分で未知への扉を開いてしまったことから、肝試しスポットは魑魅魍魎が襲いくる地獄の家に変貌。果たしてショーンはEVIL DEADたちの巣くう魔界から生還し、インフルエンサーとして返り咲けるのか?
監督は主人公ショーンを演じてもいるジョセフ・ウィンターと、ヴァネッサ・ウィンターの夫妻。2022年のオムニバス映画『V/H/S/99』の一本「To Hell and Back」でも撮影者が悪魔と対峙するPOVホラーを手掛け、今回は満を持しての長編POVで勝負に出た。オンラインで登壇したヴァネッサが作品の成り立ちを語る。「まずは少人数のクルーで制作したいと思いました。二人ともホラー映画が大好きだったので、ホラーにしようと決めていました。最初にジョセフが想起したアイデアは、ビビり屋な主人公が、幽霊屋敷に閉じ込められてしまうというお話。大好きなファウンド・フッテージ映画『REC:レック』シリーズが持つ勢いが好きで、本作も観ている人が息もつけないように、リアルタイムに展開し続ける作品にしたかった」と名作POVホラーの名を挙げながらコメント。
ジョセフは「実用的な観点からファウンド・フッテージというジャンルを戦略的に選びました」と話す。続けて、「ただ実際に脚本を書き始めたり、ブレインストーミングを始めたとき、複数のカメラ・カットが必要なことに気づき、どんどん複雑になっていったので当初の想像よりも大変な撮影となりました。(プロデューサーの)ジャレッドが加わったおかげで、この作品を撮るための技術をたくさん発明できました。ファウンド・フッテージのジャンル自体は飽和状態だと思っていたので何か新しいものを作るために、カメラを複数台使うこと、それにリアルタイムで撮影中の映像を編集しているデバイスを登場させることで、『デッドストリーム』らしさを出したいなと考えました」と狙いを語った。
複数のカメラによる撮影は想定以上に大変だったようで、プロデューサーのジャレッド・クックが当時を振り返る。「カメラの台数は一番多くて7台。そのうち3台は暗視カメラになっていて廊下や部屋を撮影しました。主人公には3台、そのうち顔が映るものを1台、ヘッドセットを2台使用しました。実は真夏の撮影だったので、暑さでバッテリーがはがれやすかったり、ヘッドセットに付けているバッテリーが頭を激しく動かすと飛んでいってしまったりというハプニングもあり、気をつけないといけませんでした」と苦労を口にした。しかし、数々のトラブルも監督夫妻と共に解決していき、その時間はとても充実したものだったという。「問題解決の作業を監督夫妻と一緒に行うことが楽しかったです」とジャレッドは語った。
幼少時のジョセフがマイケル・ジャクソンのPV『スリラー』とそのメイキングを観て、特殊メイクや映画づくりに憧れを抱いていったエピソードも明かされ、そこから話は80年代懐かしホラーへと。「『死霊のはらわた』シリーズが好きです。『ガバリン』シリーズも大好きで、『ガバリン』を観たことがある方は、本作を観ていただくと影響を受けているなと見て取れると思います」と『ガバリン』を強く推す一幕も。
続いてティーチインタイム。MVやCMの制作に携わる質問者からはファウンド・フッテージものとホラーの相性、配信と視聴者の関係についての質問が投げかけられる。ジョセフがテーマに絡めて回答した。「ポスプロ段階になって本作のテーマはなんだろうと深く考えるようになりました。最初はただこの時代にあったエンターテインメントを作りたい!という気持ちがとても強かったですし、生配信・リアルタイムにこだわっていました。そういった映像を自分たちは見たことがなかったので、他の人に先にやられる前に早く作らないと!と考えていました」と熱っぽく語る。
ヴェネッサは「たくさんの人に承認を求める主人公を断罪することは簡単ですが、アーティストであれば彼の必死さはわかるところもあるなと思います。自分たちの作るものを見てほしいという想いが間違いなくそこにはあって、 そこは重要なポイントとして感じていました」と動画配信者の業の深さに言及した。
続けて、撮影中に一番盛り上がったシーンについて問われたジョセフは「みんなで盛り上がったり喜んだりするときは特別な瞬間が撮れたあとです。ひとつ例に挙げるなら指の切断シーン。このシーンは失敗しうることが全部起きたんです。フレームアウトしていたり、 指から血が出ないなど上手くいかないことばかりが続き、やっと撮影が終わって次のシーンの撮影で2階に上がるときに、主人公は”つながり”でGoProをしないといけないのに、装着せずに撮影していたことに気づき撮り直しになりました。最終的にはなんとか形となり、その瞬間はとてもうれしかったです」と撮影時を思い返す。
気になる次回作の構想について、ジャレッドは「この二人のためならなんでもしたいです! 実は映画学校時代の仲間なんです。卒業後お互いに編集や撮影を頼んだりなんてことはありましたが、ここまでがっつり一緒に仕事をしたのは初めてでした。阿吽の呼吸が僕らの間にはありますし、僕からすると二人はホラーやコメディなどタイミングを含めて、素晴らしいストーリーテラーであるところに学びがありました。どんな作品でも一緒にやりたいと思っています」と意気込んだ。
筆者にも質問が回されたため、ショーンのキャラクターづくりについてうかがった。はじめは嫌われ役として登場するが、彼なりの映像制作への矜持を見せつけられた観客は最終的にショーンを応援し、愛着すら持ったであろう。そのバランス感覚はどのように構築していったのか。ヴァネッサが回答してくれた。「インフルエンサーを調査するところから始めました。最初に脚本を書いているときに欠けている部分に気づいたんですが、それは彼らのイラっとする部分。イラっとするけど、ファンにとっては魅力的な部分。なんでこの人たちはこんなに好かれているんだろうと。彼らのブログなどを見ていく中で、そのパフォーマンスを分析していきました。バランスが取れているかは正直ずっと怖く感じていました。そのためにやったのがリハーサル。リハーサルで様子を見ながら調整し、あとは編集を重ねる中でショーンのキャラクターが見えてきました」と試行錯誤の末、やんちゃで魅力的なキャラクターが生み出されたことを明かした。
最後に、好きな日本のホラーについてうかがうと、大林宣彦監督『HOUSE ハウス』の名が挙がった。なんと、監督夫妻の絆が深まったのは『HOUSE ハウス』のおかげだという。そんないいエピソードが聞けたところでティーチインは終了。締めのあいさつをしたジョセフが、各国では配信リリースが多い本作の数少ない劇場公開国である日本への感謝の言葉を述べ、若者たちは拍手で応えた。【本文敬称略】
『デッドストリーム』は、2024年8月16日(金)より、東京・新宿シネマカリテ他全国順次公開。
監督・脚本:ヴァネッサ&ジョゼフ・ウィンター
出演:ジョゼフ・ウィンター、メラニー・ストーン
配給:S・D・P
2022年/アメリカ/カラー/1.78:1/5.1chデジタル/87分/英語
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