トロマの総帥ロイド・カフウマンも太鼓判を押す宇賀那健一監督の『悪魔がはらわたでいけにえで私』が公開。独創的すぎるウルトラバイオレントなデモニッシュコメディ世界の住人を詩歩や野村啓介が血まみれで楽しく演じた!
タイトル写真:『悪魔がはらわたでいけにえで私』より
取材・文:後藤健児
宇賀那健一監督の最新作『悪魔がはらわたでいけにえで私』がエクストリーム配給により、2月23日から全国で公開中だ。2月24日、東京・シネマート新宿での上映後、主演の詩歩、共演の野村啓介、そして宇賀那監督が登壇。映画のジャンルと観る者の常識を軽く粉砕するカオスな映画の血まみれで楽しい撮影現場を振り返った。
ハルカ、ナナ、タカノリの仲良し三人組は、連絡が途絶えた友人のソウタが住む家を訪れる。その家は窓ガラス一面に新聞紙が貼られ、まるで何かの結界を思わせた。出迎えたソウタは心ここにあらずで、魂を失ったかのよう。ソウタと室内の異様な雰囲気にハルカたちが動揺する中、何かに導かれたナナが部屋の奥に足を踏み入れ、貼られていた護符のような札を剥がしてしまう。その行為が別世界への扉を開くことになろうとは知らずに……。
”異物”としか形容できない不可思議な物体が入り込んだ日常を、独特のテイストで描く『異物』シリーズなどで知られる宇賀那健一監督。彼の短編『往訪』は凄惨なバイオレンス描写とオフビートな笑い、それにキッチュさがない交ぜになったデモニッシュコメディの傑作だった。2021年のLA Shorts International Film Festivalでワールドプレミアとなり、その後も世界各国の映画祭で話題を呼んだこの短編に新たな登場人物と拡大した展開を加えて長編化したのが『悪魔がはらわたでいけにえで私』だ。
『魔法少年☆ワイルドバージン』の詩歩が主演を務め、永井豪チックな悪魔人間のキャラクターをたっぷりの血のりを浴びながら演じた(両腕にチェーンソーを装備する”極道兵器”具合には石川賢テイストも)。人間側の代表として終始オロオロする音楽プロデューサーのコウスケ役に、現在公開中の『復讐のワサビ』(こちらも相当にカオスな映画だ)でも助演ぶりが光っていた野村啓介。そして、トロマの総帥ロイド・カウフマン御大が、悪魔と人間の抗争により世界が滅亡していく状況をハイテンションで告げるリポーター役で特別出演。千葉が舞台の一見ローカルな映画をワールドワイドのスケールに押し上げた。
観客からの拍手で迎えられた、詩歩、野村、宇賀那監督の三人。はじめに口を開いた宇賀那は「めちゃめちゃたくさんのお客さんたちにこんなヘンな映画を観に来ていただいて、本当にありがとうございます」と世間がアカデミー賞のノミネート作品に沸き立つ中、本作を選んでくれたことに感謝した。
撮影中のエピソードについて、特殊メイクや血のりがふんだんに使われる撮影には困難なことも多かったという。詩歩は「衣装が汚れてしまうから、何回もテイクを重ねられなかったので緊張感はあったんですけど、現場は和気あいあいとしていました」と振り返り、宇賀那も「モニターを見て、笑いながらカットをかけるだけだった」とコメント。壇上での両者の和やかなやりとりからも、監督とキャストたちとのコミュニケーションが円滑に図られていたことがうかがえた。
アナログでの作りにはこだわったそうで、両手が塞がるダブルチェーンソーの主人公を演じた詩歩や、腸が始終はみ出している悪魔役など、後付けのCGではないリアルな造型に役者陣は奮闘した。スタッフも最小人数だったといい、野村は「特殊メイクはいるけど、ヘアメイクがいなかったので、毎日、自分でリーゼントを作っていました」と劇中で悪魔のツノにも負けていなかったリーゼントヘアは自身の手によるものだったことを説明。野村は亀甲縛りで拘束されるシーンにもチャレンジしたが、そこの撮影に際してはプロの緊縛師に依頼をしており、宇賀那から「美術部はいないけど、緊縛師はいました」と少ない予算の中でのこだわりポイントが明かされ、観客を笑わせた。
司会者から登壇者たちに、もし自分が他の役でこの映画に出演するなら?と質問が投げかけらける。宇賀那は「ゾンビ映画は撮ってますけど、自分でも演じてみたいなと。今回は『エクソシスト』や『死霊のはらわた』とかそっち系だったので、『サンゲリア』みたいな腐敗しきったゾンビを」と腐敗系アンデッドに化けることを希望した。
詩歩は、あらためて主人公のハルカ役が楽しかったと語り、この役が詩歩をアテ書きしたものだったことが明かされる。「『グレムリン 2 - 新・種・誕・生 -』を観といてねと(宇賀那監督から)言われたので、これをやればいいんだと。『グレムリン2』はほぼ、わたしが出てるようなもの(笑)」と冗談めかす。ちなみに詩歩が演じてみたい他の役は、異形の犬を飼う淑女の悪魔役だとか。
野村は「ゾンビとか特殊メイクをされる側に憧れています」と言い、「(悪魔役の)皆が”ギャギャギャギャ”と言ってるのが楽しそうすぎて」と数少ない人間役だったことの寂しさを思い出していた。悪魔役に囲まれての撮影には大変さもあったという。悪魔チームは皆、完璧に意思疎通できていたが、野村は悪魔語の台詞終わりがわからないため、「(自分の入る)きっかけが全然わからなかった」とこぼす一幕も。
ここでスペシャルゲストとして、ロイド・カウフマン御大の登場!……とは残念ながら実現せず(来日予定ではあったが体調面の事情によりキャンセルに)、代わりにビデオメッセージが流された。「コンニチハ! トモダチ!」とテンション高めの日本語で挨拶をするカウフマン。『悪魔の毒々モンスター』(1984)が松竹富士の配給で1987年に日本公開されてからの『カブキマン』を含めた日本との長きに渡る縁に感謝しつつ、期待を寄せる宇賀那を称賛。最後は「トテモ、スバラシイ!」とまたも日本語で『悪魔がはらわたでいけにえで私』をたたえた。
最後は、登壇者から観客に向かってひとりずつ挨拶。詩歩は「日常でしんどいことがあっても、脳みそを空っぽにして観ているときだけは忘れられるような映画を作りたいね、から始まっております。何回でも観てください!」と強くアピール。
野村は「この映画を作って、絶対に面白い映画だと信じてきましたけど、今日こんなにお客さんが来てくれるまで、ずっと不安でした。面白い映画を作れたんだという自信をいただきました。本当にありがとうございます」と深い感謝の気持ちを伝えた。
そして、宇賀那が締める。「僕だけじゃなく、スタッフ、キャスト皆がこうやったらいいんじゃないかと話し合い、やりたいことをやりきったのがこの映画です。すごく小さい映画なので、皆さんの力によってこれからの動員も変わってくると思います。面白かったでもなんでもいいので、感想などを書いていただけたらうれしいです」と劇中で世界中が悪魔化していったように、この悪魔映画もまた、観客の力で広がることを願った。
『悪魔がはらわたでいけにえで私』は、エクストリーム配給にて2月23日よりヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、シネマート新宿他、全国公開中。
また、2月21日より発売中の月刊「映画秘宝」4月号に、筆者が詩歩にインタビューを行った記事が掲載されている。『悪魔のいけにえ』と『死霊のはらわた』のどちらかが好きであるかや、メジャーとインディーズの現場の違いなど語っていただいた。映画の魅力をより知るために、こちらもご一読いただければ幸いだ。
【本文敬称略】©「悪魔がはらわたでいけにえで私」製作委員会
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