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「背伸びをしない、等身大の作品です」。夏祭りに行かない人々の一日を描く『お祭りの日』公開。堀内友貴監督と出演・米良まさひろが今の彼らだからこそ描ける物語について語る

タイトル写真。(左から)堀内友貴監督、米良まさひろ
取材・文:後藤健児

 8月31日から9月1日までの、夏の終わりを告げる時間を過ごす者たちの群像劇『明ける夜に』。巧みな構成力と鮮度の高い台詞の応酬、そして夜空に明るさが見えはじめるにつれて、よりひりひりと肌にまとわりつく焦燥感。SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022など各映画祭で喝采を浴びた本作の監督と脚本を手掛けたのが堀内友貴。続いて、新たに描く夏の一日が『お祭りの日』だ。夏祭りを待ちわびない人々が織り成す5つのストーリーが連なり、ときに絡み合う。米良まさひろをはじめとした旬な若手俳優たちによる、どこか間の抜けた愛すべきキャラクターたちのやんわりとした悲喜劇。2023年の第24回TAMA NEW WAVEコンペティションで会場を暖かい笑いで包み、審査員特別賞を受賞。今年11月より、いよいよの一般公開が開始される。
 今回、堀内監督と、過去の堀内作品にも度々出演し、最近では『この動画は再生できませんTHE MOVIE』(谷口恒平監督)での怪談師スズキ役の怪演も印象深い、米良まさひろに制作秘話などをたっぷり語ってもらった。

『お祭りの日』ポスタービジュアル(イラスト:根矢涼香)

 その日、その町では夏のお祭りが行われる。ゆったりした空気の流れる喫茶店で、青年は自身が監督する自主映画のヒロインを演じてもらうため、憧れの女性を必死に説得し続ける。滑稽なその姿を興味深く見つめる店員。バス停では、一向にやってこないバスを待ち続ける人たちがいる。また、ある男女は盗み出した花火玉を勝手に打ち上げようと、よからぬことを計画中。二日酔いで気だるい女性二人組は、エアコンのリモコンを探す旅に出発。それぞれの午後はやがて暮れてゆく。これはお祭りに行かない若者たちの夏物語。

とぼとぼ歩いていた彼や彼女の気持ちがうっすら重なっていく時間が心地よい

 そして、上映を控えた10月、堀内監督と米良にインタビューを行った。(2024年10月、東京・KINOHAUSにて)

――堀内監督は東放学園映画専門学校のご出身ですね。
堀内 入学前は普通の大学に通っていました。卒業後に二年制の映画学校を探していて、東放に入ったんです。
――過去の舞台挨拶などで、今泉力哉監督や山下敦弘監督がお好きだと公言されていたかと思いますが、海外の映画作家では?
堀内 アキ・カウリスマキやジム・ジャームッシュ、リチャード・リンクレイターが好きです。
――ウィットに富んだ会話劇を得意としている人たちですね。個人的にはポール・トーマス・アンダーソンも想起しました。特に群像劇の『マグノリア』あたり。
堀内 あんなにすごくはないですけど、仕組みは確かに(笑)。
――さえない男二人の会話劇『また春が来やがって』を在学中に作ります。なぜこのような作品に?
堀内 学校のシナリオ授業で、葛藤を作るべきとか、喫茶店で向き合って話してはいけないとか指摘を受けていました。それが嫌で……葛藤もないし、ずっと座ってしゃべってるだけの映画で面白いものを作りたいというところから始まって。その頃、米良さんと学校の授業の一環で出会い、彼のイケてないビジュアルがシナリオのキャラクターにピッタリでした(笑)。
米良 (笑)。
――登場人物はそれなりに悩みを抱えてはいるけれど、深く苦悩する様子は見せません。交通量調査のアルバイトをする青年二人が横に並び、なんてことのない会話をするシーンが多くを占めますが、とても面白いです。本作は60分弱の中編でした。その後、初の長編『明ける夜に』を手掛けられます。
堀内 学校を卒業するときになって、最後に長編というか自分たちなりの卒業制作にあたる作品を作ろうと思ったんです。ただ、長編一本のシナリオを書く力はなかった。それで、短編のような複数の種を組み合わせれば、長編にできるかなと。あと、撮影を担当してもらって、いまもずっと一緒に撮っている友達の中村元彦くんと話していて、他の季節は明確な終わりがないけれど、夏は8月31日が終わりという感触があるよねと。そこからストーリーを作っていきました。
――人の生き死にだったりとシリアスな要素も感じられます。
堀内 どのシーンも笑わせたいなと。それの前フリというか、シリアスな部分も客観的に見たら笑えるかなという意味合いで入れました。
――劇中、太宰治がかつて語ったとされる言葉に憤るキャラクターが出てきますね。太宰に恨みがあるんですか?(笑)
堀内 (笑)。太宰がそういうことを書いていたという話を何かのラジオで聞いて、そのときにふざけんなよと思ったんです(笑)。
――そういった小ネタも笑ってしまいました。それでいて、最後にはしんみりした切ない青春映画の趣きも感じられる豊穣な作品でした。続いて、最新作となる『お祭りの日』についてうかがっていきます。この新作も夏映画ですが、夏へのこだわりは?
堀内 一番の理由は撮影時期的に皆の予定が合ったから(笑)。でも、夏自体は好きです。心が一番動いて、書きたくなっちゃうんだなと。
――各エピソードのタイトルが面白いです。「オール・ユー・ニード・イズ・キル・ナカマル」とか。名作タイトルをもじった感じですね。
堀内 「ボウト・フォー・パボチャン」は『ナポレオン・ダイナマイト』の”VOTE FOR PEDRO”Tシャツから(笑)。「ラバーズ・オン・ザ・ハイグランド」は『ポンヌフの恋人』の英題「The Lovers on the Bridge」から。『ファー・フロム・ヒロシマ』は『ミステリー・トレイン』の「ファー・フロム・ヨコハマ」からの影響です。全体的にも『ミステリー・トレイン』っぽい感じでやろうとは思っていました。
――ラストエピソードの「アバウト・ティースブラシ」は?
堀内 考えたんですけど、あんまり思いつかず、映画の題名でありそうなものに(笑)。
――『アバウト・タイム』とか。
堀内 (笑)。

時折に現れる、穏やかではない面持ちにも注目。緩急のつけ方も堀内流だ

――『明ける夜に』もそうでしたが、人間ではないようなキャラクターが出てきます。スパイスのようにファンタジックな要素を差し込むのは、堀内監督作品の特徴に思えます。
堀内 ちょっとフィクションに飛ぶ瞬間が好きなんです。そこは入れたくて入れました。前もって強く意識したわけではないですが、山下敦弘監督の『ばかのハコ船』の終盤、主人公が急にゴム人間になって空気が抜けていってしまうところはすごい好きで、影響があるかもしれません。
――ストーリーを作っていく際、キャラクターやシーン、ダイアローグなど、どこから思い浮かぶのでしょうか。
堀内 会話から浮かびますね。そこから誰が、どこでそれを話していると面白いかなと思いついていき、形にしていきます。
――会話の内容や言葉づかい、しゃべり方はどのように考えていますか?
堀内 自分のしゃべり言葉というか、脳内での会話をそのまま書いていきます。でも、そのままだと自分すぎてしまうから、役者さんがしゃべりやすそうに現場で変えています。
――各エピソードや登場人物にはご自身の体験も反映されている部分があるとのことですが。
堀内 まだ若いし、自分が体験したり、実感がこもっていないと、なかなか脚本や映画にすることは難しく、どうしても自分が体験した範囲のことに。でも、それは無理に背伸びしないよう意識的にというか、自分ができることの中でやっていこうと。
――花火玉を盗み出すエピソードでは、ご自身で演じているキャラクターが出てきます。
堀内 自分が出ることありきでしたが、あのパートだけシナリオが書けなくて……。
米良 僕が大まかには書きましたね。そこから二人で仕上げていきました。
――あのエピソードは米良さんが演出と脚本協力としてクレジットされています。
堀内 今回、5つのオムニバスで他の4つはそれぞれ互いに対応しているんですが、花火玉の話は全編に関わってはいるけど、独立した話でもあるんです。花火玉を盗む話であることだけは決まっていたけど、そこからが決まらなくて。そうしたら、米良さんが「じゃあ、俺が書くよ」と(笑)。
米良 最初の喫茶店でのエピソードに出てくる女性が再び登場することは決まっていて、あんなきれいな人がすっごい嫌な彼氏とつき合ってたら、面白いなと思い、サイテーな男の話にしました(笑)。
――米良さんは前々からシナリオ書きや演出に興味が?
米良 特にそういうわけでは(笑)。でも、劇団をやっているときに書かざるをえない瞬間があり、それで書くことは往々にしてありますね。演出に関しては、今回やってみて初めてその楽しさだったりとわかることが多かったです。

米良がシナリオに参加した「ラバーズ・オン・ザ・ハイグランド」。鍋の中に入っているものは……?

――『また春が来やがって』では「人生最後の日」というフレーズが繰り返し発せられます。『明ける夜に』と『お祭りの日』はある一日の話。限られた日というシチュエーションに惹かれるものが?
堀内 いまの自分が書けるものとして、一日の物語が一番書きやすいし、そこの中で考えていくのが自分の手の届く範囲みたいな感じはあります。これからは、一日じゃないものを書かなきゃなとは思っていますが、やっぱり普通の日常の中でいろいろなことがあった一日というのは好きだし、心が動きます。その瞬間をずっと書きたいという気持ちはいまもずっとありますね。
――映像制作集団・世田谷センスマンズの北林祐基さんが出演、林真子さんが美術を担当しています。
堀内 以前から友達だったんです。過去に学校で撮った短編に北林さんが出演してくれて、そこから林真子さんともども仲良くなりました。
――ビジュアルイラストを根矢涼香さんが手掛けられております。
堀内 僕は茨城県出身なんですが、『明ける夜に』を茨城のあまや座で上映したとき、ゲストで根矢さんに来ていただいたんです。そこからのご縁でお願いしました。
――エンディングには、音楽ユニット・毎日ユニークの歌が流れます。
堀内 以前から僕とスタッフの皆がすごい好きだったんです。脚本を書いている段階から、最後に毎日ユニークの『トレジャーアイランド』が流れたら最高だなと思っていて。面識はなかったんですが、ダメ元でお願いしたら快諾してくれました!

毎日ユニークの歌が映画の余韻を彩る

――米良さんのことにもうかがっていきます。堀内監督が米良さんを起用し続ける理由は?
堀内 面白いからですかね(笑)。あと、好きなものが似ていて、話していても伝わりやすい。面白いと思ったものが似ているので、起用している感覚はなく、一緒に作っている感じです。
米良 僕は起用されてます(笑)。
――現場での堀内監督からの指示や演出はどのようなものでしょうか。現場ではピシッと?
米良 ピシッとはしてなくて、それでやりやすいこともあります。堀内くんの書いたものに出ている自分が一番、やりやすい状態でやっているんだなと、最近はよく思います。いいゆるさがあり、現場で急に「変な顔してください」と言われて、何の理由かわからなくてもそう言われることが面白いなと。僕の中で、わくわくするオーダーなんです。

米良まさひろが演じる、さえない自主映画監督。その痛々しさがおかしい

――会話シーンの多い堀内作品ですが、リハーサルはどの程度?
堀内 ちゃんとリハーサルをやって、リハでシナリオから膨らませ、最終的な完成を作っていきます。
――アドリブなどは?
堀内 リハでアドリブを入れてもらう場合は結構ありますね。
――米良さんから意見などは?
米良 こうしたほうがいいんじゃないですか、とかはあまり言わないですが、これはしたい、みたいなことはあります(笑)。以前撮影した『ビューティフル・コンビニエンスワールド』で僕が鼻血を出したいと言っていたら、出させてくれた(笑)。
――最後にメッセージがありましたら。
米良 不思議な映画なので、試写で観たときにこれは大丈夫かなと(笑)。ウケるのかと不安になるんですけど、やりたいことはやれている映画です。どんな反応でもかかってこい!と思います(笑)。
堀内 当時、これが面白いと思っていることをなんでもやろうと考え、撮りはじめました。自分の作品として、背伸びをせず、うまくいってなさも含めて等身大の作品です!

宣伝担当の工藤憂哉(中央)と共に。米良の着ているビートたけしトレーナーが熱い

【本文敬称略】
『お祭りの日』 2024年11月2日(土)ユーロスペースほか全国順次公開出演:米良まさひろ/斎藤友香莉/須藤叶希/五十嵐諒/湯本充/塚田愛実/花純あやの/堀内友貴/中村悠人/岡田直樹/北林佑基
監督・脚本:堀内友貴/撮影:中村元彦/録音:堀内萌絵子/美術:林真子2024/89分/スタンダード/カラー/ステレオ/日本
製作:セビロデクンフーズ 配給:KUDO COMPANY



©️映画『お祭りの日』製作委員会


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